★★★☆☆
あらすじ
たまたま見た映像に数か月前に津波で失った息子と似た子供を見かけた夫婦は、それが撮影された東南アジアの島に向かう。原題は「Vinyan」。フランス映画。
感想
幼い子供を失った夫婦。わが子を失うのはただでさえつらいが、津波にさらわれて本当に死んだかどうかが確認できていないなら尚更だろう。あり得ないと思いながらも、どこかで生きているのではないかとあきらめたくない気持ちがあるのは理解できる。たまたま見かけた映像に映っていたよく似た子供を息子だと思い込み、怪しい人物を頼って現地に向かう。
物語は、東南アジアで息子を探す冒険の旅、といった単純なものではなく、抽象的で観念的、陰鬱で重苦しい雰囲気に包まれている。探している子供が本当に彼らの息子である可能性などほぼないのだから、これは息子を失った夫婦を描いたドラマだと言えるだろう。息子を失った悲しみにひと区切りをつけて新たな一歩を踏み出したい夫と、どこまでも息子の影を追って深みにはまっていく妻。夫婦の関係に亀裂が入っていく過程がメタファーを伴って描かれていく。
それでも結局は、旅を通して夫婦が息子の死を乗り越えていく映画なのかと思っていたら、それを乗り越えられず破滅してしまう映画だった。子どもの死に対する態度の違いが、夫婦仲を引き裂いてしまうことがよく表現されている。でもこういう話では決まって妻がいつもまで経っても立ち直れないというパターンばかり。自分のお腹を痛めて産んだ子なので妻の方が大きく落胆しやすいのは理解できるが、たまには男がなかなか立ち直れないパターンも見てみたい。
それからインパクトのある邦題だが、映画の内容や雰囲気にはあまり合っていない。原題はタイ語で「成仏できない霊」という意味で、邦題は監督の過去作「変態村」に引っ掛けてつけられたタイトルのようだ。あと、夫婦をガイドする現地裏社会の男が、ユニークな風貌で良いシルエットをしており、面白かった。
スタッフ/キャスト
監督/脚本 ファブリス・ドゥ・ヴェルツ
出演 エマニュエル・ベアール/ルーファス・シーウェル/ジュリー・ドレフュス