BookCites

個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「アキレスと亀」 2008

アキレスと亀 [DVD]

★★★★☆

 

あらすじ

 売れない画家の半生。

 

感想

 売れない画家の半生が幼少期から描かれていく。裕福な家庭の子供からスタートし、波乱の人生を送る主人公の幼少期を映し出す映像は、考え抜かれたような構図とセピア色のトーンが素晴らしい。一瞬、小津映画かと見まがうようなシーンもあった。昔らしさを演出するための舞台や小道具にもこだわりが感じられ、小手先でごかまそうとしていないことがよく分かる。このあたりは、芸術をテーマにしているので力が入っているのかもしれない。

 

 主人公の成人期を演じるのは柳憂怜。最初に彼が登場したときは、40歳ぐらいの中年かと思ったのだが、実際は20代の若者という設定だった。でも意外と違和感を感じなかったのは、昔の若者は今の若者よりも老けて見えるからだろうか。主人公は同じ志を持つ仲間と出会い、皆と新しいアートを試みる活動を行うようになる。やっていることは面白いが、どこにでもいるような仲間とわいわいやっている若者だ。でも、こういう時代があるという事は大事なことだ。

 

 

 そして老年期。画家として売れないままに老年期を迎えた主人公は、それでも創作活動を続けている。長年連れ添った妻を従えて、あうんの呼吸で行われる創作風景は、まるでベテランの夫婦漫才師を見ているかのようでめちゃくちゃ笑える。これは、演じるのがビートたけしだからというのもあるが、それまでアート活動をずっと続けてきた主人公の半生をずっと見てきたからこその面白さだろう。アートとは何か?を何度も繰り返し考え、そして実践してきた者にしか出せないトボけた味がある。もはや他人の評価がどうこうではなく、ただやり続けるんだよという境地。

 

 この老年期は、幼少期とはうって変わって、カラフルで鮮烈な映像が多く、歳を重ねて円熟してきたということなのだろう。アキレスと亀のパラドックスで、アキレスは亀に永遠に追いつけないかもしれないが、近づき続けているのは間違いない。そう思ってあきらめずに続けたら、まかり間違って追いつくことだってあるかもしれない。そんな風に生きられたら、きっとそれは幸せな人生だ。

ゼノンのパラドックス - Wikipedia

 

 終盤が少し、自分の期待していた方向とは違う方にストーリーが進んでしまったが、総合的に満足度が高い映画だった。映画は芸術だということを再認識した。全て監督が描いたという劇中に登場するたくさんの絵画も興味深く、一枚一枚じっくりと見たくなる。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/*出演/編集 北野武

*ビートたけし名義

 

出演 樋口可南子/柳憂怜/麻生久美子/中尾彬/大杉漣/伊武雅刀/大森南朋/筒井真理子/吉岡澪皇/徳永えり/仁科貴/寺島進/六平直政/ふせえり/不破万作/ビートきよし/大竹まこと/三又又三/お宮の松/風祭ゆき/ボビー・オロゴン/電撃ネットワーク/森下能幸

 

撮影 柳島克己

 

アキレスと亀 [DVD]

アキレスと亀 [DVD]

  • ビートたけし
Amazon

アキレスと亀 (映画) - Wikipedia

 

 

bookcites.hatenadiary.com

bookcites.hatenadiary.com