★★★★☆
あらすじ
大学で女性問題を起こしクビになった教授が、片田舎で一人で暮らす娘としばらく過ごす事にする。著者は南アフリカ出身のノーベル賞作家。
感想
最初は主人公の女性関係の話が続き、こんな話が続いていくのかと思ったら、問題が生じて主人公は全てを失ってしまう。ここらが潮時とばかりに、町を離れ娘の住む片田舎で穏やかに暮らすのかと思いきや、酷い事件に遭遇してしまう。先が読めないような展開で少々面食らい、主人公の娘の覚悟には衝撃を覚えた。
アパルトヘイトのあった南アフリカ共和国の複雑な社会事情も垣間見える。法の上では差別が撤廃されても、人々の心は簡単には変えられないし、虐げられていた人間たちも急に普通に生きることはできない。人種だけではなく世代間でも考え方にはギャップが見られる。大きく制度が変わることによって生じた社会の動揺は、振り子が左右に揺れながらやがて静止するように、様々な試みを繰り返すことで、やがて落ち着いていくのだろう。
そんな試みの初期には、きっと極端にも思える試みが行われることもある。主人公の娘の覚悟もそういったものなのかもしれない。そういう大きな流れの中では、抗うのではなく、例え受け入れ難いことでも受け入れなければいけない時がある。考えてみれば、主人公も女性問題が持ち上がった時、一度も申し開きをすることなく、処分を受け入れていた。
ラストには安楽死処分をされる動物たちの話もあって、いろいろと考えてしまう。
著者
J・M・クッツェー
- 作者: J.M.クッツェー,J.M. Coetzee,鴻巣友季子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2007/07/01
- メディア: 文庫
- 購入: 15人 クリック: 88回
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登場する作品
少年の魔法のつのぶえ―ドイツのわらべうた (岩波少年文庫 (049))
「ララ」 ジョージ・ゴードン・バイロン
「遺言書」 フランソワ・ヴィヨン
エドウィン・ドルードの謎 (白水Uブックス 191 海外小説永遠の本棚)
「いにしえのアポロの胸像」 リルケ
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