★★★★☆
あらすじ
舞台は横須賀。恋人と良い暮らしをすることを夢見るチンピラの男は、組が始めた米軍の残飯を利用した養豚業を任される。白黒映画。
感想
古い映画なので録音技術の問題なのか、役者たちの声がキンキンして聞き取りづらい。特に慣れない序盤は、何を言っているのかよく分からないシーンが多かった。意外とこの時代の映画ではあまり聞くことのない、語尾に「じゃん」を付ける横須賀弁?も、聞き取りづらさをアシストしてしまっているような気がした。
やくざの世界で出世し、良い暮らしを夢見るチンピラの若者と、堅実な人生を望む若い女のカップルの物語だ。しかしよく言われることだが、チンピラを演じる長門裕之が桑田佳祐によく似ている。特にこの映画は、スカジャンにジーンズといったファッションやお調子者の気の良いあんちゃんといったキャラクターなので、本当にそっくりだ。
組から米軍の残飯を利用しての養豚業を任された主人公。餌の入手方法が怪しいとはいえ、ヤクザが真面目に養豚業をやるという設定は面白い。だが特に笑えるようなシーンはなく、どちらかと言うとヤクザたちの酷さが描かれていく。弱い者たちから金を奪い、身内でも立場の弱い者を利用する。
そして次第に分かって来るのは、これは単なる豚を使ったヤクザのしのぎの話ではなく、タイトルにもある豚と軍艦をメタファーにした社会風刺であるということだ。ヤクザたちは豚に餌をやって肥えさえ、売り飛ばそうとしている。だがヤクザもまた、おいしい話を餌に騙されて、儲けを掠め取られる豚のような存在にすぎない。アメリカの残飯に群がり生きる豚どもとも言える。
だが横須賀で豊かなアメリカ人に群がり暮らす日本人は、そんな豚のような生活に慣れきってしまっている。男たちはおこぼれにあずかろうと必死になり、女たちは媚びることで豊かさを手に入れようとしている。そんな現状に気付いているのが、町を出て真面目に生きようとする主人公の恋人や、ヤクザを馬鹿にしている主人公の兄貴分のカタギの弟だろう。この弟がする、まともな暮らしを手に入れるために皆で協力しようという熱い訴えを、兄貴分の愛人が冷たく拒絶するシーンは、両者の間の深い溝を感じさせた。
中盤まではそうでもなかったのだが、主人公と恋人の仲が引き裂かれそうになってからはグッと面白くなった。特に主人公が兄貴分たちの甘言を拒絶し、反乱を起こすシーンは見ごたえがあった。自分と同類である豚たちを開放し、必死に抗ってみせる。だが気付くのが遅すぎた。最悪の場所で最期を迎えるのが皮肉で、象徴的でもあった。
一方で、現状を追認する人びとの中で暮らし、何度もその世界に引きずり込まれそうになりながらもなんとか踏ん張り、自分を見失わなかった恋人の姿は対照的だった。ラストの彼女の決意とその凛とした表情に救われたような気になる。
しかし大昔の社会風刺映画なのに、世の中は今と大して変わらないなと複雑な気分にさせられてしまう映画でもある。もっと言えば、自分が豚であることを積極的に受け入れる姿勢があちこちで見受けられるので、この時よりももっと酷くなっているかもしれない。
スタッフ/キャスト
監督 今村昌平
出演 長門裕之/吉村実子/三島雅夫/大坂志郎/加藤武/小沢昭一/南田洋子/東野英治郎/菅井きん/西村晃/殿山泰司
音楽 黛敏郎
撮影 姫田真佐久