★★★★☆
あらすじ
貧しい浪人暮らしをしていた実直な侍は、両替商の商人と親しく囲碁を打つ仲となっていたが、ある日、店の番頭からあらぬ疑いをかけられてしまう。
古典落語「柳田格之進」をモチーフにした時代劇。129分。
感想
主人公は囲碁が得意な貧乏浪人だ。ふとしたことがきっかけで町の商人と囲碁仲間となったことから物語が動き出す。ただこの主人公が無口でほとんど笑うこともない堅物の男で、こんな男と囲碁を打って楽しいのだろうかと思わなくもない。だが社交相手としてではなく、純粋に囲碁のプレーヤーとして楽しい人だったということなのだろう。
商人の跡取りと娘が仲良くなったりと良好な関係が築かれていくが、ある日商人の家で大金が行方不明となったことから雲行きが怪しくなる。しかしその経緯には色々と気になるところがあった。
まず状況的に主人公が疑われるのは仕方がないが、「盗みました?」と火の玉ストレートで聞いてしまう跡取りの男はデリカシーが無さすぎだろう。しかも主人に断りもなく、間違っていたら共に命を差し出すと勝手に約束してしまった。
疑われた主人公が怒るのは理解できるが、恥をかかされたとすぐに切腹しようとしたのは解せない。そしてそれを思い止まったのはいいが、今度は盗んでもいない大金を商人に渡したのは解せなかった。そんなことをしたら、やっぱり盗んだのだなと誤解されそうだ。
不可解な主人公の行動は、いわゆる武士らしい行動だと解釈できるのだろう。だがこれはあまりにもひとりよがりで、日本の悪しき習慣といえそうだ。体面を気にするくせに、社会に真実を明らかにする努力はしない。抗議して死ぬことで満足してしまう。日本は正義が為されることよりも、自分のお気持ちを優先する社会なのかもしれない。
またこれだと、真面目で実直な人ほど早々に自ら退場してしまい、悪人ばかりが生き残って偉そうな顔をする世の中になってしまう。政府与党の顔ぶれを見てみれば、この風習が今も根強く残っていることがよく分かる。
そしてここから話は一旦切り替わり、主人公が藩士時代に巻き込まれた事件の仇討の話となる。仇討相手を探し歩き、ついに発見して対決となる過程は見ごたえがあった。相手の往生際の悪さも悪人らしさがあり、決着がついた決闘シーンはカタルシスがあった。
主人公を演じる草彅剛が、その風貌と独特の声で存在感を放っている。少し暗すぎる気がしないでもないが、普通ではないヤバさを醸し出していて惹きつけられる。脇を固める國村準や小泉今日子も良い演技だ。
大金紛失事件のケリがつくクライマックスは、タイトル「碁盤斬り」とはそういうことだったのか、と合点がいくものだった。真面目一辺倒の堅物でやって来た主人公が、正しいと思ってきた自分の生き方を省みる物語だ。彼のこれまでの誠実な態度が娘を救ったが、正義のためなら悪さえも許容する正義マンになってしまってはいけない。仇討後に主人公が取った行動に心がふと軽くなった。
だが人生に常に正しい答えなどはない。主人公が険しい道を行くラストシーンは、これからもそれを常に求め、考えながら生きていかなければならないことを示している。
スタッフ/キャスト
監督 白石和彌
出演 草彅剛/清原果耶/中川大志/奥野瑛太/音尾琢真/市村正親/立川談慶/中村優子/斎藤工/井山裕太*/藤沢里菜*
*エキストラ
