★★★★☆
あらすじ
鉱山で崩落事故が起き、33人の作業員が地中に閉じ込められてしまう。2010年にチリで発生した「コピアポ鉱山落盤事故」を題材にした物語。
感想
地下深くおよそ700メートルの場所に閉じ込められるというのは、想像するだに恐ろしい。自分たちが生きていることをどうやって地上の人たちに伝えればいいのか分からないし、伝わったとしてもどのように助けてもらえるのか分からない。作業員のひとりが言っていた「この鉱山は700メートル掘り進めるのに100年かかったんだぞ」という言葉は、ズシンと心に響く。
それにしてもこんなひどい落盤事故で、33人全員が生き残っていたのは奇跡だ。そして、あきらめずに彼らの捜索が続けられ、ついに生存が確認されたのも奇跡だ。考えてみればこの出来事は他にもたくさんの奇跡が積み重なっている。暗闇で過ごさずにすむように照明が確保できたし、水も確保できた。もしかしたら、こうした細かい奇跡のひとつでも欠けていたら、結果は違っていたのかもしれない。
そして生き残った作業員たちが、小さないざこざがありながらも、それでも皆で結束していたというのも奇跡的に思える。こんな絶望的な状況では、だれかが身勝手な行動を取ったり、自暴自棄になったりして、収拾がつかなくなりそうなものだ。だが、アントニオ・バンデラス演じるリーダーシップをとる男の存在や、彼らがもともと生死を共にする仕事仲間だったという事がそれを妨げたのだろう。
でももしかしたらそれよりも、皆が心のどこかで既にあきらめていた、というのが一番大きかったのかもしれない。どうせ助からないから希望もなく何をする気も起きないが、リーダーがひとり希望を持っているようだからとりあえずそれに従うか、というような。皆が生き残る気満々だったら、もっと激しい議論が起きて、逆にまとまらなかったような気もする。
そして皆で結束していた彼らが、地上に生存を知らせ、多くの支援を受けながら救助を待つことになってから、段々と険悪な雰囲気になっていったというのは皮肉だ。人は絶望的な状況では団結できるが、心に余裕ができた途端にエゴが顔を出す。人間愛の世界から、醜悪さをさらけ出す展開に。
しかし普通の映画なら、地上に生存を確認された時点でハッピーエンドを迎えていたはずで、その後もだらだらとやっていたら冗長だと非難されていたはずだ。でもこれは事実を基にしているからそういうわけにはいかないので、その後の醜い部分も描く事になった。
でも人々の関心はそんなもので、実際の事件の時も、生存確認された時に世間の関心はマックスを迎え、しばらくするとすぐに別のターゲットに次の関心が移っていったような気がする。そして、彼らが地上に戻ってきたときに再度、関心が集まった。人は皆、見たい物語しか見ないという移り気な存在だ。
そして、そんな風に腐敗した政治のニュースよりも、芸能ニュースやワイドショーのネタになりそうな事件にばかり飛びつく移り気な大衆を相手にしている政府が、こういう事件に大々的に取り組むことの重要性もよく分かった。冷静に考えると、わずか33人のためにそれだけの予算や人間を投入するのは合理的なのかと疑問に思ってしまうのだが、これだけ関心を集めるとそんなものは関係なく、政治的に利用した方が効果的、ということになる。国は時にこういう事をするが、国威発揚的な意味合いもあるのだなと実感した。
奇跡が起きてみんな助かったという、事実を基にした感動的な話で面白かったが、もし奇跡が起きなかったらどうなっていたのだろうかと考えると恐ろしくなる。そんな風に人知れず苦しみ抜いて死んでいった人は過去にたくさんいるはずだ。
そしてもっと恐ろしいのは、安全管理を怠って落盤事故を起こした鉱山会社が一切罪に問われず、作業員に何の保証もなかったとい事実。チリは恐ろしい国だと思ったが、よく考えれば日本でも東電がそんな感じで罪に問われてなかったような気がするので、残念ながらそんなに変わらないか。
スタッフ／キャスト
監督 パトリシア・リゲン
原作 The 33 (Now a major motion picture - previously titled Deep Down Dark) (English Edition)
出演 アントニオ・バンデラス／ロドリゴ・サントロ／ジュリエット・ビノシュ／ジェームズ・ブローリン／ルー・ダイアモンド・フィリップス／マリオ・カサス／ジェイコブ・バルガス／フアン・パブロ・ラバ／アドリアナ・バラッザ／ケイト・デル・カスティーリョ／コート・デ・パブロ／ナオミ・スコット／ボブ・ガントン／ガブリエル・バーン
音楽 ジェームズ・ホーナー
チリ33人 希望の軌跡 【字幕版】 | 映画 | 無料動画GYAO!
