★★★★☆
あらすじ
日雇い労働で日銭を稼ぐ青年の日々。芥川賞受賞作。
感想
金がなくなるまで動こうとせず、働いて稼げばすぐに使ってしまう。家賃は滞納するし踏み倒す。ダメなところばかりだが、同情できることもある。
父親の犯した罪によってもう自分はまっとうな生活はできないと思い込んでしまったところ。実際にここでは誰かにそのことで嫌な思いをさせられたわけではないが、小学生のころにそんな事件に出会ったら、何かあるたびにそのせいだと思い込んでしまうのも理解できないわけではない。それが劣等感の始まりだったとしても。
そんな主人公だが、やはり普通に友人と会話を楽しんだり恋人も欲しい。だけど、その表現の仕方が下手くそすぎる。繊細で相手の感情に敏感に反応してしまい、自分を守るために急に悪態をついたり醜い行動に出てしまう。
プライドが高いともいえるが、やはり劣等感を感じて馬鹿にされたくないと思っているのだろう。聞かれてもいないのに「俺中卒だけど」みたいなことを自ら切り出して、自慢みたいなよく分からないことを話し出す中卒の人がいるが、あれもコンプレックスとか反発心とかが入り乱れて、わけがわかんないことになっているのかもしれない。
そういった状況にいて、普通の人ならただわけわかんないことになっているだけなのに、この著者はその心理をいちいち冷静に分析出来るだけの力があるのがなんだか空恐ろしい感じもする。逆にじゃあなんでもっと上手くやらないんだという気持ちにもなる。
そんな明日をも知れぬような生活をしている彼が、同時に収められた短編で何年か後には状況が好転していることに少し安堵する。
著者
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