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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「蜜のあわれ」 1959

蜜のあわれ

★★★☆☆

 

あらすじ

  老作家と飼っている金魚との会話。

 

感想

 老作家と少女に擬人化された金魚との他愛のない会話を中心に、会話文だけで構成されている。若干、金魚の描写が曖昧でどんな姿をしているのかイメージしにくい部分はあるが、その時々で魚や人間に姿を変えているという事なのだろう。

 

 そして登場する金魚は擬人化されたというよりも女体化されたといった方がいいかもしれないくらい、著者の妄想は膨らんでいる。

 

 「では、あたい、急いで交尾してまいります、いい子をはらむよう一日じゅう祈っていて頂戴。」

室生 犀星. 蜜のあわれ (Kindle の位置No.1375-1376). 青空文庫. Kindle 版.

 

 おいおい金魚に何言わせてるの、と突っ込みを入れたくなる部分も多い。その他にも、お尻の美しさについて熱く語ったり、自らの性欲について語ったり、女体化した金魚の体を観察して辱めたり。最初は呆れてしまっていたが、読んでいるうちに逆に凄みを感じ始めた。

 

 

 大抵こういう表現をするときは著者の自我や自己顕示欲のようなものを感じることがあるが、ここではそれを感じない。ただただ自分の想像のおもむくままに無邪気に自由に筆をすすめているようにみえる。

 

けど、おじさんの生きる月日があとに詰ってたくさんないんだもの、だから世間なんて構っていられないんだ。嗤おうとする奴に嗤って貰い、許してくれる者には許してもらうだけなんだよ。

室生 犀星. 蜜のあわれ (Kindle の位置No.501-503). 青空文庫. Kindle 版.

 

 世間の反応や自意識の抵抗などはもはやどうでもよく、ただ純粋に書きたいことを書くという心境になれるのは、年を重ね老齢を迎えた者ならでは、なのかもしれない。どこか悟りの境地に達した人を見るような思いになった。

 

著者

室生犀星

 

蜜のあわれ

蜜のあわれ

 

蜜のあわれ - Wikipedia

 

 

登場する作品

殿方ご免遊ばせ [DVD]

赤い風船/白い馬【デジタルニューマスター】2枚組初回限定生産スーベニア・ボックス [DVD]「赤い風船」

 

 

関連する作品

映像化作品 

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この作品が登場する作品

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「死の棘」 1977

死の棘 (1977年)

★★★★☆

 

感想

  夫の浮気をきっかけに心を病んでしまった妻。

 

 あらすじ

  主人公である夫の浮気をきっかけに心を病んでしまった妻。浮気相手との出来事を微に入り細を穿つように何度も執拗に質問される主人公はたまったものじゃない。 

 

(前略)あらわれているのは、妻が私の不貞と背信を突つき、その腐肉をさらけ出すことに執心して、一向にとどまるようすの見えない光景だ。

p73 上段

 

 つけていた日記をもとに、すでに忘れてしまったようなことまでも質問され、答えられないとなじられる。開き直ってしまえばいいのかもしれないが素直に自分が悪いと反省してしまっているのでそれもできず、明らかにおかしくなってしまった妻が自殺でもしないか不安で出ていくことも出来ない。地獄だ。

 

 

 当然、そんな地獄の日々の主人公もおかしくなる。気が触れたふりをすると自身では言っているが、もはやふりではなく病んでいるといっていいだろう。今は安定している妻がいつ豹変するか不安で耐えられず、敢えて自分からけしかける行動をとってしまうのは相当にヤバい。夫婦で衝突を繰り返す修羅の日々だ。延々とそんな日常が描かれて、読んでいるこちらまでどんどん陰鬱な気分になってくる。

 

 そんな二人のもとで生活をしなければいけない幼い子供たちが可哀そうすぎる。両親の顔色を窺い、時に諍いに利用され、それでも二人に頼らざるを得ない。絶対に悪い影響を受けそうだ。次第に息子の言動が不穏になっていくのが印象的だった。

 

 悪夢のような日々を抜け出すために、主人公は思い切って家族を捨てて出ていくことだって出来なくはないはずだが、どうしてもそれが出来ない。たまに一人で外に出かけることがあるとしばし自由を感じるのだが、次第にその間に妻にもしものことが起きているかもしれないという不安が大きくなってしまう。自分のせいで病気になったのだから、自分がなんとかしないといけないと心に決めている。

 

 どう考えてもつらい日々なのに、主人公はそこに「幸福」という言葉が浮かんでくるのがすごい。この日々を支えているのは、結局のところ、主人公の妻への愛なのだなと思わずにはいられない。妻の病も夫を愛しているが故だ。愛し合うがゆえに別れられず傷つけ合うしかないという、苦しいが圧倒される物語。

 

 先日見た映画「海辺の生と死」は、この二人の物語の前日譚だと思うとまた印象が違ってくる。残念ながらこの映画自体の評価は変わらないが。

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著者

島尾敏雄

 

死の棘 (新潮文庫)

死の棘 (新潮文庫)

 

死の棘 - Wikipedia

 

 

登場する作品

シェーン(字幕版)

「三つの歌」

狐になった夫人 (1955年) (新潮文庫)

 

 

関連する作品

「死の棘」日記 (新潮文庫)

「死の棘」日記 (新潮文庫)

 

 

映像化作品 

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「しょうがの味は熱い」 2012

しょうがの味は熱い (文春文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

  結婚をのぞむ女とそれをためらう男の同棲カップル。

 

感想

  長年の同棲生活で心がすれ違う男女。一緒に食事をしても互いに別々なものを食べ、会話も少なく、男は連休にさっさとひとりで海外旅行に出かけてしまう。二人の関係が冷めてしまっている部分もあるが、男が外の世界で疲弊してしまっているということの方が大きいように思う。やりたくもない仕事で消耗し、家ではただただそれ以上疲れないように疲労の回復に努めようとしている。無気力で少しうつ病のようにも思えなくはない。彼の姿に、なんとなく今の時代や世相を感じてしまう。

 

 そんな心ここにあらずの男の様子を窺いながら刺激しないように少しびくついている女。同じ部屋で同じ時間を過ごしながらも、一緒にいないような寂しさを感じている。

 

 

 ただ満身創痍の男にとってそんな彼女が疎ましく感じてしまうのわかるような気がする。家では何もせずただじっとしていたいのに、女の視線に圧力を感じて心が安らがない。女も男がそう感じていることを知っているから、恐る恐る接することになる。そんな状況がこの先も続くことに嫌気がさした女は密かに別れを決意するが、男のたった一言ですっかりその気が失せてしまう。

 

 あまりこの小説とは関係ないがこういうもう限界、という時に、抜群のタイミングで懐柔する言葉をかけてくる人っているよな、と思ってしまった。ムカつく上司とかDVの男とか。これ以上何かしたら相手は爆発するなという雰囲気を嗅ぎ取って、態度を急変させる。何なんだろう、あの勘の良さ。

 

 この小説は2編に分かれているのだが、2つ目の話が始まったときはあまりにも雰囲気が違って、別の短編なのかと一瞬思ってしまった。前編からさらに時間が流れ、女は男に結婚を迫っている。だけど男の反応は鈍い。

 

ほら奈世、あなたはあなたと結婚するという言葉を聞いただけで、ここまで暗い顔になる男の人と三年も同棲してきたのよ。

p85

 この女の意地の悪い自虐的な感情がちょっと怖い。妙にポジティブだったり、急に心細くなったりと、いつの間にか彼女の心も蝕まれてしまったかのようだ。この病んだ心が伝染していく様子もどこか現代っぽい。皆が病んでいき互いに衝突を繰り返す。

 

 二人は色々ありながらも最後はハッピーエンドを迎えるのだが、とても心もとないハッピーエンド。はたから見ていると二人の行く末にはうまくいかなさそうな雰囲気がプンプンと漂っている。二人にも今後に対する不安が見え隠れする。ただ例えそうだとしても、今の二人がそうしたいと思っているのならそうするのが最良の選択のはずだ。今は分かれる気はないのに別れる事なんかないし、将来の事なんてどの道分からない。今の気持ちに正直でいるしかない。

 

著者

綿矢りさ 

 

しょうがの味は熱い (文春文庫)

しょうがの味は熱い (文春文庫)

 

 

 

登場する作品

恋人たちのクリスマス(ニュー・ヴァージョン)

 

 

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「鍵」 1956

鍵 (中公文庫 (た30-6))

★★★★☆

 

あらすじ

 初老の男と若い年下の妻の夫婦生活と、それに利用される娘とその交際相手。

 

感想

 互いの日記を通して夫婦生活が描かれていく。読む前から何となく内容は知っていたのだが、ここまで赤裸々な内容だとは思わなかった。主に夫の日記で性的な内容を多く含んでいるのだが、カタカナで書かれていることでそのあけすけな感じが中和されているような気もする。これは狙ったのか、この時代のこの年代の人はカタカナを使う習慣があったのか。

 

 親しい間柄であっても面と向かって言えないことがあり、でも気づいて欲しいという時は、心のうちの相手への願望を日記に書き、それを読んでもらうというのは上手いやり方かもしれない。自分だけのために心のうちを書いた日記を他人が読むということは、ある意味では以心伝心の見える化である。ただし、読んでくれと手渡してしまうと意味がないので、盗み読みしてもらう必要がある。そして、相手にも盗み読んだことを隠してもらわなけれならない。そう考えると互いに高度な技巧を要する知的な遊戯にすら感じてしまう。

 

 

 日記に赤裸々な内容を書く夫ではあるが、よくよく考えると無邪気だ。自分の欲望に忠実でとどまるところを知らないし、妻には自分の願望を素直に伝える。案外、少年の心を持った大人というのはこういう人の事を言うのかもしれない。妻に若い男をあてがってどうなるかと見守る様子などは、彼の中の少年が、目をキラキラさせているんだろうな、とイメージしてしまう。

 

 しかし酒に酔い倒れた妻を襲うのはなかなかえげつない。しかもそれに味をしめて何度も繰り返す。さすがに大丈夫なの?と思ってしまった。ここにも彼の少年のような残虐性が垣間見える。

 

ソレハアルイハ事実デハナク、僕ノ単ナル妄想デアルカモ知レナイガ、デモソノ妄想ヲ僕ハ無理ニモ信ジタカッタ。

谷崎 潤一郎. 鍵 (Kindle の位置No.350-351). . Kindle 版.

 

 そして夫に主導権を握られているように見える妻のほうが実はたちが悪い。夫が喜ぶから仕方なく妻の務めとして、とか言いながら、自らの欲望を満たすために実は夫を操り利用している。その果てに夫が寝たきりになった際も異常に冷静なのが少し怖い。

 

 そんな二人に加えて、さらに厄介な娘とその縁談相手の存在がある。彼らも心の中に何やら企みを秘めているようでもある。

 

 そして終盤、二人の日記には嘘が混じっていたことが分かる。妙に二人の日記にシンクロする部分があったりするので薄々とは気づいていたわけだが。本当の事を書かない日記って何?とか思ってしまう。日記とは、誰にも読ませないつもりでも何となく他者に読まれることを意識して書いてしまうものなのかもしれない。それにしてもなんて夫婦だ、と言いたくなる。

 

(前略)二人がどんな風にして愛し合い、溺れ合い、欺き合い、陥れ合い、そうして遂に一方が一方に滅ぼされるに至ったかのいきさつが、ほぼ明らかになるはずで、(後略)

谷崎 潤一郎. 鍵 (Kindle の位置No.1973-1974). . Kindle 版.

 

 しかし確かに奇妙な夫婦ではあるのだが、彼らなりに愛しあっていたのは間違いない。それゆえに様々な感情が二人の間に横たわっていた。正直、夫はかなり幸福な人生だったと思う。二人の結末も愛を突き詰めた結果という気もしてしまう。

 

 そんな夫婦の物語ではあるが、夫側の真実は明かされなかったのでたくさんの謎は残っている。そしてそれらの謎がまた別の疑問を提起するような深みのある小説で、読後に色々と考え込んでしまった。エンディングも意味深だ。

 

著者

谷崎潤一郎 

 

鍵

 

鍵 (谷崎潤一郎) - Wikipedia

 

 

登場する作品

サンクチュアリ (新潮文庫)

麗しのサブリナ (字幕版)

赤と黒(ノーカット完全版) コンパクトDVD-BOX[期間限定スぺシャルプライス版]

 

 

関連する作品

映画化作品 

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鍵

 
ティントブラスコレクション 鍵 [DVD]

ティントブラスコレクション 鍵 [DVD]

 
鍵 THE KEY

鍵 THE KEY

 

 

 

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「そのひとクチがブタのもと」 2007

そのひとクチがブタのもと

★★★☆☆

 

内容

 人は何故食べ過ぎてしまうのか。人間の無意識に働きかけている様々な食べ過ぎの要因を紹介し、その対策を教える。著者は食心理学の研究所主宰者。

 

感想

  よくある特別な食材を積極的に摂ったり摂らなかったりする事で体重を減らそうとするダイエット本ではなく、食べ過ぎる仕組みを解明して対策することで適切な量の食事をしようと促す本になっている。

 

 我慢したものが愛情でも休暇でもテレビでも大好きな食べ物でも、それは関係ない。我慢するというだけで生活を存分に楽しめなくなる。にもかかわらず、ダイエット実践者が真っ先にやるのは、コンフォートフードを控えることだ。これがダイエット失敗の原因になる。

p34

 

 ダイエット法あるあるではあるが、大抵のダイエットは普段の食生活を一変させるものが多い。糖質制限であれば、今までの食生活から急にご飯が食べられなくなる。そうなれば自ずと楽しくなくなり、我慢している感が強くなってストレスがたまる。そしてダイエット終了後は我慢していた食べ物を食べてしまって結局リバウンドしてしまう。

 

 

 そういった何かを我慢するダイエットではなく、普段の食事はそのままで食べる量を減らすことでもダイエットができるはずだ。それも無意識にできればなおのこと良い。ほとんどの人が無意識に食べ過ぎているのなら、そのメカニズムを解明して、無意識に食事の量を減らすことも出来るはずで、それを活用すればいい。そうすればストレスなく自然と体重が減っていくという考え方だ。劇的に体重は減らないかもしれないが、緩やかではあるが確実に体重が減る。

 

 本書では料理の品数、食器の大きさや形、音楽の種類、その時の周囲の雰囲気や本人の集中力など、様々なものが食事の量に影響を与えていることを教えてくれる。その多くが人間がいかに雑に食事量を認識しているのかを示していて興味深い。同じ量でも大きな皿にちょこんと載っていれば物足りなく感じ、小さな皿に山盛りであればたくさん食べたと思い込んでしまう。

 

 そして低カロリーでヘルシーと謳われている食品は、必要以上に健康的だと思い込んだり、少しだけ低カロリーなのにすごいカロリーが低いと思い込んだりして食べ過ぎて、結局、通常の食品よりカロリー摂取量が多くなってしまうのもよくあることだ。そのくせ、自分はヘルシーな食事をしたと思い込んでいるからたちが悪い。

 

 年々容量が大きくなっていくファーストフードの話題も出てくるが、著者が企業を責めるのではなく、彼らは客が望むものを売っているだけだと冷静な指摘をしているのは好感が持てる。確かに彼らも客が望み、売れるのならヘルシーメニューだってどんどん作るはずだ。そう考えると年々食べ物が小さくなっていくセブンイレブンはダイエットにはいい企業なのかもしれないと一瞬思わなくはないが、あんなあからさまに小さくされたらやっぱり腹が立つのでそんなことはなかった。気づかないように少しずつ小さくしてくれないと。

 

 あまり内容とは関係ないが、4リットルのお菓子を入れるボウルの話とかが登場して、日本と感覚が違い過ぎて混乱したり、大豆の嫌われっぷりが紹介されていたりして、アメリカとの文化の違いを感じることも出来る。それから、居んようにもあったがコンフォートフードという概念がいまいち掴めなかった。日本人の米みたいなものかなとは思ったのだが、それがクッキーだったりポップコーンだったりする人もいて何か違う。おふくろの味というわけでもないようなので、アメリカ人とは食に対する考え方が違うのかも、と思った。

 

 本書は紹介された食べ過ぎの要因を逆手に取って今度はいつもより食べる量を減らそうというのが趣旨で、具体的には気づかない程度に食事の量を減らすということだが、実際にやろうとすると意外と難しいのかもなと思わなくもない。料理するにしてもいつも一個使っているものを半分に減らしてしまうと減らし過ぎだし、かといって9割使うと残りの1割の処置に困ってしまう。著者はファーストフード店では受け取ってから席に着くまでにポテトを少し捨ててしまいましょうと言っているのだが、それはめちゃくちゃ抵抗がある。でも量り売りなんて今どきほとんどないのでそれが正解なのかもしれないが、実際にやったら罪悪感に苛まれてしまいそう。

 

 ただこのやり方が一番ストレスなく、自然に体重を減らせそうな気がするのは確かだ。いつか「食事は残さずきれいに食べましょう」から「食事は無理せず残しましょう」と言われる時代が来るのかもしれない。

 

 本書は邦題的にはダイエット本だが、原題は「Mindless Eating:Why We Eat More Than We Think」(考えない食事:なぜ私たちは思っている以上に食べ過ぎてしまうのか)。もう一品注文させて客単価を上げたかったり、口コミで「価格のわりに量が少ない」と書かれたくない飲食店経営者や、販売数を伸ばしたい食品メーカーの人にとってもきっと役に立つにはずなので、一読してみるのもいいかもしれない。

 

著者

ブライアン・ワンシンク 

 

そのひとクチがブタのもと

そのひとクチがブタのもと

 

 

 

登場する作品

The Hidden Persuaders (English Edition)

ペイバック スペシャル・エディション [DVD]

The Volumetrics Eating Plan: Techniques and Recipes for Feeling Full on Fewer Calories (English Edition)

青い珊瑚礁 Ce (字幕版)

パール・ハーバー 特別版 [DVD]

Obese Humans and Rats (Psychology Revivals) (English Edition)

サウンド・オブ・ミュージック (字幕版)

ソイレント・グリーン (字幕版)

メラニーは行く! (字幕版)

ある愛の詩 (字幕版)

マイ・ビッグ・ファット・ウェディング(字幕版)

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クライシス・オブ・アメリカ (字幕版)

 

 

この作品が登場する作品

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「アルゴリズム思考術 問題解決の最強ツール」 2017

アルゴリズム思考術:問題解決の最強ツール

★★★★☆

 

内容

 日常生活でも活用できるコンピューター科学に使用されているアルゴリズムを紹介する。

 

感想

  コンピューター科学に用いられている「最適停止」「探索と活用」「ベイズの法則」などで用いられるアルゴリズムや理論が詳しく紹介されている。内容は易しいとは言い難いが、極力数式などを用いないように工夫されていて難しすぎることはなく、程よい読み応えとなっている。巻末には出典や詳しい説明が載っているので、さらに詳しく知りたい人にも親切丁寧な本。

 

 いくつか紹介されるアルゴリズムの中では、特にソートとキャッシュ、スケジューリングの話が面白かった。ソート(並び替え)は検索を容易にするためにあるので、検索が容易であれば敢えて並び替えないというのも選択肢の一つであるとか、データを一時保存するメモリには何を残しておくかは、野口悠紀雄の「「超」整理法」の手法が有効とか。

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 その他、あるアルゴリズムを用いた臨床試験の話も興味深い。臨床試験の途中でもその治療法が効果があるように思えるなら、より多くの患者がその治療を受けることができる方法。 通常は治療法を試す患者と試さない患者に半々に分けられて、試験が終わるまではその状態をキープする。そうすると試験の正当性を保つためだけに、治療法を試さないグループで患者が死亡してしまうことがあるかもしれない。医学の発展のためには仕方ない、ではなくて、そうならないように臨床試験を成立させながらも、なるべく多くの患者を死なせずに済む方法があるはずだ、と発想できることがすごい。

 

 

 アルゴリズムを使って実際の生活に役立てていこうという趣旨の本ではあるが、こういう場合にはこうしろ、と明確に教えてくれるわけではなく、割とフワッとした指南しかない。だから、自分でそれをどう活用するか、よく考える必要がある。

 

 おかしな話に聞こえるかもしれないが、コンピューター科学においては、計算とは悪いものだということが暗黙の原則となっている。すぐれたアルゴリズムの根底には必ず、思考の労力を最小限に抑えよという命令がある。

p430 

 

 ただあらゆるデータを取り込んであらゆる計算を行いながら動いているように見えるコンピューターも、実は完璧な計算を行って完璧な結果を返すのではなく、なるべく簡単な計算でより正解に近い答えをだそうとしているという意外な事実は、それらを考える上でよいヒントになるかもしれない。ましてや現実世界には白黒はっきりした答えなどなく、またそれが正解かどうかの答え合わせなど出来ないことの方が多い。そんな問題をじっくりと時間をかけて完璧な答えを出そうとするよりも、より正解の確率が高いと思える答えを選択し、迷いや躊躇なく自分を信じて全力でそれに取り組む方が良い人生を送れるということなんだろう。

 

著者 

ブライアン・クリスチャン/トム・グリフィス 

 

アルゴリズム思考術:問題解決の最強ツール (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

アルゴリズム思考術:問題解決の最強ツール (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

  • 作者: ブライアンクリスチャン,トムグリフィス,田沢恭子
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2019/04/03
  • メディア: 文庫
  • この商品を含むブログを見る
 

 

 

登場する作品

「アル=ジャブル・ワル=ムカーバラ」 アル=フワーリズミー

サイエンス・アドベンチャー〈上〉 (新潮選書)

エマ (上) (ちくま文庫)

人口論 (中公文庫 (マ5-2))

The High Cost of Free Parking: Updated Edition (English Edition)

The Oligarchs: Wealth And Power In The New Russia (English Edition)

ティンカー・クリークのほとりで (シリーズ精神とランドスケープ)

禅とオートバイ修理技術〈上〉 (ハヤカワ文庫NF)

いまを生きる (字幕版)

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パラノーマル・アクティビティ5 (字幕版)

アイアンマン3 (字幕版)

ザ・マペッツ (吹替版)

スマーフ (吹替版)

G.I.ジョー (字幕版)

バッドサンタ [DVD]

ギンズバーグ詩集「吠える」

歩く (一般書)

ぼくの哲学

0歳児の「脳力」はここまで伸びる

「アルファベット表」 ロバート・コードリー

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ギネス世界記録2019

不思議の国のアリス (角川文庫)

The Art of Computer Programming Volume 1 Fundamental Algorithms Third Edition 日本語版 (アスキードワンゴ)

心理学〈上〉 (岩波文庫)

捨てる 残す 譲る 好きなものだけに囲まれて生きる

ほとんど記憶のない女 (白水Uブックス)

緋色の研究 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

シングルス (字幕版)

ビッグ・イージー

L.A.ストーリー 恋が降る街 [DVD]

Braving Alaska [DVD] [Import]

MONTANA SKY

ワーキング・ウーマンのための超整理法 (海外シリーズ)

Keeping Found Things Found: The Study and Practice of Personal Information Management (Interactive Technologies) (English Edition)

「超」説得法 一撃で仕留めよ

クラウド「超」仕事法 スマートフォンを制する者が、未来を制する

「超」勉強法

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本を書く

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カエルを食べてしまえ!

戦略的グズ克服術―ナウ・ハビット

すべては「先送り」でうまくいく ――意思決定とタイミングの科学

老子 (中公クラシックス)

「もしも―—―」 ラドヤード・キプリング

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コンピュータの時代を開いた天才たち

バートランド・ラッセル著作集〈第10〉人間の知識 (1960年)「人間の知識」

アニー (字幕版)

人間知性の研究・情念論

タイタニック (字幕版) 

The Gambler

がんばれカミナリ竜〈上〉進化生物学と去りゆく生きものたち

哲学探究

アニーよ銃をとれ 特別版 [DVD]

明日の幸せを科学する(ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム

Introduction to Relaxation Methods

Discrete Relaxation Techniques (International Series of Monographs on Computer Science, 5)

プリンセス・ブライド・ストーリー

数学のスーパースターたち―ウラムの自伝的回想 (1979年)

キーツ書簡集 (岩波文庫 赤 265-3)

自由論 (光文社古典新訳文庫)

分子生物学への道

セレンディピティ物語―幸せを招ぶ三人の王子

The Principles of Psychology

種の起源(上) (光文社古典新訳文庫)

ダイスマン (1972年)

ハワーズ・エンド (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-7)

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 「The Zen of Python」

雇用、利子および貨幣の一般理論〈上〉 (岩波文庫)

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ビューティフル・マインド (字幕版) 

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ゲーム理論 (〈1冊でわかる〉シリーズ)

コンピュータ科学者がめったに語らないこと

道徳感情論 (日経BPクラシックス)

パンセ〈1〉 (中公クラシックス)

進化の存在証明

愉しい学問 (講談社学術文庫)

オデッセウスの鎖―適応プログラムとしての感情

バーナード・ショー名作集「人と超人」

The Making of a Fly: The Genetics of Animal Design by Peter A. Lawrence(1992-04-15)

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筑摩世界文学大系〈89〉サルトル (1977年)「出口なし」

 

 

この作品が登場する作品

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「サバイブ(SURVIVE) 強くなければ、生き残れない」 2017

サバイブ(SURVIVE)――強くなければ、生き残れない

★★★☆☆

 

内容

 動物たちが生き残るために取っている戦略を紹介する。

 

感想

 生き残るための生存戦略と聞くと、まず思い浮かぶのは食物連鎖のトップに立つような襲われても負けない力の強さだが、それだけじゃないことを教えてくれる。力の強さは分かりやすく単純なだけに、皆がそれを目指すと競争相手が多くなるし、それだけにかなりの体力も必要で、たとえ勝てても自分も無傷でいられない可能性が高い。

 

 本書では、そんな力に頼らず周囲と友好関係を築いて争わないですむ環境を作ったり、襲われてもビクともしない防御力を鍛えたり、誰も食べないものを食べられるようになったり、何も口にしなくても生き延びられるようになったりと、様々な生存戦略があることを紹介する。生き残るという事は、勝つという事よりも負けない事が重要だということに気づかせてくれる。きっと人間社会の中でも、いわゆる普通の生き方とされるものにこだわることなく、自分なりの生き方を見つけていけばいいのだろう。

 

 

 様々な動物が紹介されるが、師弟関係を結んだオスがコンビを組んで、求愛ダンスをするというオナガセアオマイコドリの話が面白かった。求愛に成功すると師匠だけがメスと交尾をする。弟子は一人前になって弟子を取るまではお預けだ。出産・子育てはメスだけで行い、オスは基本的には師弟関係のあるオスと暮らすというスタイルは、昭和の日本の、会社中心の男社会のようだ。

 

 その他、生涯で一度も水を飲まなくても大丈夫なカンガルーネズミのような、なるべく栄養を摂取しなくても生きていける方向に進化した動物も興味深い。そして様々な進化を遂げた生き物たちの特殊な体の機構を応用して、人間社会に役立つ商品が開発されているという話も面白く、その他の事例もたくさん知りたくなった。

 

 今作も前作「LIFE」同様、各章で最初に漫画、次に解説文で最後に豆知識が紹介されるというスタイル。ただ前回は各章がパンダや猫など動物毎だったのに対して、今回は「負けない」「あきらめない」などテーマ毎となっている。各テーマで数種類の動物が登場するので、特定の動物を掘り下げるというよりは様々な動物を浅く広く紹介するといった感じになっている。

 

 メジャーな動物はそれほどいないし、そんな動物の知られざる生態というのもそんなにはないだろうから仕方がないのだが、ディープさは薄まっているような印象を受けた。

 

著者

麻生羽呂/篠原かをり

 

サバイブ(SURVIVE)――強くなければ、生き残れない

サバイブ(SURVIVE)――強くなければ、生き残れない

 

 

 

関連する作品

シリーズ前作

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「はい、チーズ」 2009

はい、チーズ

★★★☆☆

 

内容

  カート・ヴォネガットの没後に出版された未発表短編集。

 

感想

  収められた短編の中で「FUBAR」が一番気に入った。入社時に配属先のスペース不足でただ一人別の場所にデスクを与えられた男。一時的な処置だったはずなのに、そのまま存在を忘れ去られ、誰とも交流することなく孤独に仕事を続けている。

 

 個人的には誰にも監視されず好き勝手出来るので、そんなの天国じゃん、と思ってしまうのだが、主人公はそうは思っていない。組織に忘れ去られ、大した価値もない仕事をしているみじめな男だと自己評価をしている。彼の秘書として配属された新人女子社員が、そんな彼の意識を変えようとする。

 

「かわいそうな自分が大好きで、それを変えるようなことをしたくないなら」

単行本 p43

 

 怖気づく主人公に、女子社員が勇気を奮い起させるためにかけた挑発的な言葉だが、確かにこんな人を世の中で見かけることは割合ある。「かわいそうな自分」というものにアイデンティティを置く人間。周りがいくらポジティブな側面を指摘して希望を持たせようとしても、それを頑なに認めない人。すべての面でそういう人は少ないかもしれないが、仕事や恋愛、勉強など、ある一面についてはそういう傾向を見せる人は多いかもしれない。

 

 心の持ちようで、世界はどのようにも見ることができる。状況は全く何も変わっていないのに灰色の世界が急に楽園になるというこの物語は、とてもポジティブな気分にさせてくれる。

 

 物事の見方を変えてくれる意味では、化石を並べて蟻の進化を推察する「化石の蟻」も面白かった。舞台はソ連で科学者の推察は共産主義による衰退を示唆しているのに、政府高官の推察は、勘違いからだが、民主主義による退廃を示唆する。

 

 その他の短編も、どれも毛並みが違い、バラエティに富んでいて読みごたえがある。ただいくつかはオチが良く分からないものや、何度も読んでようやく意味が通じるものがあったりして、少しモヤっとする部分もあった。

 

著者  カート・ヴォネガット

 

はい、チーズ (河出文庫)

はい、チーズ (河出文庫)

 

 

 

登場する作品

星条旗よ永遠なれ

[BEYOND THE STANDARD] ベートーヴェン: 交響曲第5番「運命」 / 吉松隆: サイバーバード協奏曲

蛍の光(ピアノ)

Someday I'll Find You

These Foolish Things

Among My Souvenirs

Hot Cross Buns

 

 

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「鳴門秘帖」 1927

鳴門秘帖 全6巻合本版

★★★★☆

 

あらすじ

 倒幕の動きの疑いがある阿波徳島藩の内情を探るために潜入し、その後消息を絶った隠密を探すため、阿波入国の手立てを探る主人公たち。

 

感想

 冒頭の入れ替わり立ち替わり、次々と様々な登場人物が現れる展開が面白い。しばらくは誰が中心の物語なのかわからなかった。一応、主人公は虚無僧姿で放浪する男だが、それぞれの視点で語られる群像劇と言ってもいいかもしれない。

 

 たくさんの登場人物で把握できるかなと不安になるが、程よく脱落していくので何とかついていける。ただ皆結構あっさりと死んでしまって驚くことも多いが、意外性があっていい。そしてなぜか登場する平賀源内が若干浮いているような気がしないでもない。

 

 男前で、大体の女には惚れられてしまう主人公。言い寄る女にはあいまいな態度でお茶を濁しているのに、なぜか料理屋の娘にだけは俺のために徳島藩の男の愛人として現地の内情を探っておいていくれとか、身代わりになれとか甘言を弄して言いように使おうとするのは可哀そうだった。彼女が一番気の毒な扱いかもしれない。

 

 その彼女は徳島藩の男に拉致されて無理やり愛人にさせられたり、主人公の幼馴染の女はある男に幽閉されていたりと、なかなか荒いことをされている。登場人物たちがあっさり殺されたりするのもそうだし、大阪で仲間が目の前で徳島に連れ去られても助けようともせず一旦江戸に戻っちゃったりと、どこかナチュラルに人の命を軽く描いている感じが、江戸時代ではなく、これが書かれた昭和初期という時代を感じてしまう。

 

 江戸、大阪、徳島と広い地域を舞台にしていながら、登場人物たちが様々なところで偶然出会うという都合の良すぎるシーンがありすぎるのが気になるが、先の読めない展開が続いてかなりの長編だがぐいぐいと引き込まれる。細かい問題点はないわけじゃないが、そんなのが気にならないくらい面白い。まさに皆が楽しめる大衆娯楽小説だ。何度も映画化やドラマ化されているのも納得できる。

 

 昨年もNHKがBSでドラマ化したようだが、それでもこの小説は段々と映像化されることは少なくなり、世の中から消えていっている。自分もこの小説の存在を知らなかった。こんなに大人気だった作品ですらこんな感じだとすると、歴史に名を残すような作品を残すという事はとてつもないことだなと強く思わずにはいられない。

 

著者 吉川英治

 

鳴門秘帖 01 上方の巻

鳴門秘帖 01 上方の巻

 

鳴門秘帖 - Wikipedia

 

 

登場する作品

八?通志(修?本)(套装共2册)

「還 家 抄」

 

 

関連する作品

映画化作品 

鳴門秘帖 FYK-164-ON [DVD]

鳴門秘帖 FYK-164-ON [DVD]

 
甲賀屋敷 [DVD]

甲賀屋敷 [DVD]

 
鳴門秘帖 [DVD]

鳴門秘帖 [DVD]

 
鳴門秘帖 完結篇 [DVD]

鳴門秘帖 完結篇 [DVD]

 

 

 

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「マチネの終わりに」 2016

マチネの終わりに (文春文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

  クラシックギタリストの男とジャーナリストの女が出会い恋に落ちる。

 

感想

 ともに40代前後の男女が恋に落ちる。それは10代や20代の恋とは違って、それだけで動くことができない様々な事情を抱えてしまっている。例えば婚約者の存在やそれなりの立場を築いてる仕事、老齢を迎える両親や知り合いの存在。年を重ねればそれなりのしがらみを抱えている。そして不惑と言われる年齢ではあるが、なんとなくこの後の人生が見えてしまい、このままでいいのか、駄目ならどうするべきか、色々と迷う年頃でもある。

 

 そんな二人の恋愛物語。最初の出会いで気持ちが通じ合い、そのまま勢いだけで転がっていくのかと思いきや、様々な事情が二人を押しとどめようとする。途中、アンジャッシュのコントばりのすれ違いもあったりして。二人の出会ってからの5年間が描かれているのだが、直接に顔を合わせたのは数えるほどしかない。それでも互いに相手の事を想っているのが不思議な感じがする。大人だから少し話しただけで相手のことが分かって恋に落ち、それだけにほとんど直接会っていないから不安になるという皮肉。でも確かに他人から見たら不思議な関係に見えてしまうだろう。

 

 洋子は自分が、出口が幾つもある迷宮の中を彷徨っているような感じがした。そして、誤った道は必ず行き止まり、正しい道へと引き返さざるを得ない迷宮よりも、むしろ、どの道を選ぼうとも行き止まりはなく、それはそれとして異なる出口が準備されている迷宮の方が、遥かに残酷なのだと思った。

p209

 

 様々な事情が絡み合い進んでいく人生。自分の選択が正しかったのかわからないままそれでも前に進むしかない心もとなさ。そんな中で本書の中で繰り返される「過去は変えることができる」という言葉は心強くもある。今の自分次第、これから自分の取る行動次第で、過去の出来事の意味合いを変えられる。だからこそ前向きに生きようと考えられる。

 

 いわゆる恋愛小説ではあるが、イラク情勢や東日本大震災リーマンショックや原爆のことなど現実の出来事を織り交ぜ、文化や社会に対する考察なども差し挟まれてかなり読み応えのある内容に仕上がっている。二人の結末も悪くない。

 

著者 平野啓一郎

 

マチネの終わりに (文春文庫)

マチネの終わりに (文春文庫)

 

マチネの終わりに - Wikipedia

 

 

登場する作品

神曲 01 地獄

アランフェス協奏曲

Seis por Derecho

ブラームス:間奏曲 イ長調 op.118-2?《6つのピアノ曲》より

イエスタデイ(ジョン・レノン、ポール・マッカートニー/編曲:武満 徹)

Bridge Over Troubled Water

Visions

Killing Me Softly with His Song

音楽の基礎 (岩波新書)

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この素晴らしき世界

ベニスに死す (字幕版)

Toxic

ヘルマンとドロテーア (岩波文庫)

バッハ:無伴奏チェロ組曲 第3番 ?ブーレ

ドゥイノの悲歌 (岩波文庫)

J.S.バッハ:リュート組曲(全曲)(期間生産限定盤)

Fantaisie op 54 bis (Dans le genre espagnol)

Castelnuovo-Tedesco - Guitar Concerto No. 1 in D Major, Op. 99

「四日間」 ガルシン

ネレトバの戦い [DVD]

タンスマン: 組曲「カヴァティーナ」

スクリャービンの主題による変奏曲」

「プレリュードとフーガ」 コシュキン 

ソナタ・ジョコーサ

「ギターのためのソナタ」 バークリー

大聖堂(バリオス)

Suite populaire brésilienne, W020: ガヴォット?ショーロ(組曲《ブラジル民謡組曲》より)

明日 一九四五年八月八日・長崎 (集英社文庫)

失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへI (岩波文庫)

ヴォカリーズ

トッカータ」 ロドリーゴ

エンパイア・ステイト・オブ・マインド(feat.アリシア・キーズ) [Explicit] [feat. アリシア・キーズ]

ヴィラ=ロボス:12の練習曲 - No. 1 Allegro non troppo

ヴィラ=ロボス:12の練習曲 - No. 3 Allegro moderato

J.S.バッハ:フーガの技法

「イプノスの綴り」 ルネ・シャール

アダージョ?ピアノ協奏曲(ラヴェル)

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「月の光」 ドビュッシー 編曲 ジュリアン・ブリーム/ジョン・ウィリアムス

 「トリプティコ」 ブローウェル

A Dream Goes on Forever

弦楽四重奏曲 第17番 変ロ長調 K.458 《狩》 第四楽章

ソル:ギター音楽集

失われた足跡 (岩波文庫)

「スカイ」 ジョン・ウィリアムス

マトリックス (字幕版)

4.33

黒いデカメロン (L.ブローウェル)

 

 

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「あなたの体は9割が細菌 微生物の生態系が崩れはじめた」 2016

あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた

★★★★☆

 

内容

 人体にすむ微生物たちが人体に与えている影響を、明らかになりつつ研究の成果を踏まえて紹介していく。

 

感想

あなたが「自分の体」と呼んでいる容器を構成している細胞一個につき、そこに乗っかっているヒッチハイカーの細胞は九個ある。あなたという存在には、血と肉と筋肉と骨、脳と皮膚だけでなく、細菌と菌類が含まれている。あなたの体はあなたのものである以上に、微生物のものでもあるのだ。

p11

 

 人体には人体を構成している細胞以上の細菌などが住んでいるという現実があり、そんな細菌たちが人体に何の影響も与えていないはずがないというのは感覚的に理解できる。ただ消化器系だけでなく、自閉症などの神経系にも影響を与えている可能性があるというのには驚かされる。 

 

 ある細菌が自らの繁栄を持続させるために脳に働きかけて、何度も手を洗わずにはいられなくなる強迫神経症を引き起こしているとか、ちょっと信じられないような事例も紹介されている。実は細菌に人間が操られれているだけなのかもしれないと考えるとちょっと恐ろしい。そして、原因が細菌という事になると、もしかしたら肥満や神経系の病気も他者に感染することがあり得るのかもと考えるとさらに恐ろしい。

 

 本書では遅発性自閉症について詳しく説明されている。ある母親が、息子が突然自閉症になった原因を突き止めようと、医学や生命科学とは無縁であったにもかかわらず論文を読んだり、学者に協力を得ながら追究して、最終的には一つの論文を書き上げ、この分野の研究に大きな貢献をするまでになったという話は、とても感動的。まさに母の愛といったところだが、これが怪しい宗教やニセ科学に走らせることもある、というかこちらのほうが多いので、何とも言えない部分もある。この母親の熱意を継ぐように、娘が研究者の道を歩み始めているというのもまたいい話。映画化できそうである。

 

 この遅発性自閉症を引き起こしたと考えられるのが、別の治療で使われた抗生物質抗生物質はターゲット以外の細菌も殺すので、腸内にすむ細菌たちのバランスを崩してしまった事が原因のようだ。抗生物質は、特に様々な機能を成長発達させる幼児期の使用には注意が必要のようだ。その他、母親の健康な腸内細菌を子供に受け継がせるために、出産時の帝王切開や粉ミルクの使用などの危惧される点が紹介されていて、これから出産を考えている人は一読しておくと良さそうだ。

 

 腸内の細菌が原因だという事であれば、特定の細菌を送り込めば治るのではと考えてしまうが、そう簡単にいかないのが難しいところ。外来種によって生態系が壊滅的に破壊された自然は、その外来種を取り除いただけではすぐに元に戻らないのと同じか。それを解決するための方法が、健康な人間の腸内細菌一式を移植する方法。本書で詳細に紹介されているが、あまり食事前には読まないほうがいいかもしれない。

 

 具体的な説明が多くて、すらすらと読むのはなかなか難しかったが、この分野の本を読むのは初めてだったので、なかなか刺激的で面白かった。消化器官の内壁も皮膚同様、外の世界と接している面だ、という考えは、個人的には新しい視点だった。この分野の研究はまだまだ始まったばかりなので、今後も注目していきたい。いつか自分に最適な腸内細菌一式を取り入れるだけで、健康でいられる日が来るかもしれないと考えると、ワクワクする。

 

著者 アランナ・コリン

 

あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた

あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた

 

 

 

登場する作品

種の起源(上) (光文社古典新訳文庫)

人間の由来(上) (講談社学術文庫)

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人及び動物の表情について (岩波文庫)

利己的な遺伝子 <増補新装版>

老化・長寿・自然死の楽観的エッセイ

「肘後備急方」 葛洪

狂食の時代

 

 

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「ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅」 2013

ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅 (講談社文庫)

★★★☆☆

 

あらすじ

 かつての同僚の女性から余命が少ないことを知らされた隠居生活を送る老人。見舞いの手紙を書き、ポストに投函するために出かける。 

 

感想

 手紙を投函するつもりで出かけたのに、気が付けばイギリスを南から北に縦断して、歩いて相手に会いに行く気になった主人公。 何もしてやれない末期の病気の人間に対して、素っ気ない見舞いの言葉を書いた手紙を書くことしかできない自分に後ろめたさを感じてしまうのはよく理解できる。そしてポストに投函できず、ずるずると次のポストを求めて歩いているうちに、直接会いに行こうという気になったのも、極端ではあるがなんとなく分かる気がする。

 

 思い付きの行動であるために、十分な装備も用意されておらず、着の身着のままの姿で歩き続ける主人公。当然、慣れない運動で体が痛んだり、予期せぬ出来事に戸惑ったりする。しかし、様々な人々に助けられたり、勇気づけられたりして旅は続く。歩きながら自分の人生や家族についての思いを巡らせる。妻を置いて別の女性に会いに行くという行為自体もなんとなく意味深である。

 

 歩く途中で見た自然現象に啓示のようなものを感じたり、歩きながら考え前向きになったり弱気になったり、迷ったりする姿は、確かに巡礼のようである。旅というものは目的地よりもそこに至る過程に価値があるのかもしれない。日常から離れ、普段は考えないようなことを考える。旅をしながら改めて自分というものを知ることになる。時々であった人に必要以上に自分のことを打ち明けてしまうのも、旅先の気楽さがあるからだろう。

 

 自分も結構この目的地に着くまでの移動している時間が好きだ。流れる景色を見ながらとりとめのない考えが頭の中を巡る時間。日常から離れていっていることを実感できる幸福な時間だ。目的地に到着すると少し寂しい気分にすらなったりもする。

 

 主人公は徐々にこの巡礼の旅に慣れ、自身の中に押さえ込んでいた様々な感情をうまくコントロールし、ポジティブに物事を受け入れられる性格へと変わっていく。しかし、そんな彼の姿が世間で話題になり、彼とともに歩こうとする人間たちが表れる。

 

 彼らは彼らなりに主人公を解釈し、様々な思惑を持って彼にいろいろと意見を言う。それらが全く主人公の意図とは違うというのが悲しいが、世間ではよくあることだ。自分ではよき理解者のつもりでサポートしようとする者たち。これがビジネスや宗教であれば大成功だが、そうでないならただの迷惑だ。味方のつもりの彼らが足を引っ張ることすらよくある話。そんな彼らに主人公はかき乱され、調子を崩していく。

 

 そんな最悪の状態で目的地に近づきながらもさまよう主人公。ついには元同僚の女性と感動の再会をして…という安易な予想は見事に裏切られる。孤独な旅は、普段は近すぎる人と距離を置くということでもあった。そうすることで、近すぎて見えなかったものが見え、見えていたものも違うように見える。どこかで間違ってしまった二人も、一度距離を取ってみると最初からやり直す糸口が見つかる事もある。想像とは違ったが、希望の見える結末に、温かな気持ちになることができた。

 

著者 レイチェル・ジョイス

 

ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅 (講談社文庫)

ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅 (講談社文庫)

 

 

 

登場する作品

天路歴程 第1部 (岩波文庫 赤 207-1)

「雄々しく闘うその人よ」

God Save The Queen

You Don't Bring Me Flowers

Jerusalem

Mighty Like a Rose

 

 

関連する作品 

ハロルド・フライを待ちながら クウィーニー・ヘネシーの愛の歌

ハロルド・フライを待ちながら クウィーニー・ヘネシーの愛の歌

 

 

 

この作品が登場する作品

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「死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相」 2014

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

★★★★☆

 

内容

 冷戦下のソ連で起きた不気味な未解決事件「ディアトロフ峠事件」の真相を探る。 ノンフィクション。

ディアトロフ峠事件 - Wikipedia

 

感想

 雪山でトレッキングしていた9人の若者が不可解な死を遂げた事件。彼らの遺体はテントから遠く離れた地で見つかり、しかも皆防寒具を身に着けておらず、ほとんど着の身着のままの姿。何人かは凍死ではなく外傷による死で、しかも一人は舌がなくなっており、さらに何人かは通常の何倍もの放射線を浴びていた。なのに、テント内は整然としており、誰かに襲われたり争ったりした形跡はない。当日は近くで謎の光が目撃されという情報もある。

 

 不可解なことばかりが積み重なって、様々な憶測を呼んでいる事件である。 定期的にネットの一部で話題にあがる事件だが、意外にも世界的に知られるようになったのはここ10年の話のようだ。そのせいか、ウィキペディアもあまり充実していない。この事件を知ったアメリカ人の著者が、ロシアに向かい真相を探る。

 

 本書は、著者がロシアを訪れ、事件の関係者たちに話を聞き、被害者たちの事件が起きるまでの数日間の足跡を実際にたどるパート、残された資料を基に被害者たちが出発してから事件が起きるまでの数日間を描いたパート、事件が発覚して救助隊が現地で彼らの遺体を発見するに至るまでのパート、と3つのパートが交互に描かれていく。

 

 読んでいて何よりも胸に来るのは、数日後に謎の死を遂げるなど思ってもいない、被害者たちを描いたパートだ。道中、仲間たちと陽気に歌を歌ったり真剣に議論を交わしたりと、青春を謳歌する若者の姿が描かれている。そしてその時に撮られた写真もたくさん掲載されていて、彼らのまだあどけなさの残る無邪気な笑顔を見ていると胸が痛くなる。

 

 三つのパターンが終わり、最後に何が起きたか謎となっている最後の空白の数時間を、著者が自らの調査の結論を踏まえて、その様子を再現する、という作品の構成は見事だ。後半は気になって一気に読んでしまった。

 

 ただ、著者の結論にはあまり納得できない。様々な調査をしたのに結局謎のままで、最後の最後にたまたま読んだ論文から答えが出た、というのはあまりにも取って付けた感がある。せめて被害者たちと同じ場所でキャンプしてみたらどうにも落ち着かない気分になったから調査してみたら判明した、とかだったら説得力があったのだが。どうせなら、危険の少ない夏にでも現地を訪れてデータを取って欲しかった。

 

 とはいえ、原因はともかく彼らが死に至った経緯は著者の言う通りかもしれない。不可解なことばかりに思えるが整理してみるとそんなに複雑ではなくて、ただ一点、外に出れば確実に凍死するにもかかわらず、彼らはなぜ着の身着のままで飛び出したのか?という事だけが謎だという事が分かる。

 

 著者の結論だと全員が一斉に飛び出すには、理由が弱い。個人差があるようなので、誰か一人が飛び出したとしても一人くらいは冷静で、ちゃんと防寒具を身に着けて助けに行きそうだ。それからテントの外で何かあった場合も、外の様子を窺うことがあったとしても、一目散にはテントから逃げ出すことはない気がする。

 

 そう考えるとテントの中でヤバいことが起きたというのが、一番しっくりくる。それを見た瞬間、テントを切り裂いてまで逃げないといけないと思うもの、それって何だろう?夜中に布団の中でそんなことを色々考えていたら、背筋が凍ってめちゃくちゃ怖くなってしまった。

 

 著者はありえないと言っていたが、雪崩の可能性もあるのかもしれない。雪崩であれば、テント外の出来事だが巻き込まれないように必死に逃げるだろう。何かの大きな音を、雪崩が起きたと勘違いしたという事ならあり得るかもしれない。それなら著者の説もなくはない。

 

jp.sputniknews.com

*今年初めに再調査を行ったロシアの調査委員会は、雪崩が原因と結論付けたようだ。

 

著者 ドニー・アイカ

 

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

死に山: 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相

 

 

 

登場する作品

「Victory Over Darkness」  Donnie Eichar

「Dan Eldon Lives Forever」 Donnie Eichar

スターリン―ユーラシアの亡霊

真昼の暗黒 (岩波文庫)

最後のソ連世代――ブレジネフからペレストロイカまで

「メリーさんの羊」 サムイル・マルシャーク

収容所群島 1―1918ー1956文学的考察 (新潮文庫 ソ 2-7)

「死者の山殺人事件」 アナトリー・グシュチン

雪崩リスクマネジメント―プロフェッショナルが伝える雪崩地形での実践的行動判断

 

 

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「サブマリン」 2016

サブマリン (講談社文庫)

★★★★☆

 

あらすじ

  無免許運転で歩行者を轢いて死なせてしまった少年を担当することになった家裁調査官。

 

感想

 不注意で人を轢いてしまった人と、狙って人を轢いた人では、どちらが罪が重いのか?これから犯罪を犯そうとする可能性が高い人物であれば、その前に殺してしまってもよいのか?罪を犯した人間には同様の事をしても良いのか? 単純にイエスやノーでは答えられない、答えたくない問いを問いかけてくる。加害者側にしたら色々と言い分があるにしても、被害者側から見ればどんな理由であってもじゃあ仕方ないか、とはならない。

 

 そんな重いテーマを軽やかさすら感じる物語に落とし込んでくるのだから、著者はすごい。それに貢献しているのは、主人公の先輩のキャラクターによるところが大きいだろう。出鱈目なことばかりをやっているように見えて、常識にとらわれない発言は時々芯を食ったことを言う。いい加減なように見える言動も、実は世間の枠に囚われないように抗っている結果のようにも見える。

 

当事者ではないにもかかわらず、当事者の気持ちを代弁しようとする人物を、僕は少し警戒する。あの人はきっとこう思うはずだ、と言い切れる人は、自分を正しいと思いすぎているきらいがある。当事者にとって、ありがた迷惑になることを考えていない。

p56 

 

 世間はすぐに杓子定規で物事を捉えたがる。世の中で起きていることを自分の中で処理をするのにそれはすごく便利だし、模範解答的な発言をすれば正しいことをしている気分になって気持ちがいい。最近ではSNSでそんな言葉があふれている。

 

 だけど世の中はそんなに単純じゃない。簡単に善悪を決められないことも多い。そんな複雑な問題を主人公たちは、杓子定規を超えた解決方法はないかと模索し、試行錯誤している。この模範解答をして気持ちよくなって満足してしまわない、何とか最高のアドリブをひねり出そうとする姿に、とても好感が持てる。正解のない世界に、明るい兆しを感じさせてくれるラストだった。

 

 ただ、ジョン・レノンの「Power To The People」の替え歌のくだりだけは、あまり意味が分からなかった。「上司に力を」って、圧力を加えろって事なのか、権力を与えよって事だったのか。原曲から考えると権力を与えよってことになると思うのだが、それだと意味が通じないような。上司が頑張ってさらにその上の上司に文句を言ってくれって事だったのか?

 

著者

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サブマリン (講談社文庫)

サブマリン (講談社文庫)

 

 

 

 関連する作品

前作

チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)

 

 

 

登場する作品

Power To The People - The Hits

イワンの馬鹿

アルマゲドン (字幕版)

デアデビル (字幕版)

 

 

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「サンショウウオ戦争」 1936

サンショウウオ戦争

★★★☆☆

 

あらすじ

  赤道直下の島で発見されたオオサンショウウオは、真珠を取ったり、海中での工事に活用されていたが、急激に進化し、また増殖もし、やがて人間と対立するようになる。別邦題は「山椒魚戦争」。

 

感想

 内容とは関係ないが、まず和田誠による本の装幀が可愛らしくて良い。これまではなんとなく彼のイラストには古臭いイメージを持っていたが、こうやって改めて見てみると素敵だ。

 

 人間のように、他の動物にも高度な知能を持ち、発達した文明を築く可能性があるのではないか? というところからスタートしたであろう小説だ。確かにあり得ない話ではないのかもしれない。でもなぜそれがよりによって山椒魚なの?と不思議だったのだが、ちゃんとした理由があるようだ。かつてヨーロッパで発見された山椒魚の化石が人間の化石と間違えられていたことがあり、そこから着想を得たという事らしい。

 

オオサンショウウオ ぬいぐるみ 63cm

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  グロテスクな見た目だが、でもこの生き物が2本足で立って歩くところを想像するとどことなくユーモラスで、なかなかいいチョイスだ。

 

 物語は、ある船長と山椒魚の出会いから始まる。そのままこの船長を中心として話が展開されていくのかと思いきやそうではなく、様々な登場人物たちが現れて、山椒魚とのエピソードが紹介され、そして消えていくという断片的な物語となっている。途中には新聞記事や学界や産業界の様子、伝聞なども挿入されており、それらの情報を組み合わせると、山椒魚と人間の関係が次第に変化していく様子のイメージが出来上がっていく。

 

 面白いのだが、少しペースをつかみづらい部分もある。ただそれらもどこか現実社会への皮肉や批判が込められているようでもあり、また、エピソード間の空白にも色々と想像力を掻き立てるものがあって、なかなか興味深かった。何度か、これは第2次大戦前の作品なんだよな、と確認してしまうような、著者の先見性が感じられる箇所もあった。

 

 

 小さな島の湖にいた山椒魚を、人間が連れ去り大海に放ったことで急激な進化が始まった、というのもどことなく説得力のある設定だし、最初は労働力として、海を埋め立て人間が住むための陸を作らせたというのも分かるような気がする。やがては大量に繁殖した彼らを取引したり、管理・監督するための一大産業が出来上がっていくし、一方では言葉を喋り、論文すらも書く彼らに権利を与えるべきかの議論が起きる。彼らの登場によって起こり得そうな出来事が次々と挙げられていて、よく考えられているなと感心してしまう。

 

 人間の意図によって陸地を作り続けた結果、今度は逆に山椒魚の住む海が無くなっていき、最終的には両者の衝突が始まるという皮肉な結末だ。ただ、それまで一貫して声高に何かを主張するでもなく、意思表示も見せなかった山椒魚が突然、徹底的な行動に出たのには少し違和感があった。意味深な最終章からしても、実は彼らの背後には人間がいると考えるほうが自然なのかもしれない。

 

 人間との交渉の場にやってきたのも、山椒魚が全権を委任したという人間の代理人だったので、権利を主張する山椒魚の存在は実際には確認できていない。善良で文句も言わずに黙々と働き続ける勤勉な山椒魚を、己の野望のために誰か人間が裏で操っていると考えるといろいろと合点がいく。そして、それが何を比喩しているのか、いろいろと想像力が広がっていく。

 

著者

カレル・チャペック

 

山椒魚戦争 - Wikipedia

 

 

登場する作品

Trader Horn DVD 1931

Annie Laurie

千夜一夜物語(全11巻セット)―バートン版 (ちくま文庫)

オッフェンバック 歌劇《ホフマン物語》全曲 [DVD]

歌劇《ホフマン物語》: ホフマンの舟歌

 

 

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