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「ラブという薬」 2018

ラブという薬

★★★★☆

 

内容

 いとうせいこうと彼の主治医である精神科医の星野概念の対談。

 

感想

 この本の前提として、いとうせいこうは精神科に通っていると公言しているわけで、結構すごいことを言ってしまっているなと感じてしまうのだが、それだけ自分の中でも世間にもカウンセリングというものにある種の偏見を持ってしまっているという事でもある。この本では、そんな偏見を持たずに皆がもっとカウンセリングを利用すればいいのに、という願いも込められている。

 

 そして、いとうせいこうでも精神的にキツいと思う事があるのかと意外だった。対談の中ではどうしてこんなにもきつい世の中になってしまっているのか、二人の見解が述べられているが、やはりネットの影響はでかいだろう。

 

 

 一昔前までは、特に日本では自己顕示欲をさらけ出すのはみっともない、という考え方があったような気がするが、今はSNSで「いいね!」欲しさに自己をさらけ出し、意見を主張しあっている。注目を集めるために過激な発言になりがちだし、他者に攻撃的になりがちである。スピードも大事で、今、一年前の事件について語ったとしても、SNSでは誰も相手にしない。単純明快で極端な意見を即時に表明できる人間が持て囃されるようになった。

 

星野 部分肯定、部分否定の大切さを知っているかどうかで、他者との関係はだいぶ変わってきますから。

p107

 

 ただ実際のところ、白黒はっきりできるような単純なトピックなんてない。本当は部分肯定や部分否定が入り混じっているのが普通で、それを足掛かりに他者と分かりあうことが出来るのかもしれないに、皆がそれを認めずどちらかの陣営に分かれて戦っている。

 

 そして本当はそんなことがないのに、皆が自分の意見を表明しなければいけないという強迫観念に取りつかれている。良く分からないなら黙っておけばいいのに、「良く分からないけど…」と言いながら何かを言おうとする。中にはSNS上の皆の発言は、すべて自分に向けられていると思っているんじゃないかと思われる人たちまで散見される。

 

いとう 自己責任論の裏には、攻撃に対する過剰な自己防衛があるんだよ。もちろん、誰にだって責任ってあるから、自己責任論のすべてが悪いと言うつもりはないよ。でも、どんな出来事に対しても、「俺に言うなよ」っていうレベルでしか語れなくなってしまうのは、なんかおかしい。それって要は共感することをはなから放棄してるってことでしょ?

p183

 

 すべての発言が自分に向けられていると思うから、批判的な意見があれば「悪いのは俺じゃない」と過剰な反応をしてしまう。もう色々な人が色々なことを言っているなぁと引いた場所で考えることはできずに、すべてが自分に関わる事になってしまっている。

 

 対談の中で出てきた、誰かの意見をリツイートする事で自分の意見を言ったつもりになっている人がいるんじゃないか?という指摘は興味深かった。確かに何もコメントをつけずにリツイートばかりしている人はたまに見かける。もしかしたら本人はいっぱしの論客になったつもりでいるのかもしれない。

 

 そんな色々としんどい面のあるネットの世界。つらくならないためには現実世界でのリアルな対話が必要ではないかと語られている。対面での会話では極端な事は言いづらいし、相手を尊重する必要がある。友人と白黒はっきりつかないような、結論のないような、とりとめのない会話をすることで、ささくれだった心が癒される。

 

 とはいえこれだけネットの発達した世の中。友人といえども秘密をさらされるリスクもあるし、互いの心理的な問題を処理しきれないこともある。そこで利用したいのが、守秘義務があり訓練を積んだ精神科医。どんどんカウンセリングを受けましょう、というのは上手い着地点だ。

 

 確かにその通りなのだが、信頼できる精神科医に出会うまでが大変そうだ。ただでさえ情報がないし、思い切って診察を受けてみたのに酷い医者だったということになったら再チャレンジする気になれるかどうか。ただ、つらくなったら軽い感じでカウンセリングを受ければいいんだと知っているだけで、だいぶ心は軽くなるような気もする。

 

著者

いとうせいこう/星野概念 

 

ラブという薬

ラブという薬

 

 

 

登場する作品

ノーライフキング (河出文庫)

精神分析入門(上) (新潮文庫)

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ローマの休日 (字幕版)

オーシャンズ11 (字幕版)

特攻野郎Aチーム THE MOVIE (字幕版)

スライ・ストーン(字幕版)

痴人の愛 (新潮文庫)

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ボタニカル・ライフ?植物生活 (新潮文庫)

 

 

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