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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「鍵」 1956

鍵 (中公文庫 (た30-6))

★★★★☆

 

あらすじ

 初老の男と年下の妻の夫婦生活と、それに利用される娘とその交際相手。

 

感想

 互いの日記を通して夫婦生活が描かれていく。読む前から何となく内容は知っていたのだが、ここまで赤裸々な内容だとは思わなかった。主に夫の日記で性的な内容を多く含んでいるのだが、カタカナで書かれていることでそのあけすけな感じが中和されているような気もする。これは狙ったのか、この時代のこの年代の人はカタカナを使う習慣があったのか。

 

 親しい間柄であっても面と向かって言えないことがあり、でも気づいて欲しいという時は、心のうちの相手への願望を日記に書きそれを読んでもらうというのは上手いやり方かもしれない。自分だけのために心のうちを書いた日記を他人が読むということは、ある意味では以心伝心の見える化である。ただし、読んでくれと手渡してしまうと意味がないので、盗み読みしてもらう必要がある。そして、相手にも盗み読んだことを隠してもらわなけれならない。そう考えると互いに高度な技巧を要する知的な遊戯にすら感じてしまう。

 

 

 日記に赤裸々な内容を書く夫ではあるが、よくよく考えると無邪気だ。自分の欲望に忠実でとどまるところを知らないし、妻には自分の願望を素直に伝える。案外、少年の心を持った大人というのはこういう人の事を言うのかもしれない。妻に若い男をあてがってどうなるかと見守る様子などは、彼の中の少年が目をキラキラさせているんだろうな、とイメージしてしまう。

 

 しかし酒に酔い倒れた妻を襲うのはなかなかえげつない。しかもそれに味をしめて何度も繰り返す。さすがに大丈夫なの?と思ってしまった。ここにも彼の少年のような残虐性が垣間見える。

ソレハアルイハ事実デハナク、僕ノ単ナル妄想デアルカモ知レナイガ、デモソノ妄想ヲ僕ハ無理ニモ信ジタカッタ。

谷崎 潤一郎. 鍵 (Kindle の位置No.350-351). . Kindle 版.

 

 そして夫に主導権を握られているように見える妻のほうが実はたちが悪い。夫が喜ぶから仕方なく妻の務めとしてとか言いながら、自らの欲望を満たすために実は夫を操り利用している。その果てに夫が寝たきりになった際も異常に冷静なのが少し怖い。

 

 そんな二人に加えてさらに厄介な娘とその縁談の相手の存在がある。彼らも心の中に何やら企みを秘めているようでもある。

 

 そして終盤、二人の日記には嘘が混じっていたことが分かる。妙に二人の日記にシンクロする部分があったりするので薄々とは気づいていたわけだが。本当の事を書かない日記って何?とか思ってしまう。日記とは、誰にも読ませないつもりでも何となく他者に読まれたことを意識して書いてしまうものなのかもしれない。それにしてもなんて夫婦だ、と言いたくなる。

 

(前略)二人がどんな風にして愛し合い、溺れ合い、欺き合い、陥れ合い、そうして遂に一方が一方に滅ぼされるに至ったかのいきさつが、ほぼ明らかになるはずで、(後略)

谷崎 潤一郎. 鍵 (Kindle の位置No.1973-1974). . Kindle 版.

 しかし確かに奇妙な夫婦ではあるのだが、彼らなりに愛しあっていたのは間違いない。それゆえに様々な感情が二人の間に横たわっていた。正直、夫はかなり幸福な人生だったと思う。二人の結末も愛を突き詰めた結果という気もしてしまう。

 

 そんな夫婦の物語ではあるが、夫側の真実は明かされなかったのでたくさんの謎は残っている。そしてそれらの謎がまた別の疑問を提起するような深みのある小説で、読後に色々と考え込んでしまう。エンディングも意味深だ。

 

著者

谷崎潤一郎 

 

鍵

 

鍵 (谷崎潤一郎) - Wikipedia

 

 

登場する作品

サンクチュアリ (新潮文庫)

麗しのサブリナ (字幕版)

赤と黒(ノーカット完全版) コンパクトDVD-BOX[期間限定スぺシャルプライス版]

 

 

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