★★★☆☆
内容
娘に語りかけるという形式で書かれた、ギリシャの経済危機時に財務大臣を務めた経済学者による、経済の話。
感想
太古の昔から現在に至るまでの経済の歴史が著者独特の切り口で語られる。余剰と債務によって貨幣が生まれた、みたいな意外な感じのする話などもあって面白い。著者が十代半ばの娘のために書こうとしただけあって、専門用語はあまり使われず、分かりやすく書こうとしている事はよく伝わってくる。とはいえ、邦題にあるように「とんでもなくわかりやすい」かと言えば、そこまででもなく、少々歯ごたえがある内容ではある。
興味深かったのは不況時の話。不況の時には、人は失業し、作っても売れないので機械も余る。そうなってくると、生き残った企業は人を雇うようになる。機械を買うよりも、食べるためにどんなに賃金が安くても働こうとする人間のほうが安上がりというわけだ。たとえ辞められても、代わりの失業者はたくさんいる。こうして、機械に奪われつつある仕事を人間が取り戻すようになる。皮肉というか、なんというか。日本はこの状況なのかなと、ふと思った。
そして経済の歴史を見てきて分かってくるのは、結局、政府と金持ちの思惑で経済は動いているということだ。さらに、合理的でも何でも無く、世間の空気で景気は決まってしまう事。だから、嘘の数字で世間に景気が良いと思わせて実際に景気を上向かせようとする政府があるのだろうが、バレたら世間の疑心暗鬼を招いて上がる景気も上がらなくなる浅はかなやり口と言えるだろう。
そんな曖昧な経済というものを語る経済学者なんて、そんなに信用出来ないよと、経済学者である著書が語っているのは面白い。
この本で見てきたように、経済についての決定は、世の中の些細なことから重大なことまで、すべてに影響する。経済を学者にまかせるのは、中世の人が自分の命運を神学者や教会や異端審問官にまかせていたのと同じだ。つまり、最悪のやり方なのだ。
p235
市場の原理、つまり政府と金持ちの思惑によって、世の中のすべての問題が最適な解決を導き出すわけではない。金持ちや支配者には都合よく、そうではない人間や地球には悪い方向に世界が進むこともある。そこで著者は、一人ひとりが同じ力を持つ民主的な解決方法を提案するわけだが、支配者や金持ちの決定をまるで神の御神託のようにありがたがっている人達がいるのも事実ではある。
奴隷の中でも洗練されて幸せを感じているのは、最悪の愚か者だ。彼らは足かせをありがたがり、服従の喜びを主人に感謝する。
p233
それなりに面白い本ではあるのだが、タイトルの「美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい」という大風呂敷を考えると、そこまででもないな、と思ってしまう。ちなみに英語タイトルは「Talking to My Daughter About the Economy(父が娘に語る経済の話)」。このタイトルならそんなに不満は感じなかったかもしれない。だが、このタイトルだと手に取らなかったかもしれないので、難しいところだ。
著者
ヤニス・バルファキス
父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。
- 作者: ヤニス・バルファキス,関美和
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2019/03/07
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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登場する作品
Adults In The Room: My Battle With Europe’s Deep Establishment
The gift relationship (reissue): From human blood to social policy (English Edition)