★★★★☆
あらすじ
薬物依存症の若い女は、知り合った刑事の主催する更正グループに通うようになり、生活を立て直してまともな人生を歩み始める。
事実を基にした作品。113分。
感想
母親に売春を強要されるような、劣悪な家庭環境で育った20歳そこそこの若い女が主人公だ。はたから見れば、もう成人なんだからさっさとそんなところから逃げ出してしまえばいいのに、と簡単に思ってしまうが、そこで育ってきた彼女にとっては、嫌ではあるがそれが普通で、それなりに家族に情もある。
反発しても母親が倒れたら心配してしまうし、最終的には彼女の言うことを聞いてしまう。しかし母親が娘を「ママ」と呼ぶのはおぞましかった。彼女が主人公に依存していることが分かり、それだけで歪な家族であることが表れている。
そんな主人公が、ある刑事と出会ったことから変わっていく。仕事や住むところを紹介され、刑事が主催していた依存症からの更生グループにも加わって、着実にまともな生活を手に入れていく。まともに行っていなかった学校にも再度通い始める。夢中になって勉強する姿には心打たれた。
ただ更生の道を歩み始めた途端、彼女のまわりにいい人しかいなくなってしまったのは違和感があった。あまりにも優しい世界すぎるだろうと、どこがで居心地の悪さがあった。際どい世界にいる人たちなので、そんなに更生はスムーズにいかないだろうと思っていたら、とんでもない落とし穴が待っていた。主人公をサポートしていた刑事の不祥事が発覚する。
これはなかなかのインパクトだった。それまでは、時には無茶な手を使ってまで、善意でしかも無償で人々を助ける破天荒で愉快なおじさん、というイメージだったのに、それが一気に変わってしまった。
だがこれは、彼を善人だと思い込んでいたのが間違いなのかもしれない。見方を変えて、やりたいと思ったことをやってしまう人だと思えば、彼の行いは筋が通る。薬物依存の人を助けたいと思ったから自助グループを立ち上げて、気になる女性を何とかしたいと思ったからなんとかした。それだけの話だ。善悪は関係なく、偽善でも偽悪でもない。願望に忠実なだけで、行動力があるだけにどちらにしても大きく作用してしまう。
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そう考えると世紀の大悪党も大聖人も、モチベーションは大差がないのかもしれない。どちらかに大きく針が振り切っているだけだ。事実を突きつけられて、黙り込んでしまう刑事の姿が印象に残る。
刑事の問題により日々のサポートを失った主人公は、さらに始まったコロナ禍により職を失い、学校も休校となって、社会とのつながりを失ってしまう。心が荒み始めた彼女だったが、シェルターの隣人に押し付けられた赤ん坊の存在によって、なんとか踏みとどまることが出来た。
ただこれはあまりにも都合が良すぎる展開だ。それにその隣人との関係もよく分からない。顔見知りならまだ理解できるが、言葉を交わしたこともない相手の子供だったら迷惑でしかないだろう。マイナスに働いた可能性だってある。同じシェルターに暮らす苦しい立場の者同士、助け合わなければならないと思ったのかもしれないが。
なんとか踏ん張っていた彼女の心がついに折れてしまったラストは物悲しかった。その後に稲垣吾郎演じる記者が面会した記者にぶつけた疑問についても考えてしまう。
それから主人公を苦しい状況に追いやったのはコロナ禍だったが、もっと厳密に言えば、コロナ禍に対する政府の対応だろう。主人公のように苦境に追いやられる人がたくさんいた中で、やったことといえばオリンピックの強行とブルーインパルスを飛ばすことだけだ。それを冷めた目で眺めながら、彼女のように人知れず去っていた人はどれだけいたのだろうかと想像してしまう。
それから主人公のように義務教育を途中でドロップアウトした人は、事件に巻き込まれる人が多そうなので、放置しては駄目だろう。今は学校に通わない外国人の子供も多いらしいので、それも含めてちゃんと対策した方が良さそうだ。
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スタッフ/キャスト
監督/脚本 入江悠
出演 河合優実/佐藤二朗/稲垣吾郎/河井青葉/広岡由里子/早見あかり
音楽 安川午朗
