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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「アメリカン・サイコ」 2000

アメリカン・サイコ(字幕版)

★★★☆☆

 

あらすじ

 ウォール街で父親の投資会社の副社長を務める若い男は、優雅な生活を送りながらも、常に殺人の衝動を抱えていた。

 

感想

 ニューヨークの一等地に建つ高級家具に囲まれたマンションに住み、ブランド物のスーツをまとって毎日のように一流レストランで食事をする若い男が主人公。羨ましくなるような生活だが、その実態を見ているとそうとも思えなくなってくる。主人公や同類の仲間たちは皆、若い金持ちがやりそうなことをやっているだけで、そこに自分らしさというものはない。そのため、皆が表面的な人物に見えてくる。お互いに親密そうに話をしているが、中身はほぼ無く、注意深く聞くと会話が成立してさえいない。

 

 彼が仲間と追い求めるのは、いかに自分が成功している若者に見えるかという事だ。みんなで自分の名刺を見せあい、紙の材質やフォント、デザインについて評価し感嘆しあうシーンは、くだらなさ過ぎて笑ってしまった。冒頭に主人公が延々と体のケアの方法について語るシーンもどうでもよかったが、これが彼等にとっての最大の関心事という事なのだろう。皆が同じものを目指しているから自然と似通ってしまって人違いが横行し、しかも会話も適当なので訂正されることなくそのままスルーしているというのも面白い。全然相手をしっかり見ていないという事で、それでも成立してしまうなんとも空虚な世界だ。

 

 

 そんな主人公は、殺人の衝動を隠し持ち、時にそれを実行する。中身のない生活に対する無意識の苛立ちや抵抗が原因なのだろう。主人公は殺人の直前、いつも音楽をかけてそのミュージシャンについての御託を並べるのだが、その選曲が不思議だった。この映画は80年代後半の設定なのでこの時代に一世を風靡していたミュージシャンたちの曲という事なのだろうか。フィル・コリンズやヒューイ・ルイス&ザ・ニュース、ホイットニー・ヒューストンなどの曲が使われている。

 

 ただ彼は仲間といるときは決してこれらの音楽の話をしなかったし、外で聞くときはいつもヘッドホンで聞いていた。ウィレム・デフォー演じる探偵の男に音楽の趣味を聞かれた時も言葉を濁していたので、彼の中ではこんな大衆音楽を愛好するのは相応しくないと思っていたのかもしれない。だけどそんな抑圧から解き放たれて殺人を行う時だけ、存分に好きだと表現できたという事か。ただそこで語られる言葉もどこかからの借り物でしかないような気もしたが。

 

 終盤、バレることなく行ってきた連続殺人がついに露見しそうになり、取り乱す主人公。どんな結末が待ち受けているのかと思ったら、予想外の展開が待ち受けていた。見ている最中は、もうちょっと殺人描写をしっかり見せればいいのにとか、人の名前がたくさん出てきて混乱するなとか思っていたのだが、それはこういう結末だったからかと少しだけ納得できた。誰もが似通った均質的で空虚な世界。そんな狂気の世界で起きた出来事は、やったのが誰なのか、自分なのか他人なのかさえ、もはや曖昧だ。なんとなく分かるが、全体的にちょっと分かりづらかったなというのが素直な感想だ。

 

 この原作小説が書かれた時代は、金持ち連中の空虚な世界を垣間見ることは新鮮だったのかもしれないが、今はSNSで皆がそれを簡単に知ることが出来るようになった。名の知れた人や地位のある人が、浅くて中身のないことを偉そうに言っているのを見かけるたびに、世の中は頭の良さなどよりも運の良さやコネが重要なのだなと痛感する。「親ガチャ」なんて言葉が生まれたのも、大したことがないのに恵まれた暮らしをしている大人たちが、たくさんいることに気づいてしまったからなのかもしれない。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 メアリー・ハロン

 

脚本 グィネヴィア・ターナー

 

原作 アメリカン・サイコ

 

出演 クリスチャン・ベール/ウィレム・デフォー/ジャレッド・レト/ジョシュ・ルーカス/サマンサ・マシス/マット・ロス/ビル・セイジ/クロエ・セヴィニー/カーラ・シーモア/ジャスティン・セロー/グィネヴィア・ターナー/リース・ウィザースプーン

 

音楽 ジョン・ケイル

 

撮影 アンジェイ・セクラ

 

アメリカン・サイコ(字幕版)

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