★★★☆☆
あらすじ
終戦後、華族制度廃止に伴い、母親と伊豆で暮らし始めた元華族の令嬢は、先行きの見えない不安の中で、かつて恋した作家の男を思い出していた。
安藤政信、水野真紀ら出演。太宰治原作。109分。
感想
戦後、都落ちして伊豆で暮らすことになった没落貴族の女性が主人公だ。何不自由なく暮らしてきた母親はひどく落ち込んでいるが、まだ若い彼女は何とか適応しようとしている。先行きの不安な暮らしの中で、母と娘が使う上品な言葉遣いが心地よく、独特の世界観を生み出している。儚くも美しい滅びの世界だ。
そんな世界も、戦争で消息不明だった弟が帰ってきたことで変化が生じる。母親は息子に肩入れし、娘は年寄りの金持ちのところへ嫁に行かせて片付けようとする。それはそれで娘への愛情なのだろうが、主人公は反発する。そして、かつて東京で多少の関係があった作家の男の元へ駆け込む。しかし、彼にはすでに妻子がいた。
想定とは違った状況と男の態度を見て、彼女は方針を変える。なかなか困難な道を選んだが、すでに彼女には新しい時代を生きていく決意があったのだろう。根性があると男に評されていたが、もともと素質があったと言えるかもしれない。自らの力で新しい道を切り拓いていこうとする。
そんな主人公の姿は、新しい世の中に無駄に抗うばかりだった母親や、適応したふりをしていただけの弟とは対照的だ。激動の時代には、多くの人が適応できずに滅んでいく。弟に関してはもうちょっと色々頑張ろうよと思ってしまったが、そのような時でも落ちこぼれてしまった人を死なさず、助けられる社会が持続可能性のある良い社会といえるのかもしれない。
思っていたよりも良い作品に仕上がっていたが、原作の力によるところが大きいような気がする。未婚の母になった主人公に対する弟の反応が描かれなかったり、最後の主人公の言動にサスペンスホラーのような怖さが出てしまっていたりと、終盤に引っ掛かる部分が増えた。
滅んでいく儚い美しさと、たくましく生き抜こうとする美しさ、その両方を描いた物語だ。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 近藤明男
脚本 白坂依志夫/増村保造
原作 斜陽(新潮文庫)
出演 宮本茉由/安藤政信/奥野壮/水野真紀/田中健/細川直美/三上寛/柏原収史/萬田久子/春風亭昇太
