★★★☆☆
あらすじ
音楽や芸術を愛するも消極的な青年は、世に出たいと願いながらもきっかけをつかめず悩んでいた。
英国の人気ミュージシャン、モリッシーのデビュー前の若き頃を描く。イギリス映画。94分。
感想
正直、モリッシーや彼のいたバンド、ザ・スミスのことはあまり知らないので、序盤の長髪で無口な主人公を見て、モリッシーってこんな人だっけ?と思ってしまった。
だがこの映画は、最近よくある実在のミュージシャンの栄光と挫折を描く音楽映画ではなく、その前の栄光のスタート地点に立つまでが描かれる物語なので、これはまだ自身のスタイルを確立する前の彼の姿だった。
まだ何者でもない彼が現実と理想の間で苦悩する姿が描かれていく。その姿は、なんとなく知っている厄介な人物という現在の彼のイメージとぴったり一致する。無口だし、話しかけても無視するし、何か喋ったと思えば悪口や皮肉ばかりで、どこか他人を見下したような雰囲気を常に醸し出している。かなり扱いづらそうな人物だ。
それに世に出たいと思っているくせに、まったく行動を起こそうとしない。才能のないことがバレるのを恐れて何もせず、やれば出来るけどまだやらないだけ、とのポーズを取り続ける、わりとどこにでもいる天才気取りの凡人たちと同じような態度を取っている。
ただそんな彼になんとか行動を起こさせようと尻を叩く女性が何人も現れるわけだから、そこらの自称天才たちとは違い、彼には才能を感じさせる何かがあったのだろう。彼女たちの助けもあり、少しずつ主人公は行動を起こすようになる。
物語は良く言えば抑制的、悪く言えば消極的に描かれる。仕事を辞める時や初ライブ時などのトピックとなるシーンでは、肝心な場面はすべて省略されて描かれない。本編は別にあって、これはそこからカットした映像だけをつなげたものだ、と言われても納得してしまいそうだ。引っ込み思案な彼が普通にボーカリストを目指していることにも違和感があったが、それに対する説明もなかった。
大事な部分を描かない手法は、ひねくれ者の主人公に相応しい描き方と言えるのかもしれない。だが盛り上がりに欠け、物足りないもどかしさが常にあった。本人たちに許可を取らずに作られたようで、劇中でザ・スミスやソロの曲が一切かからないのも影響しているかもしれない。
ただ中盤の主人公が内国歳入庁で働く場面は興味深かった。遅刻や欠勤を繰り返し、仕事中も創作活動を行ったり、サボったりする。小言を言ってくる上司に対してもへりくだることなく平然としている。
金のためにやってるだけだし、貰っている給料以上のことをやる気は一切ない、という清く正しい労働者の姿を見せつけられて気持ちがいい。彼の同僚も皆そんな感じだ。きっと彼らはやりがい搾取なんてされることはないのだろう。労働者としての意識の高さを見せつけられた。
主人公がザ・スミスのギタリスト、ジョニー・マーと出会い、いよいよ彼らの栄光が始まるというラストは、静かながらもテンションが上がった。
だが彼らのことを知らない観客には、もしかしたら何のことやら分からない映画になっているかもしれない。何者でもないはずはないのに、何者にもなれないと苦しむ若者の物語としては成立しているとは思うが。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 マーク・ギル
出演 ジャック・ロウデン/ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ/ジョディ・カマー
イングランド・イズ・マイン モリッシー, はじまりの物語 - Wikipedia




