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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「北京的西瓜」 1989

北京的西瓜

★★★★☆

 

あらすじ

 千葉県船橋市で八百屋を営む男は、ふとしたきっかけから近所の寮に住む中国人留学生らと交流を持つようになる。

 

感想

 商店街にある八百屋が舞台。街の喧噪の中で登場人物たちが好き勝手に喋る姿がリアルだった。ほとんどセリフが聞き取れず、ただザワザワとした雰囲気が伝わってくるだけなのだが、現実でもこんな光景をよく見る。皆があちこちで思い思いに会話を交わし、時にそれがひとつになったり、また散らばったりをくり返す。誰もお行儀よく話す順番など待っていない。八百屋だけでなく様々な場所で同様のシーンが見られたので、これは敢えてやっているのだろう。

 

 自分が営む八百屋にやってきた中国人留学生に値引きをしてやったことがきっかけとなり、主人公と彼らの交流がスタートする。留学生たちは貧しくはあるが皆純朴で謙虚。そして祖国のために真面目に学ぶ姿が、主人公の琴線に触れたのだろう。何かと世話を焼くようになり、彼らからも慕われるようになる。

 

 

 ただ留学生たちが店で執拗に値引きを求める姿は、一つ間違えればイチャモンをつけているようも見えてしまわなくもないくらい押しが強かった。素朴なイメージとは程遠かったが、でもこれは彼らにすれば普通の交渉の一環で、毅然と断ればいいだけのことなのだろう。これは文化の違いでしかなのだが、それに気づかないままだと両者の間に軋轢が生まれてしまう。しかも彼らはそれが普通なので平気な顔をしており、それが余計に悪感情を抱かせることになりがちだ。

 

 主人公は、時に図々しくも感じてしまう彼らのお願いに悪態をついたりしながらも、それでも彼らのために親身になって世話を焼き続ける。そのまま適当にいい感じで映画を終わらせたら、ほっこりするような人情話で終えられたのに、単なるいい話で終わらせなかったのは良かった。主人公の親切はどんどんとエスカレートしていき、やがては彼らの保証人になったり、店の金を持ち出すようになる。

 

 そして遂には家業が傾き、妻や子供たちとの間にも不和が生じ始める。もうこうなってくると善行とか人助けではなく、もはや道楽の世界だ。主人公はギャンブルでは節度を持って遊べていたのに、留学生との交流では見境がなくなり身を滅ぼしかけてしまったというのは面白い。人生には「飲む・打つ・買う」以外の落とし穴もたくさんあるということだ。家族との修羅場のシーンなどは、博打好きやアル中のそれと全く同じだった。

 

 ただそんな苦境も留学生たちの恩返しが始まったことで、少しずつ回復の兆しを見せ始める。そして、国に帰って第一線で活躍する元留学生たちからの感謝を込めたプレゼントが届いたことで、主人公と家族の苦労も無駄ではなかった思えるようになる。しかし、いよいよここからクライマックスだなと思っていたら、突然メタ的な展開が始まり、映画の雰囲気が一変してしまって驚いた。

 

 ただ冒頭で映画の撮影時期をわざわざ紹介していたので、「天安門事件」か?とすぐにピンときた。とはいえ、それでも何事もなかったように普通に撮影を続行することも出来たのに、敢えてそうせずこういう手法をとったことに、大林監督の反骨心のようなものを感じた。そしていわば映画を壊すようなことをしてしまえる勇気もすごい。当初の意図ではないが、それでも終盤のこの奇妙な演出のおかげで、とても印象に残る映画となった。

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 期せずしてこの映画は、中国にとっては良い時代の終わり、日本にとっては現在も続く失われた時代の始まりという、両国にとってのターニングポイントに撮られたのだなとしみじみとしてしまった。中国に関しては今の方が良いという人もいるかもしれないが。

 

スタッフ/キャスト

監督/編集

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脚本 石松愛弘

 

出演 ベンガル

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林泰文/天宮良/浅香光代/入江若葉/峰岸徹/笹野高史/木野花/南伸坊

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撮影 長野重一

 

北京的西瓜

北京的西瓜

  • ベンガル
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