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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

小説

「山椒魚」 1948

★★★☆☆ あらすじ 体が大きくなりすぎて、自分の住処から出られなくなった山椒魚の悲哀を描いた表題作他、全12編を収録した短編集。 感想 どの短編もちゃんとしたオチがある終わり方でなく、深く余韻を残すものとなっている。だがしっかりと考え抜かれたうえで…

「わたしを離さないで」 2005

★★★☆☆ あらすじ 「介護人」として「提供者」の世話を続ける女は、成人するまで暮らしていた全寮制の学校での思い出を振り返る。 感想 介護人である主人公が、成人するまでを過ごした全寮制の学校時代の暮らしや友人たちとの思い出を回想する物語だ。主人公の…

「性的人間」 1968

★★★★☆ あらすじ 裕福な家庭で育ち、仲間と怠惰な日々を過ごしていた男が、やがて痴漢を行なうようになる表題作のほか、「セヴンティーン」「共同生活」の3つの中編小説を収録。 感想 表題作は、退廃した生活を送っていた主人公が仲間から離れ、痴漢をするよ…

「さようなら、私の本よ!」 2005

★★★★☆ あらすじ 別荘で怪我の静養をする老作家は、絶縁状態から再び交流を持つようになり、隣に住み始めた幼なじみが企てる活動に巻き込まれていく。「おかしな二人組」三部作の三作目。 感想 三部作の三作目とは知らずに読み始めてしまい、最初は登場人物ら…

「異常【アノマリー】」 2020

★★★★☆ あらすじ フランスからアメリカに向かった飛行機は着陸寸前にかつてない乱気流への突入を余儀なくされるが、その後、乗客たちの身に不思議なことが起きる。ゴンクール賞受賞作。 感想 序盤は多様な人物のそれぞれの日常が一人ずつ順番に描かれていく。…

「高瀬川」 2003

★★★★☆ 内容 作家の男が女性記者とホテルで一夜を過ごす様子を描いた表題作のほか、全4編の短編集。 感想 各ページに文字がまばらに並ぶ作品や、二段組と一段組が混じった構成の作品など、実験的な作品が並ぶ。内容も難解なものから読みやすいものまで多様だ…

「この人の閾」 1995

★★★☆☆ あらすじ 仕事で小田原を訪れるも空き時間を持て余すことになった男は、かつての大学の先輩でこの地に暮らす女性に会いに行く。芥川賞受賞作の表題作を含む4つの短編集。 感想 なにか劇的な出来事が起こるのではなく、主人公が内面で思考を巡らし、心…

「ザ・ロード」 2006

★★★★☆ あらすじ 灰が降り積もり、動植物が死滅した荒廃した世界で、南に向かう男と幼い息子。 感想 人類のほとんどが死んでしまい、生き残った者たちが生存競争を繰り広げる世界を旅する親子が主人公だ。ゾンビ映画や「マッドマックス」などで見られる、よく…

「女のいない男たち」 2014

★★★★☆ あらすじ かつて付き合っていた女性の死を告げる電話が深夜にかかって来る表題作、映画化された「ドライブ・マイ・カー」を含む全6編収録の短編集。 感想 久しぶりに村上春樹を読んだらそのすごさを実感した。まず読みやすい。これは本当に重要で、評…

「シーソーモンスター」 2019

★★★★☆ あらすじ バブル時代の嫁姑問題を描いた表題作と郵便配達人が巨大な陰謀に巻き込まれる「スピンモンスター」の2つの中篇を収録。 共通する世界観で8人の作家がそれぞれ異なる時代の物語を描く「螺旋プロジェクト」の作品のひとつ。本書の二つの物語は…

「グッバイ、コロンバス」 1959

★★★★☆ あらすじ プールで知り合った女子大生と付き合い始めた図書館員の若者。別邦題は「さよならコロンバス」。 感想 漫然と日々を過ごす図書館員の主人公が、裕福な会社社長の娘と付き合い始める物語だ。やがて住む世界の違いが二人に影響を与えていく。た…

「嘘と正典」 2019

★★★☆☆ あらすじ マルクスと共に「共産党宣言」を著したエンゲルスの運命を変え、共産主義の誕生を阻止しようとするCIAを描いた表題作他、全6篇のSF短編集。 感想 全6編の中で一番面白かったのは、表題作の「嘘と正典」だ。歴史改変ものだが、最初に少し前振…

「記憶の盆をどり」 2019

★★★☆☆ 内容 時々記憶があやふやになってしまう物書きの男の家に謎の女がやって来る表題作他、全9編の短編集。 感想 収められた短編9編がどれも毛並みの違う物語に仕上がっており、まずそれに感心する。妖怪モノや時代劇ミステリ風、説話調など、各短編ごと…

「推し、燃ゆ」 2020

★★★☆☆ あらすじ アイドルの推し活に全力を傾け、その他がすべて疎かになってしまった女子高生。芥川受賞作。 感想 序盤は何気ない主人公らの会話や行動がリアルに描かれて、なんとなく女子高生の日記を隠し読みしているような後ろめたさがあった。ただ主人公…

「三体」 2008

★★★★☆ あらすじ 高名な科学者の自殺が相次ぎ、科学界に不穏な空気が漂う中、突然訪れた警察に各国の軍や学者からなる会議に連れていかれた科学者の男。 「地球往事」三部作の第一作。 感想 どんなSFが繰り広げられるのだろうかと期待しながら読み始めたら…

「繁花」 2012

★★★☆☆ あらすじ 中国激動の時代を生きる上海の人々の様子が、三人の男性を通して描かれる。 感想 中国・上海の現在(90年代頃?)と過去(60~70年代)が交互に描かれていく。三人の男がメインとなっているが、全体を貫く物語があるわけではなく、彼らの周辺…

「残像に口紅を」 1989

★★★☆☆ あらすじ 章が進むごとに使えない文字が一つずつ増えていき、同時にその文字を含む名前を持つ存在も消えていく世界で、主人公である小説家が何とか作品を成立させようと奮闘する。 感想 小説から使える文字を一文字ずつ減らしていくとどうなるのかを試…

「強盗プロフェッショナル」 1972

★★★☆☆ あらすじ 改築のため銀行が仮営業の店舗として使用しているトレーラーハウスを、丸ごと奪う作戦を持ち掛けられた犯罪の達人ドートマンダー。ドートマンダー・シリーズ第2作目。 感想 主人公一味らが銀行を建物ごと奪おうとする銀行強盗ものだ。まずは…

「大いなる助走」 1979

★★★★☆ あらすじ 地方の同人誌に小説を書いたところ、直木賞的な文学賞の候補となり、受賞を確実にするために奔走することになった青年。 感想 当時の文壇、文学界を面白おかしく描いた物語だ。様々なエピソードが盛り込まれているが、中でも鮮烈に登場した新…

「セロトニン」 2019

★★★★☆ あらすじ 高収入の仕事に就いて資産もあり、恋人もいて恵まれた生活を送る中年の男は、ある日蒸発することを決意する。 感想 何もかもが嫌になってしまった中年男が主人公だ。冒頭の、スペインの別荘で若い恋人と余暇を過ごすという他の人なら羨みそう…

「あひる」 2016

★★★★☆ あらすじ 両親がアヒルを飼い始めたことで起きた日常の変化を描く表題作の他2編を収録した短編集。 感想 シンプルで分かりやす文章で綴られる短編集だ。 表題作は、アヒルを飼い始めた両親が、近所の子供たちと交流を持つようになる様子を娘の視線で…

「炎環」 1964

★★★★☆ あらすじ 鎌倉幕府成立前後の出来事を、各人物の目を通して描く連作短編集。直木賞受賞作。 感想 源頼朝の挙兵から鎌倉幕府が成立し安定期を迎えるまでが、短編ごとに主人公を変えながら描かれていく。今やっている大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を見てい…

「さらば、シェヘラザード」 1970

★★★★☆ あらすじ 締め切りが迫るもなかなか筆が進まず、焦るポルノ小説のゴーストライター。タイトルのシェヘラザードは、「千夜一夜物語」の登場人物で語り手である女性から取られていく。 感想 普通に小説が始まったかと思いきや、第一章が終わった後にまた…

「今夜、すべてのバーで」 1991

★★★★☆ あらすじ 若い頃から酒を飲み続け、ついに限界を迎えて入院することになった男。 感想 今後飲めなくなるからと、入院前にワンカップ酒を二つ、立て続けに飲み干してしまうようなアル中の男が主人公だ。何となく依存症になる人間はだらしがなく、意志が…

「日曜日だけの一カ月」 1975

★★★☆☆ あらすじ 不倫をするなど性的問題を起こした牧師は、1か月の隔離生活を送ることになる。 感想 性的問題を起こし隔離生活を送る主人公が書いた、手記の形式を取る小説だ。毎日書くように指示されたため、一日一章で一か月分、31の章からなっている。そ…

「鑑識レコード倶楽部」 2017

★★★☆☆ あらすじ 週に一度レコードを持ち寄り、コメントや評価は禁止でただじっくりと鑑識するように音楽を聴く倶楽部を立ち上げた主人公と友人。原題は「The Forensic Records Society」。 感想 コメントや評価を言い合うことなく、ただ持ち寄ったレコードを…

「寝相」 2014

★★★☆☆ あらすじ 病後の祖父と狭い家で暮らし始めた孫の若い女。表題作の他「わたしの小春日和」「楽器」の3つの物語を収録。 感想 表題作は、老人と若い女の二人暮らしの様子が淡々と描かれていくのかと思っていたら、次第に家族四代の歴史が語られる壮大な…

「短くて恐ろしいフィルの時代」 2008

★★★☆☆ あらすじ 小さな国とそれを取り囲むように存在する大国。小国の異変をきっかけに諍いが起き、フィルという名の男が大国で台頭する。中編小説。 感想 小国の人口は7人。だけど国土が狭すぎて1人しかいることが出来ず、他の6人は大国の場所を少しだけ…

「なめくじに聞いてみろ」 1962

★★★☆☆ あらすじ 父親が育てた弟子の殺し屋たちを倒すために上京してきた息子。別タイトルは「飢えた遺産」。 感想 父親の弟子の殺し屋たちを、主人公の息子が一人ずつ消していく物語。ただ順番に弟子を見つけ出してきては倒していくのではなく、途中から敵が…

「ならずものがやってくる」 2010

★★★★☆ あらすじ 窃盗癖のため精神科に通う女性を起点に、その関係者たちの過去や未来のある一時期の様子が描かれていく。ピュリッツァー賞、全米批評家協会賞受賞作。原題は「A Visit from the Goon Squad」。 感想 窃盗癖のある女性の物語から始まり、その…