★★★☆☆
あらすじ
淡路島の貧しい農村に生まれた高田屋嘉兵衛は、やがて船に乗り、蝦夷地との交易に乗り出す。
感想
江戸時代は職業が固定されて簡単に色々な職に就けないものだと思っていたが、そうでもなかったようだ。この高田屋嘉兵衛も、もともとは農民だが商人になっている。確かに耕す田畑がなくては百姓もできないのだろうが。働き口を求めて他の職に就くのも当然かもしれない。
彼の少年時代の壮絶ないじめにあう話と著者のそれに対する考察は、タイムリーなだけになかなか興味深い。本当に日本にだけ顕著に見られる構造なのか、実際はよく分からないが、確かに日本は拒絶から入るように感じる。とりあえず拒絶して、それを乗り越えたものだけを受け入れる。またはそれを利用して仲間の結束を図る。
これは人だけじゃなくてモノにも言えて、何か新しいものが登場した時に手放しで素晴らしいという事は少なくて、批判的な意見を聞くことの方が多い。それが少しずつ世間に受け入れられ出すと何食わぬ顔で、自分も手にしているようなイメージ。
この本を手にしたきっかけは近江商人の「三方よし」に代表されるような商人の理念に興味を持ったからだが、商人の話というよりも船乗りの話だった。
そしてこの小説の中では、近江商人はえげつない存在として描かれている。「三方よし」などの理念はこの後のものなのか、それとも一部の商人だけのものなのかは、この小説だけではわからない。ただ兵庫の北風家とかそういう理念の商人は存在している。
貨幣を得るために人々が欲しがるものを調達して売るという行為、貨幣経済という経済活動は人々の生活を変えるものだなと実感させられる。人々は魅力的なものを欲しがるし、商人はそれを供給するために遠方まで仕入れに出かけ、商品は世界中を動いている。当時ですら商人の行動範囲は日本全国に及び、鎖国下の日本で外国製品は奇妙な経路を辿り流入してくる。人々の欲望は恐ろしい。だけどそれが世界を動かしている。
後半は高田屋嘉兵衛の生涯というよりもロシアの話になる。思い返せば歴史の授業でペリーが来航する前に、北海道の方で何かロシアがやってたという記憶があるが、地理的に近いロシアの方が当時は脅威だったのか。その後の日露戦争なども考えると、ロシアは日本にとって気にかけなければいけない大国なんだなって今更ながら実感した。
著者
司馬遼太郎
登場する人物
高田屋嘉兵衛/近藤重蔵/大黒屋光太夫/伊能忠敬/ゴローニン