★★☆☆☆
あらすじ
亡くなった祖母の大事にしていた本の秘密を探るため、古本屋を訪れた主人公は、ひょんなことからそこでアルバイトをすることになる。
感想
主人公の祖母の若き日の秘密の恋と、古本屋の希少本が何者かに狙われる話、その二つの物語が並行して描かれていく。
まず夏帆演じる若き日の祖母の秘密の恋は、なんとなく文学的な香りを漂わせて良い感じに見せているが、ただの不倫の話でしかないよなというのが素直な感想だ。そして不倫に燃える二人よりも、不倫された夫の方が気の毒で、そちらばかりが気になってしまった。
女の浮気に気づきながらも何も言えず、決定的なあやまちも受け入れるしかない男の悲哀。彼は何も悪い事なんかしていないのに、どうしてこんな目に遭わないといけないのだと、男の境遇に同情してしまう。祖母の思い出を美しく描くだけではなく、こっちもせめて丁寧に描いてやれよ、と思ってしまった。その後の彼がどう生きたのか、気になる。
そしてこの時の思い出の本を大事にしまっておいた祖母。その本を他人が見たところで不倫のことなんて何もわからないのに、それを見ようとした幼い孫を張り倒すのはさすがに過剰反応だ。見られたところですっ呆ければ良かっただけの話だろう。大事な思い出の品だから触れられるの嫌だったということなのか、気立ての良いおばあちゃんとこっちで勝手に思い込んでいただけで、実際はそこそこ性格の悪い人間だったという事なのか。
そして、この時のトラウマで主人公が小説を読めなくなってしまったという設定もなんだかリアリティを感じなかった。実際に世の中にそういった例があるのかもしれないが。
もう一方の古書店の高価な希少本をめぐる話。こちらも話が良く分からない部分が多かった。特に主人公が希少本を預かると言い出したシーンは、なぜ突然そんな提案をするのか、支離滅裂すぎて意味不明だった。なぜ預かるのか、預かったらどのように安全を担保するつもりなのか、さっぱり見えてこない。しかもあっさりと奪われてしまったくせに、黒木華演じる古本屋の女主人にブチギレていて人間性を疑ってしまった。
そしてこの時点で大体の人は犯人の見当がついてしまうと思うのだが、なぜか主人公たちは自分たちの信頼関係に対する感情的な話ばかりして、これについては一切冷静に考えようとしない。ここで観客が主人公たちを追い抜いてしまった形となり、まだ答えの分からない彼らを眺めるという冷めた展開に。
もはや犯人が明らかになっても、主人公たちのように驚きもない。犯人がなぜ精神を病んでいるのかの説明も曖昧で、モヤモヤの多い盛り上がらないミステリーとなってしまっている。クライマックスの女主人の行動も、そんな事をしなくても「じゃあ売ります」と言えばよかっただけでは?と思ってしまった。
スタッフ/キャスト
監督 三島有紀子
脚本 渡部亮平/松井香奈
原作 ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~ (メディアワークス文庫)
出演 黒木華/野村周平/成田凌/夏帆/東出昌大
音楽 安川午朗