★★★☆☆
あらすじ
餌をとるために飛ぶのではなく、飛ぶこと自体に魅了された一羽のかもめ。これまでの三部構成に新たに第四部が追加された完全版。
感想
ページ数も少なく、簡易な言葉で綴られた寓話的な作品。当時は世界中で大ベストセラーになったというが、正直そこまでの内容ではないような気がする。ただ鳥の自由さを想起させるタイトルだとか、手にとってみると読みやすそうで程よい文量だとか、深読みしやすく議論が盛り上がりそうな内容だとか、いろいろな要素が積み重なってヒットしたのだろう。
ヒットの理由として当時のヒッピームーブメントとうまくリンクした、と言われているが、読んでみるとそんな感じはしない。ヒッピーというと、クスリやって音楽聞いてダラダラしている、みたいな、無理しないで自然にあるがままにというイメージだが、かもめのジョナサンは自分自身の飛行能力の限界を突き止めるために相当無理をしている。どちらかというとアスリートっぽい。
そしてその賛同者たちと集団生活を送るようになるが、やがては一般のカモメたちに自らの能力を伝えようとする所は宗教っぽい。よく考えてみれば、滝行やら座禅やらで身体を痛めつけることで悟りを開こうとするのと、ジョナサンの飛行の限界に挑むことでより良い精神世界を得るというのも似ているのかもしれない。
新たに加わった第四部はまさに宗教のはじまりを想起させるものになっている。しかも、神に祭り上げられてしまったジョナサンの意図していた事とは全く別の方向に進んでいってしまっている。このあたりもきっと実際の宗教もそういうことなのだろう。皮肉が利いている。
第三部までで終わるのと第四部があるのとでは随分読後感が違う。第三部までだと単純に爽やかな明るさがあるが、第四部まで読むと希望の光が灯るような、そんな感じ。
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