★★★☆☆
あらすじ
平凡な医者との結婚生活に失望した女は、言い寄ってきた男との関係にのめり込んでいく。
感想
ある少年が学校に転入する場面から物語が始まる。彼の母親が「ボヴァリー夫人」なのかと思っていたら、やがて結婚してその妻がそう呼ばれるようになり、ようやく本格的に物語が展開するのかと思ったら、すぐに病気で死んでしまった。なかなか当の本人が現れない面白い構成だ。
ただ、解説でも言及されているが、「ボヴァリー夫人」は、後に登場してメインとなる彼の後妻のことだけを指しているのではなく、ボヴァリー家に嫁いだ母親も最初の妻も含んでいるような気がする。同じように嫁いで来ながらも、違う生き方をした女たちの物語だ。
しばらくは、少年の視点で物語が進む。やがて親に言われるままに医者となり、20歳以上も年の離れた女と結婚させられて、味気ない生活を送るようになる。しかし、若くしていきなりかなり年上のバツイチの女性と結婚させられるとはなんだかすごい。日本だとあまり聞かない話だが、フランスでは一般的なのだろうか?女性が金を持っていることがあるが故だが、その逆はわりとよくある話なので、ある意味で男女平等で良いことなのかもしれない。
年上の女と味気ない生活を送っていた男は、妻の死により若い女と再婚する。自分が見初めた女性と結ばれ、日々幸せに浸って満足していたのに、相手の女性は実は不満を募らせていた。結婚する前は慎ましい貞淑な女性に見えていただけにそのギャップは意外だった。だが、母親の言いなりで、冴えない男の目からはそう見えていたというだけのことなのだろう。
そして、このボヴァリー夫人は不倫に走る。ただ、彼女は恋に恋する中学生のようなところがあり、相手がどうこうではなく、自分の中で妄想を膨らませ、勝手に盛り上がっているだけだ。恋愛に限らず、時に献身的な妻や敬虔な信者になったりする時なども同じで、自分の中の物語に沿った理想の役を演じている。人間誰しもそういう側面はあるが、相手のあることでそれを過剰にやると悲劇を招くのは必然だ。
夫人の独りよがりの暴走は、当然の帰結として破滅へと突き進む。ストーリー自体はありふれたものだが、彼女を愛するも凡庸な夫や弄ぶ男たち、あくどい商人や近所の人たち、といった周辺人物の描写が、多様な人間の姿を浮かび上がらせていく。
なかでも有能を気取り、出しゃばりで目立ちたがり屋の村の薬剤師のキャラクターは強烈だ。
そもそも、男というものは押しが強ければ、必ずや世の中で成功するものなのだ。
p.38
彼は、医者の父親が言っていたことをそのまま体現するような男だ。彼の思い付きがきっかけで、旅館の使用人が足を切断する羽目に陥ってしまったのは怖かった。また、科学を信奉する者として、対立していた司祭と激論を交わすも、疲れて共に居眠りし、お腹が空いて共に食事しただけで、なんだか分かり合えたような気になっていたのは可笑しかった。だが、人間なんて案外そんなものなのかもしれない。
馬車が走り続ける描写だけで夫人の不倫が始まったことを暗示するなど、巧みな表現が随所に見られ、読み応えたっぷりの小説だ。ただ、手形のくだりが分かりづらかったり、延々と続く村の描写に辟易したりと、時々しんどさを感じる部分もある。
著者
フローベール
登場する作品
「アナカルシス(ギリシャのアナカルシスの旅:キリスト教のエーラ以前の4世紀中頃 V.5)」
「説教集(キリスト教擁護)」 フレシヌス師
「神々の戦い」 パルニー
百科全書: 序論および代表項目 (岩波文庫 青 624-1)
「ユダヤ系ポルトガル人の書簡集」 アントワーヌ・ゲネー師
「キリスト教の論拠(キリスト教の哲学的研究)」 オーギュスト・二コラ
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映画化作品
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