★★★★☆
あらすじ
「白鳥の湖」の公演で念願の主役に選ばれたバレリーナだったが、日増しにプレッシャーに苛まれていく。
アカデミー賞主演女優賞。108分。
感想
念願の主役に選ばれたバレリーナが主人公だ。だが周囲の期待や嫉妬、また自身のパフォーマンスに対する不安から重圧に苛まれていく。
しかし必死に努力し、色仕掛けまがいのことをしてまで主役を勝ち取ったのに、上手く演じられないと苦しみ、誰かに主役を奪われるかもしれないと怯えながら日々を過ごさなければならないのはしんどい。だがこれも主役にしか味わえないプレッシャーだ。ある意味では喜びや誇りでもあるのだろう。
外でのプレッシャーから逃れられる唯一の心安らぐ場所に見えた母親との暮らしも、同じくバレリーナだった母親の夢を託した過保護ぶりが、彼女に心理的負担を与えていることが分かってくる。また母親には、育児によってキャリアを奪われた恨みや、自分よりも大きな成功を手に入れようとしていることに対する嫉妬など、娘に対して無自覚の負の感情が渦巻いていることも垣間見える。これでは主人公が心安らぐわけがない。
苦しむ主人公を見ていて強く感じるのは、彼女の生真面目さだ。きっと母親に逆らうことなく、指導者の教えにも従順に、素直に練習してきたのだろうなと想像できてしまうものがある。演出家に出された性的な宿題を素直にやるところなどにもそれが表れていた。
だがこれが彼女の美点でもあり、欠点でもある。言われたことは出来るが、エモーショナルな表現は出来ない。可憐な白鳥は演じられるが、小悪魔な黒鳥は演じられない。彼女自身もそれには気づいており、だからこそ奔放なライバルに惹かれたのだろう。
主人公が、次々と襲い掛かるプレッシャーに押しつぶされそうになっていく過程が、幻想的に象徴的に描かれていく。彼女の様々な感情が表現されている。指から血が出るシーンは見るからに悲痛だった。主人公が街で自分の分身を幻視したりと、ストーリーのあちこちに散りばめられた細かな演出がボディーブローのように効いてくる。
そしてそのまま押しつぶされて終わりではなく、それを昇華させて才能を開花させる展開となるのが見事だ。演じるナタリー・ポートマンのナイーブな少女からの豹変ぶりも流石だった。カタルシスと共に、芸術の奥深さを感じさせる映画だ。
ポリコレ的にどうなの?と思うシーンもあるのだが、性的表現も行う芸術ではどう取り扱うべきなのだろうと分からなくなってくる。難しい問題だ。
スタッフ/キャスト
監督 ダーレン・アロノフスキー
出演 ナタリー・ポートマン/ヴァンサン・カッセル/ミラ・クニス/バーバラ・ハーシー/ウィノナ・ライダー/ジャネット・モンゴメリー/シュータ - セバスチャン・スタン/トビー・ヘミングウェイ
音楽 クリント・マンセル
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