★★★★☆
あらすじ
香港出張から帰ってきた妻が謎の病気で急死してしまった男は、やがて謎のウィルスが世界中に蔓延していく過程を目の当たりにする。
感想
コロナ禍の世界など予想だにしていなかった2011年の映画。この映画に限らず、ウィルス蔓延をテーマにした映画はこれまで山ほど作られているが、いったいどれくらいの製作者がその答え合わせが出来る未来が待ち受けていると予想していたのだろうか。
しかし答え合わせという意味では、この映画はかなりの高得点を叩き出していると言える。ロックダウンやいわゆる野戦病院の設営などの感染対策だけでなく、生物兵器の噂が囁かれたり、陰謀論の台頭やワクチン開発をめぐる疑いの目など、人々のリアクションもかなり正確に予想できている。コロナ禍前にこの映画を観ていたら良い予習になっていたはずだ。唯一、観ていて違和感があったのは、あまり皆がマスクをしていない事。実際、欧米ではマスク着用の習慣が根付くまでかなりの期間が必要だったので、元々そこは意識は低かったということか。
物語は、誰か一人を中心にするのではなく、いろいろな立場の人たちの姿を描いていく群像劇となっている。豪華な役者陣で、グウィネス・パルトローも出ているのかといきなり驚いたが、その後の扱いの悪さに思わず笑ってしまった。全然笑えないシチュエーションではあるのだが、現場では絶対面白がって楽しんでいたはずだ。その他の登場人物たちも奇跡の生還や涙々の別れといった感動のシーンはまったく用意されておらず、ただ淡々と映画の中を入退場していく。多くの人が死んでいく状況では、それぞれの物語に誰も構っていられないという無情さをちゃんと表現しているように感じられて好感が持てる。妻の死を告げられたのに最初は全く理解できなかった夫役のマット・デイモンの演技は印象的だった。
そして、そんな状況でも大事な人を守るために人は必死になるというのも事実。公平公正が大事だとは知りながら、それでも自分や家族のために何かを優先したくなるというのはある意味では当然で、そこで描かれる姿はとてもリアルだった。聖人になるのは簡単ではない。だがその事実を受け入れた上で、どれだけ自分を律することが出来るかでその人の人間性が出る。思わず家族に秘密を漏らしてしまう人間もいれば、そんな人々の気持ちを利用して陰謀論をまき散らし、大金を稼ぐ人間もいる。ジュード・ロウ演じる陰謀論者の小憎たらしさと言ったらなかった。
この映画は、感染爆発によって起こるだろう様々な出来事を予想しているが、若者たちへの影響にまで言及しているのはすごいなと感心する。日ごとに成長する若者たちにとって、友人たちと過ごす学校生活や様々なイベントといった日々の体験はかけがえのないものだ。そんな貴重な青春時代のある時期を、誰とも会わずただ家に籠って浪費しなければならないというのは喪失感が大きいはず。高2の夏は二度とやって来ない。そういったことに気づける想像力というのは本当に大切だ。日本なんてそれが現実に起きているのに、子供の運動会とかどうでもいい、修学旅行は中止で、あ、でもオリンピックは勿論やるよ、などととまったく想像力が働いた形跡がない。若者の気持ちどころか国民の気持ちも想像できていない可能性すらある。
余計なことを考えてついつい暗い気持ちになってしまったが、最後のオチもいいし良く出来た映画だった。コロナ禍に家に籠って観るのも悪くない。
スタッフ/キャスト
監督/*撮影
*撮影はピーター・アンドリュース名義
脚本 スコット・Z・バーンズ
製作 マイケル・シャンバーグ/ステイシー・シャー/グレゴリー・ジェイコブス
出演 マリオン・コティヤール/マット・デイモン/ローレンス・フィッシュバーン/ブライアン・クランストン/ジェニファー・イーリー/サナ・レイサン/エリオット・グールド
音楽 クリフ・マルティネス