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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「生は彼方に」 1978

生は彼方に (ハヤカワepi文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

  詩人として生きた男の人生。

 

感想

 いろんなテーマが含まれている様な長編小説。その中でも青春、若さゆえの醜さが強く感じられる内容となっている。初めて得た恋人への嫉妬や独善的な要求、自己愛の強さと他者の視線との間で揺れるアイデンティティ、母親からの独立を求めながらも庇護を求めているなど、この時代に特徴的な姿が描かれ、様々な欺瞞や矛盾を浮かび上がらせている。

 

 思えば青春時代は自己を確立する時代で、過剰に自意識が高かったり他者の視線が気になったりする中で試行錯誤し、世間との距離感を測っている。それが時にやり過ぎで、後から思い出すと恥ずかしさのあまり居ても立ってもいられなくなったりするわけだが、第三者の視線から見るこの主人公の振る舞いは酷すぎて見ていられないレベル。微笑ましいなんてものではなかった。

 

 

 自分をすごく見せるために誰かの真似をしたり、愛こそすべて、みたいになるのは良くある話だが、他人の人生、そしてその家族の人生をめちゃくちゃにしてしまうのはやり過ぎ感が半端ない。しかも、それでも自分は間違っていない、正しい事をした、と思っているのが恐ろしい。

 

 それからその裏で社会で進行している共産主義の怖さが垣間見られるのも印象的。ほとんど関心がなかった主人公やその母親が、主流派が言っているようなことを口にしてみたら気持ちよさを感じることを発見したり、理想に燃え熱狂していた人々がいつの間にか周囲を気にして言葉を選んで話すようになったりと、違和感が描き出されている。

 

 こうやって人々は自分の言葉で語れなくなっていってしまうのかもしれない。怖いのは共産主義というよりも全体主義といった方がいいだろう。他人に多くを強いるような社会は窮屈で生きづらい。他人に強要する立場だった人もやがては自身の自由が失われていることに気付く。

 

著者

ミラン・クンデラ

 

生は彼方に (ハヤカワepi文庫)

生は彼方に (ハヤカワepi文庫)

 

 

 

登場する作品

葬送行進曲(ソナタ 第2番 変ロ短調 第3楽章)ショパン

 

 

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「脳科学者が教える 本当に痩せる食事法」 2019

脳科学者が教える 本当に痩せる食事法

★★★☆☆

 

内容

  脳科学の見地から見た本当に痩せる食事法を紹介する。

 

感想

 世の中に様々なダイエット法があり、それにより成功した人はたくさんいるが、その後にほとんどの人がリバウンドすることになる。それは多くのダイエット法が個人の意志力に基づいて行われているが、意志力というものは体力と同じく増減するものなので、疲れた時や弱っているときは誘惑に負けてしまうからだ。そしてタガが外れてズルズルとリバウンドしてしまう。

 

 それならば脳科学を駆使して、出来るだけ意志力を必要としないダイエットを行おう、というのが著者の主張だ。科学的な知見を基にしているだけに説得力はある。そして、まずは脳に悪さをしている食物を排除することが大事だと訴える。それが糖類と穀粉。正直、結局は糖質制限的な事か、と思ってしまった自分がいるが、著者の次の言葉はインパクトがあった。

 

 実のところ、糖類と穀粉に対してはまったくちがう見方をしていただきたいと思っている。人々は糖類と穀粉を食品として考えがちだ。

 これらをドラッグとして見るようになっていただきたい。

p68

 

  糖類と穀粉が、どんなに食べても満腹感を感じないようにし、食べ物への渇望を強めているという。意志力が弱ったときにもたげてくる誘惑の原因と言える。これらを絶つことが出来れば、激しい食への欲求に苦しむことがなくなり、正しい食生活を送れるようになるはずだ。

 

 理屈は理解できるのだが、脳の仕組みをうまく活用すれば、好きな物を食べながらでも痩せられる、というのを期待していたので、結構がっかりしてしまった。食は単純にエネルギー補給というものではなくて、文化だったりコミュニケーションの手段だったりするので、そこであまり食べ物を拒否するような行動はしたくないというのはある。

 

 

 ベジタリアンだったり、宗教的な理由で食べられないものがある人たちは、毎回の食事でしている事ではあるのだろうが、毎度の食事の度にこれは使うなとかお願いするのは結構しんどい。さらにはそういった食事法をしていると語るだけで、なぜか自分の食事を否定されたと勘違いして怒り出す人もいたりして、メンドくさかったりする。まあドラッグを勧められたと思って、断固拒否すればいいのかもしれないが。もしくは糖類と穀粉は悪、という世間の共通認識が出来上がるのを待つか。

 

 本書で紹介される食事法はタンパク質を何グラム、油を何グラムと各食事ごとに決めて行う方法。しかもかなり厳格で、電子計量器を使って1グラムの誤差も許さない。内容は細かいのだが、説明が雑な事もあってこのあたりから、この食事法をやることはないな、という感じで読んでいた。多分ご飯を食べてもいい分、糖質制限よりは悪くないかもしれないが、糖質制限同様に時間と金に余裕がないと難しそう、というのが感想。

 

 ただし、その中で出てくる成功させるコツのようなものは色々と参考になった。ダイエットするときは運動をするべきではないとか、空腹や満腹になっても動揺しないとか。確かによく考えてみると空腹になるとちょっと慌てるところがあるかもしれない。でも今どき、食べ物が手に入らない事などまずないのだから、落ち着いて次の食事まで空腹感を噛みしめていればいいのか。これらのコツを上手く活用しながら、自分なり取り組んでいきたい。著者は絶対そういうのは無理、と言いそうだが。

 

 ところで冒頭で紹介される著者の経歴がすごい。10代の後半にはアルコールやタバコ、ドラッグ漬けになり、そこから何度か浮き沈みして今は大学の準教授。ドロップアウトしたら終わりの日本ではあり得ない経歴だ。それから、ドラッグをやったら中毒になるまでやってしまうような人だから、糖類・穀粉抜きの食事もやり抜けるのでは、と思ってしまった。何でも徹底的にやらないと気が済まない人なのかもしれない。一応は多くの人が試し、大きな成果を収めているようではあるが。

 

 それから、アメリカと日本の食事の内容はかなり違うので、この手の本では、日本でやるならこんな食事を、みたいな情報が訳者などから語られることが多いのだが、この本ではそのようなことは一切なかった。

 

著者

スーザン・P・トンプソン

 

脳科学者が教える 本当に痩せる食事法
 

 

 

登場する作品

 「ラルース料理百科事典〈1〉ABAーBOC (1975年)(ラルース料理大事典)」

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WILLPOWER 意志力の科学

チャイナ・スタディー 葬られた「第二のマクガバン報告」(合本版)

ポジティブ心理学の挑戦 “幸福"から“持続的幸福"へ

 

 

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「息吹」 2019

息吹

★★★★☆

 

内容

 表題作「息吹」を含む9つのSF短編集。 

 

感想

 どの短編も読みごたえのある内容。気軽に読めるというよりは、じっくりと味わってどっしりと疲れがくるような濃厚さがある。一つの短編を読み終えるたびに本を閉じ、しばらく考え込んでしまうような深みのある作品群。

 

 中でも印象的だったのは、AIBOを連想させるようなAIを持ったヴァーチャルペットについて書かれた「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」。本書の中では一番長い作品で、短編というよりも中編といったボリュームの作品。

SONY AIBO ERS-1000 アイボーン付属

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  • メディア: おもちゃ&ホビー
 

 

 感情移入してしまったAIを持つヴァーチャルな存在に対して、どのような関係を持つべきなのか、という問いかけがなされている。でも、これは実際の子育てと似ているかもしれない。親としては子供を危険な目に合わせたくないし、守ってやりたいと思うものだが、子供はやがて成長し、親が望まないことをやりたがるようになる。その時に親には責任があるから、と子供の意志や希望をすべて排除してしまっていいのか。いつかはそれを尊重してやらなければいけない時が来る。ただ、相手が人間じゃなくコンピューターだと、愛着を持っている人と持っていない人とでは意見が分かれてしまう部分ではある。どうせコンピューターだからどうでもいい、となる人も当然いる。

 

 そういった物語の中で、発展していくペットとの関係の結び方が興味深かった。仮想世界の中にいたペットを、小さなロボットにログインさせて、現実世界で互いに触れ合えるようにしたり、さらには現実世界に呼び出しておいて、端末を操作して別の仮想現実にログインさせたりする。そして、現実世界から仮想現実を操作することを、ペットはつまらないと不平を言ったりするのも、なんだかわかるような気がした。

 

 

 現実世界でヴァーチャルペットに権利を与えるために法人化しようとするアイデアも面白い。人間じゃない意思を持つものには、法人格を与えてしまえば、人間と同じ扱いを受けることができるということか。

 

 その他、動画でライフログを取り、検索していつでも過去を振り返られる世界を描いた「偽りのない事実、偽りのない気持ち」も考えさせられた。過去の思い出が、すべて自分に都合よく書き換えられていたという事を知ってショックを受ける、というもの。これは誰もがやっている事で、そうすることで正気を保つことが出来ているともいえる。ただ、歴史修正主義者は非難されるが、個人は自分の歴史を都合よく修正して生きているのか、と思うとちょっと複雑な気分になった。

 

 時間をかけてゆっくりと読みたいような作品ばかりがラインナップされた短編集。

 

著者

テッド・チャン

 

息吹

息吹

 

 

 

登場する作品

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ヴァイル:三文オペラ(全3幕)(新クルト・ヴァイル版)

マック・ザ・ナイフ

神曲【完全版】

 

 

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「愛のようだ」 2015

愛のようだ (中公文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 40代にして免許を取った男は、車を購入して仲間と遠出を繰り返す。

 

感想

 東京から伊勢神宮、草津温泉、富山、岡山と、各地へ車で向かう道中が描かれる。しかし、途中で同乗者と運転を交代しながらではあるが、主人公は免許を取ったばかりなのにかなりアクティブだ。

 

 そして旅行の話ではあるが、目的地に到着後や帰路の話についてはほぼ省略されていて、行きの道中の主に車内の様子しか描いていないのが面白い。でも、好きな曲をかけたり、同乗者と会話したり、お菓子を食べたりとドライブは楽しい、というのは良く分かる。なんなら目的地が近づくと、ちょっと寂しくなるような気分になることすらある。このままずっと運転を続けていたいと。

 

 

 漫画関連のライターなどをしている主人公を中心としたメンバーなので、ドライブする車内ではアニメソングがかかったり、漫画の話題が出たりする。また、そこからあらぬ方向に話が進むことも。そんな中で、諸事に関する著者の様々な意見、考察が披露されていて興味深い。

 

皆、どれだけ「物腰の丁寧な人間」に対して距離を感じているんだか。

p199

 

 確かに、人は「物腰の丁寧な人間」に対して、実は裏があるんじゃないか、本当はヤバい奴じゃないか、とか勝手に想像しがちだ。こういう普段あまりにも普通に行っていて、その行為自体を言語化していないような出来事を、各所で生真面目に指摘していてハッとする。まぁまぁと適当に流してきた事が、急に明確な何かに変わる感覚だ。

 

 文庫版の帯には「著者史上初「泣ける」恋愛小説」と書かれているのだが、ほとんど恋愛小説とは言えないような内容が続く。ただ、最後の数ページの畳みかけるような内容で、急に恋愛小説らしさが出てきて、確かに涙が出そうになった。ラストはまさかあのアニメの曲でグッとくるなんて。

 

 そして振り返ってみると、恋愛小説とは言えないような内容だと思っていたそれまでが、ボディブローのような役割を果たしていたことに気付く。何気ない出来事や会話、そして主人公の言葉がつながりを生み、伏線となっていた。

 

 確かに恋愛しているからと言って何かにつけて恋愛の話をしてばかり、ということはなくて、心のどこかで常にそれを抱えながら、普通の顔をして他の事をしている、というのが本当かもしれない。そして何かの拍子でその感情が思わず表面に出てくる。妙にリアリティを感じる恋愛小説だった。

 

著者

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愛のようだ (中公文庫)

愛のようだ (中公文庫)

  • 作者:長嶋 有
  • 発売日: 2020/03/19
  • メディア: 文庫
 

 

 

登場する作品

静かなるドン1

こちら凡人組1

迷走王 ボーダー : 1 (上) 迷走王 ボーダー (アクションコミックス)

アオイホノオ(1) (ゲッサン少年サンデーコミックス)

ONE PIECE カラー版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

NARUTO―ナルト― カラー版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

君に届け リマスター版 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)

キン肉マン 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

聖☆おにいさん(1) (モーニングコミックス)

ハロー張りネズミ(1) (ヤングマガジンコミックス)

トラック野郎 御意見無用

愛をとりもどせ!!

ユリア・・・永遠に

大都会[クリスタルキング][EP盤]

カーズ (字幕版)

SEVEN DAYS WAR(完全生産限定盤)(アナログ盤) [Analog]

「MAY」

オバタリアン(1) (バンブーコミックス 4コマセレクション)

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あの頃ペニー・レインと (字幕版)

コーヒー・ルンバ

まんが道(1) (藤子不二雄(A)デジタルセレクション)

プロゴルファー猿(1) (藤子不二雄(A)デジタルセレクション)

モジャ公 1 (サンコミックス)

ドラえもん(1) (てんとう虫コミックス)

さすらい

怪物くん(1) (藤子不二雄(A)デジタルセレクション)

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地上の星

ヘッドライト・テールライト

ビューティフル・ネーム

敗れざる者たち

フラれて元気

ボヘミアン・ラプソディ

ウェインズ・ワールド (字幕版)

オースティン・パワーズ(字幕版)

走れ!ハイエース

人のセックスを笑うな (河出文庫)

 

 

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「ダスクランズ」 1974

ダスクランズ

★★★☆☆

 

あらすじ

 ベトナム戦争末期にプロパガンダ政策を担当するアメリカ人と、アフリカ南部で象狩り遠征に出かけた開拓民の男、二人の物語。ノーベル賞作家のデビュー作。

 

感想

 以前読んだこの作家の作品「恥辱」が面白かったので、デビュー作に手を出して見たのだが、全然作風が違って面食らってしまった。特に前半のベトナム戦争の対策を考えるアメリカ人の物語は、抽象的で観念的な文章が続き、読んでてかなりしんどかった。デビュー作ということで相当気合が入った文章のように感じる。

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 後半のアフリカ奥地に遠征し、原住民と出会った白人の物語はまだ読みやすかったが、それでも時々筋の通らない話の流れがあったりして、骨のある内容。翻訳に問題があるのでは、と少し翻訳者を疑ってしまったが、ある人物の冒険についての大学の講義内容を書籍化したものを翻訳したもの、という複雑な体裁を取っているので、敢えてそうしているということだろう。各段階を経るごとに、酷い出来事があからさまに中和されていっているのが興味深い。自分の都合のように歴史は修正されていく。

 

 あまり関係のない話が前半と後半で語られて、二つの短編ではなくこれで一つの物語なのかと思ってしまうが、共通点は白人が他民族にひどい危害を加えるということだろうか。アメリカはベトナムに枯葉剤をまき、アフリカの白人開拓民は現地の原住民を虐殺する。

 

 銃は自分以外の他者が存在してほしいという希望の象徴だ。銃はわれわれが旅する空間内で孤絶することに抗う最後の防御手段だ。銃は世界とわれわれのあいだの調停者であり、それゆえわれわれの救済者だ。

p133

 

 そしてどちらも、それがさも当然かのようにふるまっているのだが、きっとそれは本当に何の罪の意識もなくナチュラルにそう思っているのだろう。そんな風に問題にすら気づいていないことが問題では?と訴えかけているような気がした。ただ、分かっていない人に分からせるということはとてつもなく難しい事ではあるが。

 

 それでも、もしかしたら深層心理では何らかの罪を感じているのかもしれない。アメリカ人がどこかおかしくなってしまったように。アフリカ奥地を冒険した男の物語が修正されていったように。

 

 

 内容はあまり良く分からなかったというのが正直なところなので、巻末の訳者による解説はかなり助けになった。次にこの作家の別の作品に手を出すのが怖くなってしまったが、また気が向いたら読んでみようとは思う。

 

著者

J・M・クッツェー

 

翻訳 くぼたのぞみ

 

ダスクランズ

ダスクランズ

 

 

 

登場する作品

ハーツォグ (1970年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)

ヴォス―オーストラリアの探険家の物語〈上〉

 

 

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「ヌメロ・ゼロ」 2015

ヌメロ・ゼロ

★★★☆☆

 

あらすじ

 創刊のための試作版を準備している新聞の編集長から、回想録のゴーストライターを依頼された男。

 

感想

 創刊準備はしているが、創刊することはないだろう新聞の編集室にやって来た男。そこでは毎日のように新聞社の編集方針についての議論がされている。

 

 ただその内容は、どのように情報操作をするか。真実だけを伝えながらいかに読者に誤った印象を与えるのか、関係のない事件を意図的に並べることで読者に特定の思想に導く方法、何も言ってないのに効果的な反論方法など、数々のテクニックが披露されていく。

 

 

 数々の企業を運営する社主とその関係者に迷惑をかけないことも考慮していて、情報の扱い方ひとつで世論を望み通りに動かそうとする巨大メディアに対する批判が込められているのだろう。情報を操る者の影響力の大きさが伝わってくる。

 

 そもそも社主は、新聞の創刊準備を進めているという事実自体が、関係者に対する大きなメッセージになることを分かった上で、それを利用しようとしているわけで。それにより目的を果たせたら充分で、だからこそ実際に新聞を発行する気はない。

 

 そんなメディアの欺瞞と共に、独裁者ムッソリーニの死にまつわるミステリーが展開される。ただ、ムッソリーニは実は生きていた!というようなトンデモというか陰謀論的な話は割とありそうなもので、ちょっと興醒めする部分があった。その後にイタリアで起きた様々な事件を結び付けているので、イタリア国民的には興奮する内容なのかもしれない。

 

博学の悦びとは敗者のためのものなのだ。多くの事を知っていれば知っているほど、うまくいかなかったことも多いということだ。

単行本 p16

 

 勝者は権力を持ち、情報を好きなように操作できるから、大した知識なんて必要ないのかもしれない。ただ操られる側も、意図的にそうすることだってある。自閉癖のある彼女が唐突に発する言葉に、必死に意図を汲んで合わせようとする主人公のように。結局、人はどんな情報でも意図的に解釈して、見たいものを見る事しか出来ないものなのかもしれない。

 

著者

ウンベルト・エーコ

 

ヌメロ・ゼロ (河出文庫)

ヌメロ・ゼロ (河出文庫)

 

 

 

登場する作品

「El nost Milan(エル・ノスト・ミラン)(我らがミラノ)」 Carlo Bertolazzi(ベルトラッツィ)

「007 ドクター・ノオ (字幕版)

デッドラインU.S.A. [DVD]

「Mistero Buffo(滑稽なミステリー)」 ダリオ・フォー(ダリオ・フォ)

詩篇150「音の高いシンバルをもって主をたたえよ」 アレティーノ

「La lega degli onesti(誠実者同盟)」 ジョヴァンニ・モスカ

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ベートーヴェン:交響曲第7番

楽聖ショパン [DVD]

 

 

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「冗談」 1967

冗談 (岩波文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 女友達に送った手紙に書いた冗談がもとで、人生を狂わされた男が久しぶりに故郷を訪れる。

 

感想

 手紙に書いた冗談がきっかけで大学を追われ、人生が狂ってしまった男。紆余曲折を経た彼が、十五年ぶりに故郷に帰ってきたところから物語が始まる。彼がメインではあるが、各章ごとに主人公が変わる群像劇のようでもある。 

 

 その各章の主人公たちが、メインの主人公が久々の故郷の街角で見かけた旧友や、頼みごとをしに行った友人など、最初はさして重要でもないような登場の仕方をしているキャラクター達で、意外な感じがした。ただ、そんなモブキャラのような人物たちにもそれぞれの人生があり、過去があるという事が実感できて、深みのある物語となっている。

 

 

 この小説の舞台は、社会主義体制下のチェコなので、その実情についてある程度の知識がないとちょっと理解しにくい部分はある。主人公は、体制を茶化したことで所属していた学生同盟を除名され、大学を追放させられる。そして強制労働などに従事した後、今は研究所でそれなりの地位を得て働いている。体制に背いたことで罰せられたのに、今は普通の生活を出来ているのがちょっと不思議なのだが、意外と心の広い社会という事なのか。

 

 人生を狂わされ体制に反発心を抱いてきた主人公に、熱心な体制側の女、同じように体制に追われながらもそれを受け入れてきた宗教心の強い男、体制に目をかけられていた男など、様々な立場の人間たちが絡まり合いながら物語は進行する。

 

世界を変えようとするどんな大運動も嘲笑と愚弄を許容しない。なぜなら、それはなにをも腐食する錆だからだ、と。  

p399

 

 主人公も自身を破滅に導いた「冗談」について後から自省しているが、宗教心の強い男の言葉が印象的。理解できるがなかなか難しい。今でもSNSで見られる、軽い洒落や冗談のつもりが、嘲笑や愚弄と捉えられていざこざが起きたり、それが言論を封じようとする動きになったりもする。

 

 真剣に取り組んでいれば冗談なんて出てこないはず、かもしれないが、だからと言って封じ込めるのも問題、という煮え切らない回答になってしまう。ただよく考えてみれば、セクハラやいじめ、差別などにはこれが当てはまるのかも。この手の問題では、よく「冗談のつもりだった」という言い訳が聞かれるが、それは通用しない。

 

 最後は、復讐の心に燃えていた主人公の心境が変化して終わる。時は取り戻すことなど出来ず、ただ一定の速度で進んでいくだけだ。「鉄は熱いうちに打て」で、冷めてしまったら、もうどうにもならない。冷めてしまったものに、もうクヨクヨしていてもしょうがない、という事だろう。

 

 登場人物と主人公との関係、それぞれの体制との関わり方とその変化などが丁寧に描かれていて読みごたえがある。各章の主人公として、それぞれにしっかりと語らせながらも、気になる重要人物である主人公が最も愛した、かつての恋人については何も語らせていない。それぞれにこんな物語があるのだから、彼女については読み手が想像してください、とでも言うような、上手い構成だ。

 

著者

ミラン・クンデラ 

 

冗談 (岩波文庫)

冗談 (岩波文庫)

 

 

 

登場する作品

千一夜物語(1) (ちくま文庫)

絞首台からのレポート (岩波文庫 赤 775-1)

カルヴァンキリスト教綱要 (1)

田舎の友への手紙―プロヴァンシァル (1949年) (仏蘭西古典文庫〈第23〉)

 

 

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「リズム&ブルースの死」 1988

リズム&ブルースの死

★★★★☆

 

内容

 ブラックミュージックの歴史を紐解く。

 

感想

 20世紀の黒人音楽の変遷が語られる。出版されたのは88年なので80年代終盤のマイケル・ジャクソンやプリンスがスターとなり、ラップが出てきたあたりで終わる。

 

ポップ・ミュージックとして受け入れられるかどうかに、意味づけがいかに重要な役割を果たすかを、このことはあきらかにしてくれた。ロックンロールが白人音楽をさすようになったと同様、ディスコは黒人とゲイの音楽の、何か醜い混合物をあらわす言葉になった。

p331

 

 読んでいて思うのは、黒人音楽を語るにはアメリカの黒人社会の歴史を抜きにすることは出来ないという事だ。差別されマイノリティ扱いされていた彼らが、どのように白人中心のアメリカ社会と関わって来たかという歴史でもある。

 

 初期の黒人音楽は黒人社会で流行ったものを、白人が真似をすることで社会に広がっていった。白人のエルヴィス・プレスリーがロックを広めたのが代表的。やがては次第に黒人歌手が受け入れられるようになって、白人が経営するレコード会社から人気の黒人歌手は音楽を出すようになっていく。これはアメリカ社会が黒人を受け入れていく過程とよく似ている。

 

 

 こうやって白人や黒人、様々な人種が融合して共に暮らす社会は、個人的にはそんなに悪い事ではないと思うのだが、黒人である著者はそれには否定的な意見を述べている。多くの黒人歌手が白人が経営するメジャーなレコード会社に所属することで、それまで築かれていた黒人社会内の音楽産業のネットワークが壊滅したり、白人も含めたマーケットを気にするために純粋な黒人音楽といえないものが出回っている、という問題が指摘される。

 

 これはそれぞれの捉え方なのだろう、と思う。日本でも日本古来の文化は西洋文化にかなり浸食されている。畳の部屋が無くなっているとか、着物を着なくなった、と嘆くようなものか。それはそれで一つの考え方として尊重すべきで、他人がとやかく言えることではない。

 

 その他、印象的だったのは、黒人たちは次から次と新しい音楽を求めて、古くなった音楽の事を気にとめない、という指摘。特に初期のころの話ではあるが、ロックは白人のもの、みたいになったのは、このことも関係しているといえそうだ。今は昔の曲をサンプリングして使ったりしているので最早そうとは言えないので、歴史を振り返るというのは、成熟した文化や社会がする行為なのだな、と思った。

 

 本書は年代順に語られていくので流れは分かりやすいが、かなり多くの人物が登場するので把握するのは難しい。一通り読んで流れをつかみ、気になる年代や人物が出てきたときにその部分だけを読む、みたいな辞書的な使い方をするのが良さそうだ。

 

 この本が出てから30年が経ち、ヒップホップを中心とする黒人音楽は世界を制覇してしまっているような感触がある。音楽業界を見ても利益を白人が独占しているとは言えない状況になっているように感じるが、この著者はこの現状をどう捉えているのか、聞いてみたい気がする。

 

著者

ネルソン・ジョージ

 

リズム&ブルースの死

リズム&ブルースの死

 

 

 

登場する作品

黒人のたましい (岩波文庫)

ラグタイム(1981)

The Clansman: An Historical Romance of the Ku Klux Klan (The Novel As American Social History) by Thomas Dixon(1970-12-31)(クランズマン)」

國民の創生[HDニューマスター版](字幕版)(国民の創生)」

奴隷より立ち上がりて (1969年)

「The Birth of a Race(民族の創生)」

Stomping the Blues (English Edition)(スタンピング・ザ・ブルース)」

Native Son (English Edition)(アメリカの息子)」

野郎どもと女たち (アルティメット・エディション) [DVD]

Lost Highway: Journeys and Arrivals of American Musicians (English Edition)(ロスト・ハイウェイ)」

「Annie Allen(アニー・アレン)」 Gwendolyn Brooks(グウエンドリン・ブルックス)

見えない人間 (1)

裸者と死者 (新潮文庫)

鹿の園 (新潮文庫)

White Negro(ホワイト・二グロ)」

ポーギーとベス*歌劇 [DVD]

Baby that was rock & roll: The legendary Leiber & Stoller (A Harvest/HBJ book)(ベイビー、ザット・ウォズ・ロック&ロール)」

「American Hot Wax(アメリカン・ホット・ワックス)」 監督 フロイド・マトラックス

Ma Rainey's Black Bottom (English Edition)(マ・レイニーズ・ブラック・ボトム)」

スウィート・ソウル・ミュージック―リズム・アンド・ブルースと南部の自由への夢

The Rolling stone illustrated history of rock & roll(ローリング・ストーン・イラストレイテッド・ヒストリー)」

強き性、お前の名は (女たちの同時代)

The Age of Rock, Sounds of the American Cultural Revolution: A Reader (Music & current events)(エイジ・オヴ・ロック)」

夜の大捜査線 [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

いつも心に太陽を [DVD]

招かれざる客 (字幕版)

特攻大作戦 (字幕版)

スウィート・スウィートバック [DVD](スウィート・スウィートバックス・バッドアス・ソング)」

Watermelon Man(ウォーターメロン・マン)」

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スーパーフライ(字幕版)

スパークル [Blu-ray]

シドニー・ポワチエ/一発大逆転 [DVD]

「愛しのクローデイン(愛しのクローディン)」 監督 ジョン・ベリー

Short Eyes [DVD] [Import](ショート・アイズ)」

「The Mack(マック)」 監督 マイケル・キャンパス

「野獣戦争」 監督 アイヴァン・ディクソン

黒いジャガー / アフリカ作戦 [DVD]

Bloods: Black Veterans of the Vietnam War: An Oral History (English Edition)(ブラッズ)」

「キングダム・セオリー」 ジェシ・ジャクソン師

110番街交差点 [DVD]

サタデー・ナイト・フィーバ (字幕版)

ウィズ (字幕版)

パープル・レイン (字幕版)

シーズ・ガッタ・ハヴ・イット [VHS]

「ハリウッド夢工場/オスカーを狙え!!(ハリウッド・シャッフル)」 監督 ロバート・タウンゼント

プリンス/サイン・オブ・ザ・タイムズ HDニューマスター版 [DVD]

アンダー・ザ・チェリー・ムーン(字幕版)

カラーパープル(字幕版)

ブルースの魂―白いアメリカの黒い音楽 (1965年)

 

 

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「AX」 2017

AX アックス (角川文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 恐妻家で凄腕の殺し屋は、家族の事を考え引退を考えている。連作短編集。

 

感想

 伏線があり、とぼけた会話があり、驚きの展開がありといった著者得意の連作短編集。全体としては大きな物語といえるのだが、特に最初の数編は小粒な印象。主人公の本職の殺しの描写もあっさりとしている。

 

 その代りにクローズアップされているのが、殺し屋の日常。当然彼にもプライベートな時間があり、仕事の時とのギャップがおかしみを生むという事なのだろう。その最たるものが恐妻家という事で、あんなに仕事の時は堂々としているのに、家では妻の一挙手一投足にビクビクしている。ただ、さすがに大げさすぎて引いてしまっている自分がいた。

 

 

 でも、それは自分のような平凡な生活をしている人間だからそう思ってしまうだけで、見ず知らずの人を殺すような生活をしている人間にとっては、そもそもそんな普通の家庭を築いている事自体が異常だといえる。殺し屋がそんな幸福な生活を送っていていいのだろうか、と自問自答してしまうのは分からなくもない。そんな奇跡のような幸福を失いたくないが故の恐妻家なのだと考えれば、理解できるような気がする。

 

 そして、小粒な印象の短編が続いてからの突然の大きな変化に驚かされた。しかも、そんな結構な事をサラッと言ってしまうので余計にびっくりする。思わず二度見してしまった。

 

 ここから急に物語はスケールの大きなものになっていく。どこかでもっとハッピーなエンディングを期待していたのだが、さすがにそれは都合が良すぎたか。これでも悪人にとってはかなり幸せな部類の結末だと考えるべきなのだろう。

 

著者

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AX アックス (角川文庫)

AX アックス (角川文庫)

 

 

 

登場する作品

ヴェニスの商人(新潮文庫)(ベニスの商人)

平家物語 (岩波新書)

奥の細道

 

 

関連する作品

殺し屋シリーズ 前作 

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「ランサローテ島」 2000

ランサローテ島

★★★★☆

 

あらすじ

  スペインのランサローテ島に余暇を過ごすためにやって来た男は、現地で同じような観光客、ベルギー人の男と二人組のドイツ人女性と知り合う。

 

感想

 物語を通して、主人公が無気力で無関心なのが印象的。年齢のせいなのか、時代のせいなのか、それともその両方のせいなのか。バカンスの計画ですら期待や興奮は感じられず、惰性的に決めている。主人公自身の年齢や職業もはっきりと語られないのは、語った所で何になる?という主人公のあきらめの心情を代弁しているかのようだ。

 

 ランサローテ島での観光の様子が描かれており、小説の中ではあまり面白い場所ではないような書きぶりだが、少し調べてみるとそれなりの観光地ではあるようだ。ただ、それでもやっぱり、どちらかというと渋い観光地というような扱いのようだが。

 

 

 そんな中で現地ツアーに参加したり、レンタカーを借りてみたりと、なんとか退屈にならないように行動する主人公。しかしそれも、観光に来たらそうするものだ、という慣習をなぞっているだけのような淡々とした動き。

 

 唯一、他の旅行者に声をかけてみるという旅の習いにしたがって知り合ったレズのドイツ人カップルとイチャついた時は、珍しく幸せそうではあった。ただそれも、それを拒否したベルギー人のように、年老いてしまえばそれに奮い立つこともなくなってしまうだろうと達観している。

 

 とはいいながら主人公は漠然と、その後のベルギー人が取った行動のように、何か人生を賭けてみたくなるようなものがどこかにあるのかもしれない、とは考えているのだろう。火山の爆発によって破壊しつくされ一旦ゼロになったランサローテ島のように、これまでの人生がご破算になるような出来事が起きたら、それが幸運だと思ってしまうような人生。

 

 主人公は帰国後、ある事件の渦中に巻き込まれたベルギー人の行く末が気になりながらも、またもや惰性でバカンスへと出かけていく。わずか60ページほどしかない短い小説で、主人公の次のバカンス先から考えると、著者の次作「プラットフォーム」の序章のようにも感じられる作品となっている。

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著者

ミシェル・ウエルベック

 

ランサローテ島

ランサローテ島

 

 

 

登場する作品

「連想で学ぶスペイン語」 グルーンバーグ/ジェイコブス

嘘をついた男

 

 

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「確率思考 不確かな未来から利益を生みだす」 2018

確率思考 不確かな未来から利益を生みだす

★★★☆☆

 

内容

 大学・大学院で心理学を学び、プロのポーカープレーヤーとして活躍した著者による経験と科学的裏付けをもとにした意思決定の方法。

 

感想

 技術だけでなく運の要素も重要なポーカーゲームは、正しい状況判断で確率を見極め、勝負するか降りるか、続けるか止めるかの素早い判断を短い時間で何度も繰り返さなければならい。そんなゲームを勝ち抜いてプロとして生活をしてきた著者は、意思決定を語るにまさにふさわしい人物といえる。しかも、心理学の知識があるので科学的裏付けもあり、信頼できる。

 

 著者がまず説くのは、勝ったのは実力で、負けたのは運が悪かったから、という都合の良い解釈を止めること。世の中の結果で100%運のおかげや100%実力のおかげということはまずなく、たいていはその両方を合わせた中間のどこかである。まずそれを理解していないと、運が良かっただけで勝ったやり方に固執したり、技術がなくて負けたのにそれを改善としようとせず、いつまでたってもレベルが上がっていかない。

 

賢い人ほど、自分の主観を裏づけるストーリーを構築し、自分の主張や意見に合うデータを正当化して体系化するのがうまい。

p81

 

 ただ言うは易しで、主観ではなく、冷静に物事を客観的に見るということは、意識していても難しい。さらには賢いほど自分を騙すのがうまくなってしまうというから、たちが悪い。SNSなどで極端な主張をしている人たちはその典型的な例と言えるだろう。ただし、多かれ少なかれ誰もが陥っている事ではある。

 

 これを書いた著者ですら未だにそうなってしまう事があるという厄介な問題なのだが、「賭けてみる?」と問いかけてみる事が良い解決法になる、というのは面白かった。絶対こうなる!と思っている事でも、誰かに「じゃあ賭ける?」と問われると、いや待てよ…と急に冷静になって改めて様々な情報を検討し始める。そして、絶対てことはないか、60%といった所だな、となったりする。お金を連想させると急に冷静になる、と言うことに気付くとは、さすがギャンブラーだ。

 

 

 本書ではどうしても囚われてしまう主観からどうやって逃れて、客観性を手に入れるのかについて、たくさんの方法が紹介されている。客観性さえ手に入れられれば、あとはその情報に基づいて、いいところを伸ばし悪いところを直していくだけだ。全部ではなくその10%しか修正できなかったとしても、実力と運をごっちゃにして行き当たりばったりの不合理な行動をしている人との差はどんどん広がっていく。

 

 客観性を手に入れるためには他人の目が必要で、仲間や身近な人、さらには過去や未来の自分にまで協力を頼むのが有効、そして仲間には主観を補強しあう関係ではなく、正確性を重んじる関係を築くことが大事、等、なるべくオープンに様々な視点を取り入れて、多様性をキープするようにする、ということが説かれている。

 

 ギャンブルという特殊な世界から出発したが、意外と普通というか一般的に言われている結論に落ち着くのだな、というのが素直な感想だった。斬新な考え方が学べるのかもと思っていただけに少しがっかりな部分はあるが、多様性が大事ということを再確認できたという意味で悪くない。そこまで詳細に描かれているわけではないが、ポーカーの世界で生きる人たちの生態も垣間見えて興味深かった。

 

著者

アニー・デューク

 

確率思考 不確かな未来から利益を生みだす

確率思考 不確かな未来から利益を生みだす

 

 

 

登場する作品

The Believing Brain: From Spiritual Faiths to Political Convictions – How We Construct Beliefs and Reinforce Them as Truths (English Edition)

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脳はあり合わせの材料から生まれた―それでもヒトの「アタマ」がうまく機能するわけ

博士の異常な愛情/または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか (字幕版)

ゲームの理論と経済行動〈1〉 (ちくま学芸文庫)

囚人のジレンマ―フォン・ノイマンとゲームの理論

ビューティフル・マインド (字幕版)

人間の進歩 (教養選書 55)

プリンセス・ブライド・ストーリー

ミザリー (字幕版)

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イグノランス: 無知こそ科学の原動力

明日の幸せを科学する(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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The Half-Life of Facts: Why Everything We Know Has an Expiration Date (English Edition)

「I'd win Everything [If It Wasn't for Luck]」(ミュージカル「オール・イン-ポーカーミュージカル」の曲)

しあわせ仮説

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マトリックス (字幕版)

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自由論 (光文社古典新訳文庫)

ブレザレン―アメリカ最高裁の男たち (1981年)

羅生門 デジタル完全版

「ルクルス伝」 プルタルコス

バック・トゥ・ザ・フューチャー (字幕版)

バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2 (字幕版)

タイムコップ [DVD]

成功するには ポジティブ思考を捨てなさい 願望を実行計画に変えるWOOPの法則

 

 

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「悲しみよこんにちは」 1954

悲しみよ こんにちは (新潮文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

 父親とその若い愛人と共に避暑地の別荘にやって来た年頃の少女。そこに死んだ母親の友人がやって来て、別荘での暮らしに変化が訪れる。

 

感想

 若い頃は何にも囚われず、自由気ままに生きたいと無邪気に思うものだが、でも心のどこかで、そうはいかないだろうな、とも思っている。だが、この若い主人公には実際にそうやって生きている父親が目の前にいる。半分玄人の若い女をとっかえひっかえし、夜通し仲間と飲んで騒ぐ日々を過ごしている。そんな暮らしを目の当たりにすれば、自分もそんな風に過ごしたい、そうなるだろうと思うのも不思議じゃない。

 

 ただそれにしても父親の自由っぷりはすごい。娘を連れて夜遊びをして一緒に騒ぎ、その一部始終を見せるし、娘とのバカンスには恋人を同伴し、しかもその途中で別の新しい女性に乗り換える。ある意味羨ましい身分。どこにでもいる享楽的で刹那的に生きる人たちの一人である。それに共感して好ましく思っている主人公も凄いが。

 

 

 しかし、そんな父親も将来を考え、亡き妻の友人で、年齢も近い女性との結婚に踏み切ろうとする。自由気ままに生きてきた父娘を堅実な生活へと導こうとする、父の恋人に反発を覚えた主人公が、ある策略を思いつき...というストーリー。

 

 単純に父の恋人が憎いだけであれば、これはサスペンスやミステリーになるのだが、主人公は基本的には彼女が好きで、その考え方には共感を覚える部分もあり、その心は揺れている。懲らしめたいような懲らしめたくないような。そこに父親の幸せや自身の将来、また自分の考えた策略に対する自信や不安、様々な感情が入り混じり心が落ち着かない。この矛盾する思いが交錯して、移り気なところが「若さ」というものなのかもしれない。そこに主人公の恋も描かれ、まさに青春小説といった雰囲気だ。

 

アンヌはこちらを向いてはいたが、見つめていたのは、わたしのことばから立ちのぼった人影だった。 

 p21

 

 著者が18歳の時に出版されたというだけあって、文章も繊細で若々しさがある。ただ、物語の結末もそうだが、どこかにどうせロクな未来は待ち受けていない、みたいな投げやりな雰囲気も漂っていて、それが苦みとなっている。これは、享楽主義者にも若者にも共通する感覚なのかもしれない。

 

著者

フランソワーズ・サガン

 

悲しみよ こんにちは (新潮文庫)

悲しみよ こんにちは (新潮文庫)

 

悲しみよこんにちは - Wikipedia

 

 

登場する作品

「今ここにある生」 ポール・エリュアール

眠れる森の美女 

白雪姫 (グリム童話)

 

 

関連する作品

映画化作品

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「1998年の宇多田ヒカル」 2016

1998年の宇多田ヒカル(新潮新書)

★★★★☆

 

内容

  日本で最もCDが売れた年、1998年にデビューした宇多田ヒカルら4人の女性アーティストについて考察する。

 

感想

 1998年は宇多田ヒカルが「Automatic」で鮮烈にデビューした年。しかし、椎名林檎やAiko、浜崎あゆみも同じ年にデビューしているという事実は意外な感じがした。ちなみに女性歌手ではその他にも、Misia、Kiroro、モーニング娘、鈴木亜美らもこの年にデビュー。

 

 著者は、日本のポップ・ミュージック界で他のミュージシャンは宇多田ヒカル、椎名林檎、Aikoの足元にも及ばないと言い切っていて、音楽評論家としてやりにくくなってしまわないかと勝手に心配してしまった。じゃあ、この三人以外に取り上げている浜崎あゆみは?ってなってしまうわけで。その分、しがらみにとらわれず、覚悟して書いているということが伝わってきて信用できる。

 

 

 まずは98年を基準としてその16年前と16年後の音楽界を比較しているのだが、16年前に売れていたアーティストたちがほとんど第一線からいなくなったのに対し、98年に売れていたアーティスト達の多くは今も第一線にいる、という比較は面白かった。何の違和感も感じていなかったが、彼女たちの他にもミスチルやB'zなど数多くのアーティストが未だに最前線で活躍しているということは、日本の音楽史上珍しい事なのかもしれない。それ以前から活躍するサザンや中島みゆきらもいるが、全体的にアーティストの息が長くなったということか。

 

 それから、4人の女性歌手それぞれについて語られていくのだが、あまり付き合いのなさそうな彼女たちの意外なつながりも分かって興味深い。なかでも、椎名林檎について書かれた章は、彼女のデビューのいきさつが、その後の音楽活動に影響を与えているのではと推察していてなるほどなと思わさせられた。一見、孤高に見える彼女が一番、日本の音楽シーンの事を考えているのかもしれない。

 

 それとは逆に一番親しみやすそうなキャラクターのaikoについては、ディスっているようにみえなくもない文章でちょっとイメージが変わった。ただアーティストとしては音楽を作って歌うことが何より重要で、それ以外の事にどのように対応するかはそれぞれの考えがあるというだけの話なのだろう。

 

 つまり、音楽ジャーナリズムの名の下に発表される記事は良くも悪くも「ライターの作品」なのだ。そして、その基準からすると、日本には音楽ジャーナリズムはほとんど存在せず、あるのはアーティストとメディアの「馴れ合い」ということになる。 

p174

 

 それ以外ではこの部分が心に残った。もっと言えば音楽ジャーナリズムだけではなく、日本のジャーナリズム全体にいえることのような気がする。ただ最近はちゃんと音楽について語る文章を目にする機会も増えてきているような気がするので、それは良い兆候といえるだろう。

 

 そして今は、コロナの影響でCDの売上からライブの売上へとシフトしてきた音楽業界にとっては苦しい状況になっている。ネット上の活動など新たな動きが出てきているが、また大きな変化が起きる時が近づいているのかも、と思ったりもした。

 

著者

宇野維正

 

1998年の宇多田ヒカル(新潮新書)

1998年の宇多田ヒカル(新潮新書)

  • 作者:宇野 維正
  • 発売日: 2016/07/01
  • メディア: Kindle版
 

 

 

登場する作品

成りあがり

点―ten―

夢を食った男たち 「スター誕生」と歌謡曲黄金の70年代 (文春文庫)

aiko bon

新生 トイレの花子さん [DVD]

ayu LIFE STYLE BOOK

 

 

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「桜の園・三人姉妹」 2011

桜の園・三人姉妹 (新潮文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ/感想

桜の園

あらすじ

 裕福な暮らしを続けるも借金を重ね、名所「桜の園」のある土地を売りに出している女主人とその一家。

 

感想

 女主人の家は、昔からの裕福な名家なので、金持ちならではの英才教育を受けていても良さそうに思えるが、全くそんな様子がない。金がないのに頼まれるとすぐにお金をあげたり、なぜか盛大なパーティを開いたりしていて、全く金に無頓着。少し笑ってしまう。

 

 本当に何もしないでも裕福でいられたのが、時代の変遷によりそれが難しくなってきたという事なのかもしれない。お金の維持の仕方は分からないが、使い方だけは知っているという印象で、きっと当時のこんな金持ちたちは、ずる賢い人間たちの良いカモになっていたのだろうな、と思ってしまった。

 

 

 「桜の園」を失わないでも済む方法を親切な商人が必死に説明しているのに、女主人たちがまったく聞く耳を持たないのは意味が分からなさ過ぎてゾッとした。自分が理解できないことはすべてシャットダウンして、現実逃避をしている。

 

 女主人たちが全然現状を理解せず問題を放置する様子は、まさに没落していく名家の惨状と言ったところで哀愁が漂っている。ただ、その娘は新しい時代を生きるのだという希望を抱いていて、ただの寂しい物語ではなく、新しい時代、新しい世代の台頭というような、新しい何かが始まる物語のようにも感じらる。

 

三人姉妹

あらすじ

 一家の長である長男と三人の姉妹が暮らす家。

 

感想

 長男が妻を迎え入れた事で変わっていく家。都会の教養のある人間だと自負する姉妹たちは最初、長男の妻になる田舎臭い女を馬鹿にしていたのだが、次第に立場を逆転され、家の中で居場所を失っていく。その変化を劇中ではなく幕間に表現するのが面白い。幕が開くごとに妻の立場が強くなっていっていく。

 

 しかし、最初はあんなにおどおどしていたのに、最終的には夫ですらも尻に敷き、完全に家を取り仕切るようになるなんて、女はすごいなと思わせられる。これは妻が子を産み、ギャンブルで借金を背負った夫の弱みを握ることで自分の居場所を着実に確保し、自信を増大していったという事もあるが、それとは逆に夫や三人姉妹たちが、自分のやっていることに迷いを感じて自信を失っていった事も大きいような気がする。

 

 三人姉妹にとっては切ないラストが待ち受けていたようにみえるが、それでも彼女たちが前向きなのが救いだ。少なくとも醜悪になっていく長男の妻よりも、今後の人生に希望があるように思える。「桜の園」同様、こちらもどこか前向きさを感じる結末になっている。

 

著者

チェーホフ

 

桜の園・三人姉妹 (新潮文庫)

桜の園・三人姉妹 (新潮文庫)

 

桜の園 - Wikipedia

三人姉妹 - Wikipedia

 

 

登場する作品

三人姉妹

乙女の祈り

 

 

この作品が登場する作品

桜の園

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関連する作品

この作品に着想を得た作品 

斜陽

斜陽

  • 作者:太宰 治
  • 発売日: 2012/09/28
  • メディア: Kindle版
 

 

 

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「82年生まれ、キム・ジヨン」 2016

82年生まれ、キム・ジヨン

★★★★☆

 

あらすじ

 突然様子がおかしくなってしまった一児の母の半生。

 

感想

 どこにでもいそうな一人の女性の半生が描かれていく。そこから見えてくるのは、女性の生きづらさ。自分よりも長男である弟が明らかに優遇され、年頃になれば見知らぬ男に話しかけられ怖い思いをし、成績が優秀でもいい会社には入れず出世も出来ない。

 

 人生の様々な場面で女性の前に立ちはだかる社会の壁を、進学率や出産後の離職率など実際のデータを提示しながら描いていく。大きなドラマもなく淡々としているので小説的面白さはあまりなく、どこかフェミニズムやジェンダー論の啓蒙や啓発のための書といった趣だ。

 

 

 ただ、この大きなドラマがない普通の女性の物語という事が、多くの女性の共感を呼んだのだろう。主人公の人生と自分の人生を重ね合わせやすく、自分の物語と捉えることが出来る。韓国でベストセラーになったのもうなずける。

 

どうしろって言うの?能力が劣っていてもだめ、優れていてもだめと言われる。その中間だったら中途半端でだめって言うんでしょ?

p90

 

 読んでいると、男性であればなんてことのない場面でも、女性にとっては大きな障害があることに気付いてハッとしたりする。女性でも、当然だと思っていた事に、不公平が潜んでいたと気付く事があるかもしれない。皆が同じ問題意識を持つことが出来るというのは重要だ。

 

 当然これは韓国社会の話なのだが、強弱の差はあれ、現時点では日本の社会と事情はそんなに変わらないような気がする。ただ、韓国は世継ぎへの執着が強いので、お腹の子が女だと分かると中絶する事もあるという話はちょっと怖かった。もしかしたら日本でも同様の事があるのかもしれないが。

 

 この主人公が生まれた82年頃の描写だと、日本の方がまともだったような気がするので、それに追いつく勢いで韓国の方が急速に進歩しているようにも見える。もしかしたらそのうち追い抜かれてしまうのかもしれないなと思ったりした。この辺りはほとんど印象論でしかないので自信はない。

 

 読んでいて思うのは、敵意剥き出しで差別をするのではなく、悪意なくナチュラルに差別する人が多い事。抗議をするととても不思議そうな顔をする。実はこういう何が悪いか分かっていない人を理解させるのが一番骨が折れる。そんな人がよき理解者のような顔をしている事もあって、それに気づいた時にはひどく脱力してしまう。時には母親や上司といった同性の女性ですら足を引っ張ることもあって、最終的にはこれが大きな難関となるのでは、と個人的には思っている。

 

 読んでいると色々と考え込んでしまう本。

 

著者

チョ・ナムジュ 

 

82年生まれ、キム・ジヨン

82年生まれ、キム・ジヨン

 

82年生まれ、キム・ジヨン - Wikipedia

 

 

登場する作品

おおきなかぶ

 

 

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