あらすじ
昭和30年代、電機会社に勤めるサラリーマン、江分利満(えぶりまん)氏の日常。直木賞受賞作。
感想
会社や仕事、社宅での暮らしや飲み屋の話など、平凡なサラリーマンの日常を綴ったエッセイのような小説。会社員だった著者が、日々の暮らしで思ったことや考えたことを徒然に語って、最後に「…と、江分利満氏は思うのであった。」と付け加えることで小説の体裁にしていて、ズルいというか上手いというか。
ここで語られる昭和30年代のサラリーマン生活は、社員旅行に行ったり遅刻したり、同僚に金を借りたりと随分のんびりしているように感じられる。日本のサラリーマンはいつから悲壮感が漂うようになったのだろう。今どきの若者は…と苦言を呈したりする場面もあったりして、いつの時代も同じだなと苦笑いしたりすることも。でもどこか皆に楽観的な雰囲気があり、明るさを感じる。
そして、女性社員についての記述はいかにも昭和で、最古参の女性社員が25歳とか、驚いてしまう。そして、今だとこんなこと書くと叩かれるのだろうなということが書かれていたりして時代を感じる。でも最近、そんな事を言って会長職を辞任した元総理がいたので、案外、この頃の感覚で生きている人が、今の日本を取り仕切っているという事なのかもしれない。そりゃ悲壮感出ちゃうわと思わなくもない。
そんなサラリーマンのエッセーのような内容が続くのかと思いきや、主人公の母親が亡くなったあたりから様相が変わってくる。家族というか、父親との関係が大きな部分を占めてくる。昔は芸人やタレントがよく家にやってきていたとか、自分の妻が死んでもヘラヘラしているとか、序盤は主人公の父親は何者なのか、と訝しんでしまった。
そこから語られる主人公の出自を知ると、平凡なサラリーマンと言いながら、庶民的ではない都会の金持ちマインドがあちこちから滲み出ている事に気付く。今でもSNSに「たまの贅沢で高級レストラン予約してシャンパンあけてきましたー。」とバブル臭満載の投稿している人を見かける事があるが、こういう若い頃に身に付けた生活スタイルはなかなか変えられないし、本人はそれが滲み出ている事に意外と気づかないものだ。
しかし、白髪の老人は許さんぞ。美しい言葉で、若者たちを誘惑した彼奴(あいつ)は許さないぞ。神宮球場の若者の半数は死んでしまった。テレビジョンもステレオも知らないで死んでしまった。
p230
会社の事、家族の事を描きながら、ふとした時に出てくる戦争の話が印象的だった。主人公は昭和の年号と数え年が同じなので、戦争に人生を大きく左右された世代。おそらく物心ついた時に思い描いていたのとは全く違う未来の世界を生きているはずだ。下手したら二十歳そこそこで名誉の戦死をするつもりで、30歳を迎えるなんて思ってもいなかったのかもしれない。
彼らの世代はまだ若すぎたので戦争に対して何かできたとは思わないが、それでも責任を感じているのは、後の世代に同じような思いをして欲しくないからだろう。日本ではこうやって普通に戦争の話が出てくる世代は、今はもうほとんどいなくてそれは良い事なのだが、今度はやたら美化して憧憬の念を持つ人も出てきたりするので厄介だ。それを防ぐには、こうやってその世代の話を本などで知ることが大事なのかもしれない。
著者
山口瞳
登場する作品
(OK牧場の決闘)
「すみれの花咲く頃(菫の花咲く頃)」
「酋長の娘(私のラバさん)」
「お百度こいさん/惚れたって駄目よ」所収 「お百度こいさん(オヒャクドコイサン)」
「トントントマト・まっかっか(マッカッカのカゴメ)」 楠トシエ
南部の人《IVC BEST SELECTION》 [DVD]
「歌劇《ウイリアムテル》序曲 1「.夜明け」 2「嵐」 3「.静けさ」 4「.スイス軍の行進」(ロッシーニ)」所収 「夜明け」「嵐」「静けさ(静寂)」
「ロッシーニ(1792-1868): 歌劇 「ウィリアム・テル」 序曲から " スイス独立軍の行進 "(スイス軍の行進曲)」
シャーリー・テンプル 農園の寵児 [スタジオ・クラシック・シリーズ] [DVD]
「海原にありて歌へる」 大木惇夫
「Sho-Jo-Ji(ショジョジ)」
「The U.S. Field Artilery March(野砲隊の歌)」
「Army Air Corp March(空軍の歌)」
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映画化作品