★★★★☆
あらすじ
母親が入院し、再婚して実家の大邸宅で暮らしている父親の一族と生活することになった13歳の少女。
感想
スマホ動画で映画は始まる。テキストメッセージが表示されるだけの淡々とした動画が延々と流れ、のっけから若干しんどく感じる部分はあったが、そこでとんでもないことが起きていることに気付く。コメディでありそうな展開だが、どう考えてもコメディではないだけに笑えない。この映画ではその他にもPCのメールやチャットの画面が使われていて、いかにも今の時代を表している。
母親をひょんなことから入院させてしまった少女は、再婚した父親が暮らす彼の実家に住むことになる。建設業を営み、使用人のいる大邸宅に住む一族。一見するといかにも裕福で羨むような生活をしているが、すぐに彼らの間に流れる冷え冷えとした空気に気付く。彼らの間に心の通った会話はほぼなく、子どもの生まれたばかりの父親夫婦にすら幸福そうな様子はうかがえない。
その一方で彼らがチャットやメールでは饒舌なのが印象的だ。溢れるように言葉が出てくる。彼らは目の前にいる人たちとはコミュニケーションを図ろうとはせず、ネットの世界でのみ心を開いている。これは何もこの一族に限ったことではなく、今では全世界で言えることだろう。さらに、この自分たちの世界に閉じこもるという傾向は現実の中でも見られる。彼らは、何かの拍子で接点が出来れば愛想よく振舞うが、基本的には毎日のように顔を合わせる使用人たちや街を歩く黒人労働者たちは別の世界の人間と見なしており、無関心だ。現代の人々は何層にも重なるバブルの中で暮らしていると言えるだろう。
淡々としたペースで進み、大きな物語が展開するというよりも、日常のあちこちで人々の色々な内面が炙り出されるという映画で、分かりやすい起承転結はないがついついずっと観続けたくなるような不思議な引力がある。
最初の少女のエピソードは、子供ならではのちょっとした悪戯心が引き起こした悲劇かと思ったが、終盤の彼女の告白を聞いて、これは確信犯だわヤバイわ、と思ってしまった。関係ないがこの祖父との対話シーンで彼女が着ているTシャツは気になった。関係ないようで実は、長寿国日本のイメージから老いることの何かを連想させようとしているのかもしれないが。
このヤバい少女と死にたい祖父との出会いはある意味で幸運な出会いだったのかもしれない。光あふれる嘘みたいに美しい景色の中で迎えるラストは、二人にとってはタイトル通り「ハッピーエンド」になるはずだったのだろう。それにしても最後の少女の行動はシュールすぎてついフフフと笑ってしまった。やっぱりコメディなのか?と一瞬錯覚してしまう。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 ミヒャエル・ハネケ
出演 イザベル・ユペール/ジャン=ルイ・トランティニャン/マチュー・カソヴィッツ/フランツ・ロゴフスキ/トビー・ジョーンズ
ハッピーエンド (2017年の映画) - Wikipedia