★★★★☆
あらすじ
売れない作家で大学教授の黒人男性は、ステレオタイプが横行する現状にうんざりし、皮肉を込めて「黒人らしさ」を強調した小説を書いたところ、ベストセラーになってしまい戸惑う。
アカデミー賞脚色賞。118分。
感想
主人公は、家政婦もいるような大きな家と別荘を持つ裕福な家庭に育ち、親兄妹もほぼ医者で皆インテリという、ステレオタイプとはほど遠い黒人の男性だ。黒人は貧しくてラップが好きで、というようなステレオタイプな黒人像を世間がありがたがり、持て囃す風潮に嫌悪感を抱いている。
そんな彼が、日ごろの鬱憤から皮肉のつもりで書いたステレオタイプな黒人小説が大ヒットしてしまう。真面目に書いた小説はなかなか出版すらしてもらえないのに、この小説には高額な出版契約や映画化の話がトントン拍子に決まっていって、逆に面食らっている主人公の姿が可笑しかった。黒人らしさがやっぱりウケる現実に、黒人らしくない自分の人生は一体何なのだと戸惑ってしまう主人公の気持ちはよく分かる。
ふざけて書いただけの小説が評価されたことに対する忸怩たる思いも当然彼にはある。その憤りから敢えて破談にしてしまおうと、酷いタイトルに変えたり、大事なミーティングの途中で帰ったりしたのに、逆に黒人らしいと大喜びされてしまうのも皮肉だった。
こんな調子でステレオタイプを喜ぶ世間(特に白人)をこき下ろし、笑い飛ばすコメディなのかと思っていたが、そう単純な話ではなかった。実家に戻った主人公と家族の間に横たわる複雑な感情も並行して描かれて、ステレオタイプとは何か、アイデンティティとは何かと問いかけてくる内容となっていてる。
兄妹たちがアルツハイマーを患う母親に、離婚したことや同性愛者であることを認識してもらえずに傷ついていたように、どんな自分であろうと愛する人には本当の自分を知っていてもらいたいものだ。嘘の自分を受け入れてもらっても意味がない。
だがその前に、まず自分が自分自身を愛せているかは重要だ。主人公は自身が黒人であることを無視して、意識的にステレオタイプを避けようとしている。それはステレオタイプに囚われているということであり、馬鹿にしていた世間と主人公も同類ではないか、とブーメランとなって返って来る。辛辣で痛みのある展開だ。
だが、黒人らしく振る舞おうとするのも違うし、かといって黒人でないと必死にアピールするのもまた違う。それを意識しないですむ世の中になるのが一番だが、世の中がどう受け取るかなんてコントロールできるものでもない。平然としていたベストセラー作家のように、どう受け取るかは相手の問題で自分には関係ないと、何も気にせずただあるがままの自分でいるのが一番なのだろう。だがそれが難しい。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作 コード・ジェファーソン
原作 Erasure: now a major motion picture 'American Fiction' (English Edition)
出演 ジェフリー・ライト/トレイシー・エリス・ロス/ジョン・オーティス/エリカ・アレクサンダー/アダム・ブロディ/レスリー・アガムズ/キース・デイヴィッド/イッサ・レイ/スターリング・K・ブラウン