★★☆☆☆
あらすじ
結婚して子供も生まれ、何不自由なく暮らしていた女は、若い頃に淡い関係にあった男と再会し、心が揺れる。
三島由紀夫の同名小説を映画化。月丘夢路・葉山良二・三國連太郎ら出演。中平康監督、新藤兼人脚本。96分。
感想
上流階級の暇を持て余した人妻が主人公だ。かつて深い仲になりかけた男と再会し、気持ちがよろめく。しかし二人が街で偶然再会したときに、互いを意識しながらも無視するのがよく分からなかった。普通に昔の知り合いとして、久しぶり、とか声をかければいいだけなのに不思議だ。何度も偶然出会い、その度に他人のように無言ですれ違う。
これは互いに相手を必要以上に意識していたからなのだろう。言葉を交わしてしまうと、単なる知り合いのままではいられない予感があったのかもしれない。何回かの偶然の再会を経て、ついに男は主人公に声をかけ、誘う。
人妻の主人公は当然ためらう。一度は密会の約束をすっぽかすのだが、この時の主人公の心の揺れを表現する演出は見事だった。出かけようとはするのだが、帰って来た子供の声を聞いては罪悪感を覚え、玄関のステッキを見ては夫の顔を思い出し、勢いがそがれていく。その様子が、主人公を待つ男の姿と交互に描かれて、じれったさが募る。
だがその後、結局二人は密会することになる。いざ会おうと思えば簡単に連絡が取れてしまうのは、上流階級ならではのネットワークがあるからだろう。金持ちは皆つながっている。二人が偶然出会うことが多かったのも、金持ちの行動パターンが似ているせいかもしれない。
そして主人公が迷いながらも男に惹かれ、密会を重ねる様子が描かれていく。だが道徳観が今とは違うせいか、思ったようには距離が縮まらない。今なら初日で一線を越えてしまいそうだが、二人は中学生のように奥手で、イライラさせられる。
不倫の話は、一線を越えるかどうかで逡巡するところがたまらないのかもしれないが、どう考えても逡巡する場所が間違っている。彼女はセーフのつもりでいるようだが、第三者から見れば、そこは完全にアウトの場所だ。実際どうだったかは関係なく、彼女の行為は浮気だと判断されてしまうだろう。
だからそんなところで立ち止まってないで、さっさと先に進めよと、急かしたくなる。彼女の友人が言っていたように、そこまでしておいて何もない方が逆に不健全だろう。
しかもいざその状況が訪れたら、急に泣き出し拒絶する。主人公のひとりよがりっぷりが際立っていた。この状況でそれはないよとは思うが、ここでの男の態度はとても紳士的だった。状況がどうあれ、駄目なものは駄目だ。当たり前のことなのだが、現代でも理解できない大人はたくさんいる。
頭でっかちな彼女の言動に翻弄される物語だ。勝手に妄想だけで楽しんでいればいいのに、と思ってしまった。暇を持て余した金持ちならではの、迷惑な遊びだ。
スタッフ/キャスト
監督 中平康
脚本 新藤兼人
出演 月丘夢路/葉山良二/三國連太郎/宮城千賀子/信欣三/千田是也/芦田伸介/南田洋子/西村晃/北林谷栄/二谷英明
音楽 黛敏郎

