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「82年生まれ、キム・ジヨン」 2016

82年生まれ、キム・ジヨン

★★★★☆

 

あらすじ

 突然様子がおかしくなってしまった一児の母の半生。

 

感想

 どこにでもいそうな一人の女性の半生が描かれていく。そこから見えてくるのは、女性の生きづらさ。自分よりも長男である弟が明らかに優遇され、年頃になれば見知らぬ男に話しかけられ怖い思いをし、成績が優秀でもいい会社には入れず出世も出来ない。

 

 人生の様々な場面で女性の前に立ちはだかる社会の壁を、進学率や出産後の離職率など実際のデータを提示しながら描いていく。大きなドラマもなく淡々としているので小説的面白さはあまりなく、どこかフェミニズムやジェンダー論の啓蒙や啓発のための書といった趣だ。

 

 

 ただ、この大きなドラマがない普通の女性の物語という事が、多くの女性の共感を呼んだのだろう。主人公の人生と自分の人生を重ね合わせやすく、自分の物語と捉えることが出来る。韓国でベストセラーになったのもうなずける。

 

どうしろって言うの?能力が劣っていてもだめ、優れていてもだめと言われる。その中間だったら中途半端でだめって言うんでしょ?

p90

 

 読んでいると、男性であればなんてことのない場面でも、女性にとっては大きな障害があることに気付いてハッとしたりする。女性でも、当然だと思っていた事に、不公平が潜んでいたと気付く事があるかもしれない。皆が同じ問題意識を持つことが出来るというのは重要だ。

 

 当然これは韓国社会の話なのだが、強弱の差はあれ、現時点では日本の社会と事情はそんなに変わらないような気がする。ただ、韓国は世継ぎへの執着が強いので、お腹の子が女だと分かると中絶する事もあるという話はちょっと怖かった。もしかしたら日本でも同様の事があるのかもしれないが。

 

 この主人公が生まれた82年頃の描写だと、日本の方がまともだったような気がするので、それに追いつく勢いで韓国の方が急速に進歩しているようにも見える。もしかしたらそのうち追い抜かれてしまうのかもしれないなと思ったりした。この辺りはほとんど印象論でしかないので自信はない。

 

 読んでいて思うのは、敵意剥き出しで差別をするのではなく、悪意なくナチュラルに差別する人が多い事。抗議をするととても不思議そうな顔をする。実はこういう何が悪いか分かっていない人を理解させるのが一番骨が折れる。そんな人がよき理解者のような顔をしている事もあって、それに気づいた時にはひどく脱力してしまう。時には母親や上司といった同性の女性ですら足を引っ張ることもあって、最終的にはこれが大きな難関となるのでは、と個人的には思っている。

 

 読んでいると色々と考え込んでしまう本。

 

著者

チョ・ナムジュ 

 

82年生まれ、キム・ジヨン

82年生まれ、キム・ジヨン

 

82年生まれ、キム・ジヨン - Wikipedia

 

 

登場する作品

おおきなかぶ

 

 

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