★★☆☆☆
内容
腸と脳がどのように連絡を取り合い、どのように我々の健康に影響を与えているのか、紹介する。
感想
消化器官が脳のような働きもしていると聞くと信じられないような気がするが、消化器官しかない生き物もいるわけで、元々は消化器官が脳のような役割も担当しており、進化するにつれ複雑化してやがて脳にその機能を移譲したと考えれば、消化器官に脳のような機能が部分的に残っていたとしてもなんとなく納得できる。
しかし、人間が寝ているときに見る夢ですら、腸内細菌や腸の活動が影響しているかもしれないという話はなかなか驚きだ。この手の本ばかり読んでいると、人間は腸内細菌に操られているに過ぎず、どんな病気も腸内細菌に直接働きかければ治ってしまうんじゃないか、と考えてしまいがちだがそういうわけでもないようだ。確かに腸は脳に働きかけているが、また脳も腸に働きかけている。腸を整えるだけではなく、マインドフルネスなどで脳や精神を整えることも健康には有効だそう。
そして腸内細菌を健康にしておくためには何を食べればいいのかと気になるが、特定の食べ物ではなく、多様性のある食事をすることのほうが重要というのも面白い。人類がこれまで生き残れているのは、どんな環境にも適応できることが大きい。パンがなければ飢え死にしてしまうわけではなく、それならとケーキを食べて生き残ってきたわけで、どんな環境にも対応できるように出来るだけたくさんの種類の腸内細菌を体内に維持してきた。
しかし、出来るだけ効率的に大量の食糧を作って売ろうとする現在の社会では、食物の多様性が失われ、簡単にたくさん作れる特定の食物だけを偏って摂るようになり、自閉症やアルツハイマー病などのこれまであまり一般的でなかった病気になる人が増えてしまった。多様性が大事、というのは本当に示唆的で、体の中だけでなく、人々の暮らす社会にもきっと当てはまる事なのだろうと思う。
本書は一応は一般向けということになっているが、なかなか手ごわい内容となっている。詳しい説明も少なく専門用語が多用され理解が難しい。紹介される実験もただその結果を伝えるだけで、つまりどういう事かの説明がないので、「驚くべく結果だ」と言われても全然ピンと来ない。ある程度の知識がある前提で書かれている印象だ。
さらに文章も分かりづらい。
つまり、発酵食品、乳製品、フルーツジュースに含まれる、必須神経伝達物質セロトニンのレベルを調節するプロバイオティクスを摂取することによって、気分から痛覚感受性や睡眠に至る、生存に必須な機能の実行に重要な役割を果たす、体内のコントロールシステムを微調整できるのだ。
p151
全然、内容がすっと入ってこない。句点の多い長い一文で、終わったかと思ったら終わっていない文章。何度も繰り返し読んで何とか理解できるか、といったところ。この文章がすんなり入ってくるなら問題ない。
訳者あとがきで、翻訳の難しさが語られ、補足するように色々説明されているのだが、それすら難しい。そして、正誤表がネットにもないようなので正確なことは分からないが、訳や図表に誤りがあるような気がする。最初の図表が間違っているような気がして、でも確認する手立てはなくて、モヤモヤが残ったまま読み進めることになってしまった。読んだのは初版なので、今は修正されているのかもしれないが。
同じような内容の本を読むなら、以前読んだ「あなたの体は9割が細菌」の方が全然いい。これもすらすらと読めるわけではないが、分かりやすく面白かった。ちゃんと理解できたという実感があった。
この本には読み切ったという達成感は得られるが、あまり内容は頭に残らない。勿論、読み手のレベルが低かったというのはあるが。
著者
エムラン・メイヤー
訳 高橋洋
腸と脳──体内の会話はいかにあなたの気分や選択や健康を左右するか
- 作者: エムラン・メイヤー,高橋洋
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2018/06/28
- メディア: 単行本
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登場する作品
「エーベルス・パピルス」
How Do You Feel?: An Interoceptive Moment with Your Neurobiological Self (English Edition)
これ、食べていいの?: ハンバーガーから森のなかまで――食を選ぶ力