★★★☆☆
あらすじ
1950年代。差別や偏見が色濃い時代を生き抜いてきた黒人男性は、自身の経験を基に家族を守ろうとするが、息子と衝突してしまう。
感想
冒頭から20分程、主人公が友人や妻を前に陽気にノンストップで喋りまくるシーンが続く。見ているこちらが映画のリズムに入っていく前にいきなりハイテンションでこられるので、かなりしんどかった。まったく息つく間もなくたたみ掛けてくるので息苦しく、ちょっと落ち着く時間をくれよ、とイライラしてしまった。
しかも舞台劇がオリジナルだからなのか、主人公の家の裏庭周辺からあまり場所が動かず、それもまた映画の息苦しさに一役買ってしまっているような気がする。
主人公がこれまで築き上げてきた人生観をもとに家族を導こうとするが、それが家族との衝突を生んでしまう切ない物語だ。あくまでも自分の経験を基にしているので、移り行く時代の変化には対応しておらず、子供たちの世代には時代遅れの古臭い考えに見えてしまう。今なら「アップデートしていない」と言われてしまうやつだろうか。
それでも彼は、地元で黒人初の清掃車の運転手に昇格したりしているので、必ずしも彼のやり方が間違っていたとは言えないだろう。結局、人は正しい時も間違っている時もあるという普通の結論に落ち着く。つまり常に正しい人や常に間違っている人などいないということで、それは人の心をほんの少し軽くしてくれるかもしれない。無理に完ぺきを目指す必要などない。
そんな人間味あふれる主人公だが、浮気して子供を作っておきながら、奥さんに対してなぜ堂々としていられるのかが理解できなかった。それどころか、責められたら逆にブチ切れてさえいる。彼の言い分もただのわがままにしか聞こえず、全然納得できなかった。これもまた、人間だもの、ということか。
タイトルでもある劇中で主人公が作っているフェンスは、外敵から身を守るものでもあり、誰かを閉じ込めておくものでもある。その中で安心を感じる者も、逆に窮屈さを感じる者もいるだろう。厄介な存在なのだが、無ければないできっと困ってしまうはずのものだ。
冒頭の20分の会話の中に、物語の重要な要素がすべて詰め込まれている。冒頭で面食らわないように、万全の準備をした上で見たい映画だ。気楽に構えているとヤられる。
スタッフ/キャスト
監督/製作/出演 デンゼル・ワシントン
脚本 オーガスト・ウィルソン
原作 Fences (The August Wilson Century Cycle)
出演 ヴィオラ・デイヴィス/スティーヴン・ヘンダーソン/ミケルティ・ウィリアムソン
音楽 マーセロ・ザーヴォス