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「あゝ、荒野 前篇」 2017

あゝ、荒野 前篇

★★★★☆

 

あらすじ

 それぞれの事情を抱えながら、ボクシングを始めた二人の男。157分。

 

感想

 親に捨てられ孤児として育ち、詐欺や傷害事件で少年院に入っていた主人公と、韓国人の母親を持ち、今は飲んだくれの父親と二人で暮らす吃音症の男。ふとしたきっかけでボクシングを始めた二人の姿が描かれていく。

 

 二人を演じる菅田将暉とヤン・イクチュンの演技も良いが、彼らをボクシングの世界に引き込んだ、ジムのオーナーを演じるユースケ・サンタマリアのうさん臭さ全開の演技が良かった。怪しすぎて笑ってしまう。トレーナー役を演じるでんでんのふてぶてしさも良くて、ボクシング界隈はアクの強い人物の方がしっくりとくる。

 

 

 彼ら関係者は、ボクシングをやっていたから強いのだろうし、命をかけて戦う覚悟もあった。きっと芯がしっかりとしているから、取り繕う必要がないのだろう。だから皆個性的になるのかもしれない。

 

 主人公ら二人の他に多くの人物が登場し、並行して様々なサイドストーリーが展開される。震災、原発、自衛隊、戦争、介護、貧困、自殺、差別など、現代に見られる問題が詰め込み過ぎなほど詰め込まれ、現実とは違って徴兵制度が導入されているSF的な世界設定にもなっている。

 

 東京五輪の祭りの後、日本に突き付けられるだろう現実を描こうとしているように見えるが、五輪前はみんなが現実を忘れ、浮かれて祭りを楽しむと思っていたのだなと感慨深くなる。実際の現実はコロナ禍があったとはいえ、もはやまともに祭りを行う力さえ残っていないことを思い知らされただけだった。根深い問題が放置され続け、山積みになっていることが白日の下にさらされて、とても浮かれる気分ではなかった。

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 色々と詰め込まれているので、登場人物たちがあちこちのサイドストーリーに現れ過ぎで、相関関係が密すぎる気がするが、2時間半以上ある上映時間が気になることなく見終えることができた。ただ、前篇のメインのひとつだったと思える、自殺問題に関するエピソードはあまりピンとこなかったが。

 

 まだ前篇を見ただけなのでなんとも言えないが、ラストの主人公のボクシングの戦い方を見ていると、純粋なボクシング映画にはならないのだろうなという気はした。だが、皆が指先でスマホをいじっただけで何かをやった気になっている時代に、生身の肉体を使って何かをやることは特別な意味を持っていると言えるのかもしれない。それはボクシングに限った話ではなく、濡れ場が多かったのもそういうことだったのだろう。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本/編集 岸善幸

 

原作 あゝ、荒野 (角川文庫)

 

製作 杉田浩光/佐藤順子

 

出演 菅田将暉/ヤン・イクチュン/木下あかり/ユースケ・サンタマリア/でんでん/モロ師岡/木村多江/高橋和也/山田裕貴/小林且弥/川口覚/前原滉/今野杏南/小林且弥/山本浩司/鈴木卓爾/山中崇/井之脇海

 

音楽 岩代太郎

 

あゝ、荒野 (映画) - Wikipedia

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