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「若い読者のための第三のチンパンジー: 人間という動物の進化と未来」 2015

若い読者のための第三のチンパンジー: 人間という動物の進化と未来

★★★★☆

 

内容

 チンパンジーとたった1.6%しか遺伝子が違わない人間は、他の動物とはどのような違いがあり、またどのような共通点があるのか、考察する。

 

感想

 人類の起源から進化の歴史を紐解きながら展開される様々な話題がとても面白い。人類が今と同様の脳の大きさになってからも、しばらくは目覚ましい進化があったわけではなく、言葉を話す機能を獲得することがきっかけで、人類は爆発的に発展したという話。

 

 狩猟生活から農耕生活への移行はいいことづくめのような印象があるが、動物の肉などのタンパク質から、小麦などのでんぷん質の摂取に変わったことにより、虫歯が増えたり、体格が小さくなったりなどの変化が生じ、また人口が密集するようになったことにより伝染病が広まったり、天候不良による作物の不作で一気に集団が壊滅的なダメージを受けてしまうデメリットもあったという話は興味深い。

 

 家畜にも向き不向きがあり、試行錯誤の末に人に馴染みやすい、人の手によって繁殖がしやすいなどの家畜の諸条件を備えた現在の牛、豚、馬などに落ち着いた。これまで当然のように牛、馬などを家畜としてみていたが、長い歴史の中での試みの結果なのかと、認識を新たにさせてくれる。

 

 東西に長いユーラシア大陸と南北に長いアメリカ大陸で文明の発展に違いが見られたのは、気候が大きく影響している。東西では概ね同様の気候のため、同じ品種の作物が栽培できたのでその範囲を拡大させることができたのに対し、南北の場合は気候の変動が激しいために、作物の品種が環境に適応できる変化を待たなければならなかった。そのため、なかなかその範囲を広げることができず、それが発展の速度に差異を生じさせたという説は面白い。文明の発展には地理的な条件も関わっている。

 

 そして、人類が新天地に到達するたびに数々の動物たちを絶滅に追いやってきた話。人間に無防備な動物たちが、その対処法を身につける前に一網打尽にしてしまった。元々の生態系のバランスを崩してしまうからと、様々な地域で外来種の駆除を行っているが、それを言ったら最も駆除すべきは人類なのではないかとすら思えてしまう。

 

 また動物の様々な生態を観察して、人類との違いや共通点も考察している。ライオンに狙われたガゼルは、その場で高く飛び跳ね、俺はこんなに俊敏だから捕まえられないよ、互いに無駄なエネルギーの消費はやめようよと、ライオンに対してある種のコミュニケーションを図るらしい。人間だけでなく動物たちもコミュニケーションを取っている。

 

 それから、孔雀などの広げれば美しいかもしれないが、どう考えても生活には不便そうな大きな羽根などを特徴的なものを持つ動物たち。「こんな生きるのには邪魔なものを持ってるけど、それでも実際生き残っています。それにこの羽根きれいでしょ。」みたいな感じで、雌に優秀さをアピール出来るので、モテてたくさんの子孫を残すことができて、ますますその遺伝子が強まっていく。モテる奴だけがその遺伝子を残していく性淘汰という概念は面白い。

 

 この辺り、独特のファッションでアピールするヤンキーの生態と似ている。実際、ヤンキーは早婚で子沢山なので、遺伝子をたくさん残すという意味では間違っていない。ヤンキーの生態を観察することで、逆に動物の生態も解明できるのかもしれない。

 

 その他、なぜ生物は死ぬのか、エネルギーとトレードオフの考え方や、なぜ宇宙人と遭遇しないのか、宇宙時間でのものの見方、など生命に関わるさまざまな話題が次から次と出てきて、止まらないほどの面白さ。

 

著者 ジャレド・ダイアモンド

 

編集 レベッカ・ステフォフ

 

文庫 若い読者のための第三のチンパンジー (草思社文庫)

文庫 若い読者のための第三のチンパンジー (草思社文庫)

 

 

 

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