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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「炎環」 1964

炎環

★★★★☆

 

あらすじ

 鎌倉幕府成立前後の出来事を、各人物の目を通して描く連作短編集。直木賞受賞作。

 

感想

 源頼朝の挙兵から鎌倉幕府が成立し安定期を迎えるまでが、短編ごとに主人公を変えながら描かれていく。今やっている大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を見ている影響で手に取った一冊だ。しかし、この頃の歴史は学校の授業で習う程度のことしか知らなかったので、こんなに殺伐としていたことに驚いてしまった。仲間どころか身内や家族内ですら、バチバチとやり合っている。

 

 各短編はそれぞれ、阿野全成、梶原景時、北条保子、北条義時が主人公だ。皆が野心を秘めた人物として描かれ、それぞれがじっとチャンスが巡って来るのを待っている。この中では、北条政子の妹かつ阿野全成の妻だった北条保子の物語が特に面白かった。天然なのか計算なのか、姉や夫をそれとなく操る姿には空恐ろしさがあった。

 

 それから彼らの勝負が、戦によるものではなく心理的な駆け引きで大勢が決っしてしまっているのも興味深い。勝負は戦う前から始まっており、いざ戦い始めた時にはすでに両者が勝敗を悟っている。不思議な気がするが、案外そんなものなのかもしれない。戦ってみなければ分からない、とか無邪気に言っているようでは、負けは確実なのだろう。

 

 その他にもたくさんの人物が登場する。混乱しそうなものだが、「鎌倉殿の13人」を見ているおかげでそれもまた楽しめた。誰が演じていたのかを調べただけで、簡単にその人のイメージが浮かぶ。歴史が好きな人とそうでない人の違いは、きっとそこに物語を見出せるかどうかなのだろう。

 

 

 少しずつ時間軸をずらしながら、それぞれの人物が夢を見て儚く破れていく姿が描かれる。そして全体を通すと鎌倉幕府の歴史が見えてくる。著者があとがきで述べていたように、歴史とはそれぞれの思惑が激しくぶつかり合った結果として出来た流れだということがとても実感できる物語だった。歴史の教科書を読んだだけだと、誰か一人の傑物の思い描いた通りになったように見えてしまうが、そんな簡単な話でないことがよく分かる。

 

著者

永井路子

 

炎環

炎環

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炎環 - Wikipedia

 

 

登場する人物

阿野全成/梶原景時/北条保子/北条義時

 

 

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