★★★★☆
内容
社会学者を目指すシカゴ大の学生が、実地調査のために黒人ギャングたちの世界に潜入した体験記。
感想
タイトルには「社会学」という言葉が入っているが、学問というよりはルポルタージュと言ったほうがいい内容。著者は社会学者でこの体験から様々な研究成果を収めているようだが、この本ではどのようにこの世界に潜入し、そこでどのような人々と出会い、どのような体験をしたかが記されている。
「あの場所には近づいちゃいけない」と言われる場所でも行ってみると案外危なくないものだが、それでも敢えてそこに行き、さらにその奥深くまで見てやろうとする著者の度胸には恐れ入る。ただその最初の冒険で、ギャングの実力者と知り合えたという強運もある。その実力者のおかげで、その後の行動がしやすくなった。
麻薬を売って稼ぐギャングたちが、自分たちのことをただの犯罪者ではなく、地域のコミュニティのためにやっているとアピールしているのは意外だった。だけど実際に寄付をしたり、地域の活動に協力したりもしている。自分たちは極悪人間ではないと正当化したいという気持ちがあるのかもしれない。自分たちの正当性をアピールしたいという彼らの思いがある事も、著者が入り込むのに有利に働いたのだろう。
ギャングたちがコミュニティに貢献するのは、実は争いごとがある場所だと客が怖がって寄り付かず商売にならないから、ということのようだ。彼らがいることで治安の悪い場所だと思われているのに、彼ら自身は商売がうまくいくように治安を良くしようとしているのは面白い。
そんな彼らと同じ場所で暮らす女性の住人たちもたくましい。シングルマザーが捕まると彼女の子供が保護されて連れ去られないように皆で協力して子供を匿ったり、互いに食事を作ったり、不都合があれば互いに助け合っている。貧しい地域の住人たちはもっとギスギスしているのかと思ったが、こんな風なコミュニティになっているとは意外だった。
それから、自治会長の女性が住人のために色々と手助けしてやりながらも、手数料を要求したりギャングと裏取引したりして自らの立場を悪用していたり、警察が羽振りのいいギャングを妬んで彼らから金や車を強奪したりと、いろいろショッキングな事実も紹介される。だけどそれはそれで彼らの社会のシステムの一つとなって機能しているようにも見える。
その他、ギャングたちがバスケ大会に興じたり、メンバーの採用が思うようにいかず呆れ果ててしまったりと、映画でも見ることがないような彼らの姿が生き生きと語られていて、一気に読み進めてしまった。
著者
スディール・ヴェンカテッシュ
- 作者: スディール・ヴェンカテッシュ,望月衛
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2009/01/16
- メディア: 単行本
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