★★★☆☆
あらすじ
引退生活を送っていたジェームズ・ボンドは、CIAの旧友から誘拐された細菌学者の救出を依頼される。
シリーズ第25作。ダニエル・クレイグ版の第5作目。163分。
感想
引退したジェームズ・ボンドが、CIAの友人の仕事を引き受けたことから、再び世界の危機を救う最前線に戻ってくる。元英国諜報員の主人公が米国のために仕事をするのもそうだが、長年自分のコードナンバーだった愛着ある「007」を後釜の女性が名乗っていることに軽くショックを受けたり、恋人との優雅なリタイア生活が猜疑心により一瞬で崩壊してしまったりと、引退したスパイの悲哀や複雑な心情が垣間見えて面白い。
彼らはけだし有能なだけに、辞めてしまうと個人的な諸事情で何をしでかすか分からず、厄介な存在になってしまう。引退したスパイが所属していた組織に命を狙われる物語はよく目にするが、組織がそうしたくなる気持ちがよく分かった。ヤクザが組織を抜ける者を消そうとするのも同じ理由なのだろう。
主人公の後釜の女性スパイはそうでもなかったが、その他に登場する女性陣は皆魅力的だ。中でも新人のCIAエージェント役のアナ・デ・アルマスは特に良かった。初々しさがありながらも、しっかりとクールに仕事をこなす。登場時間は短かったがとても印象的で、もっと彼女の活躍が見たかった。
今作では生物兵器のナノマシンをめぐる攻防が繰り広げられる。このナノマシンはDNAを分析して特定の人物や一族、さらには民族集団まで殺せてしまう恐ろしい兵器だ。これを使えば無関係の人が巻き添えにならずに済むので良いことのはずだが、むしろ怖さが増す気がするのは何故なのだろう。特定の人物や集団を確実に殺しにくる意志を強く感じるからだろうか。
激しいアクションや小粋な掛け合い、ロマンティックなラブシーンなど、このシリーズ定番の見どころが詰め込まれたエンタメ感溢れる映画だ。だが、ダニエル・クレイグ版のシリーズで追い続けていた悪の組織が、ある一人の男によってあっさりと壊滅させられ、その男と戦うことになる展開に、これまでのシリーズで主人公が時間をかけてやってきたことは何だったのだ?と、急にスケールの小ささを感じてしまった。しかもその男との対決も呆気ない。
ジェームズ・ボンドの壮大な戦いは前作で終わっており、今作では彼の去り際の生き様を描いたものととらえるべきなのだろう。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 キャリー・ジョージ・フクナガ
脚本 ニール・パーヴィス/ロバート・ウェイド/フィービー・ウォーラー=ブリッジ
出演 ダニエル・クレイグ/ラミ・マレック/レア・セドゥ/ラシャーナ・リンチ/ベン・ウィショー/ナオミ・ハリス/ビリー・マグヌッセン/アナ・デ・アルマス/デヴィッド・デンシック/ロリー・キニア/ダリ・ベンサーラ/ジェフリー・ライト/クリストフ・ヴァルツ/レイフ・ファインズ
音楽 ハンス・ジマー
登場する作品
前作 シリーズ第24作 ダニエル・クレイグ版第4作