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「秘密と嘘」 1996

秘密と嘘 ニューマスター版 [DVD]

★★★★☆

 

あらすじ

 弟夫妻が新居の披露を兼ねて娘の誕生パーティを開いてくれることになり、喜ぶ姉。

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 カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作。

 

感想

 娘と二人で暮らし、段ボール工場で働く主人公。年頃の娘についつい口うるさく言ってしまう。娘が男と出かければ心配だし、かといって週末ずっと家にいるのもそれはそれで心配で、どちらにしても余計な一言を言ってしまう。気持ちは分かるが、それでは娘に疎ましがられるのも当然だろうと笑ってしまう。

 

 ただ、本当に娘の事を考えているのが良く分かり、あまり頭は良さそうではないが、善人であることは伝わってくる。そんな性格が災いするのか、主人公はすることもなく、寂しい日々を送る毎日だ。それもあって、ますます娘に口うるさくなってしまうという悪循環。精神的にも不安定になってしまっている。

 

 

 しかしこの母娘は、いかにもイギリスの労働者階級といった生活ぶりだ。言葉のなまりはひどいし、ファッションもそう。そして常に煙草を離さない。ずっと煙草を手にしたままのシーンが多くて、別に吸うのはいいけど今は一旦火を消そうか、と思う事が度々あった。

 

 そんな主人公には、実は少女の頃に出産し、その赤ちゃんを養子に出したという娘の知らない秘密があった。ある日、その養子に出された娘から連絡が来て、主人公は取り乱してしまう。その取り乱し方が尋常じゃなく引いてしまうほどだったが、養子に出された娘は、忍耐強くコミュニケーションを取ろうとして、その姿に感心してしまった。

 

 彼女は、自分を捨てた母親を恨んでいてもおかしくないように思うのだが、育ての親に恵まれた環境で育てられ、しかも養子である事実も幼い頃に告げられていたという事で、すでに心の準備が出来ていたのだろう。会いに行っても迷惑がられるかもしれない可能性も含めて。やがて主人公は、こちらの娘とは良好な関係を築き始める。これはひとえに養子の女性に心の余裕があるからだと言える。

 

 主人公とは違い、写真館を営み、妻と共に新居で幸せに暮らす弟。姉ももちろんだがその姪の事も気にかけている。20歳ぐらいの姪になんて会いたいと思うものかなと思ったが、高校生ぐらいの時に姉を手伝って赤ちゃんだった姪の面倒を見ていたら、娘みたいに思っていても不思議はないか。

 

 この弟が非常に心の優しい男で、妻が機嫌が悪ければそっと受け止め、姉の事も常に気にかけている。経営する写真館に写真を撮りにやって来る、ちっとも言うことを聞かない客への対応の仕方を見ていれば、彼の誠実さが良く伝わってくる。客の意思を尊重しながらもベストな写真を撮ろうとする。

 

 そんな弟の家で開かれた主人公の娘の誕生パーティ。主人公母娘と弟夫婦の4人の参加者のはずが、娘の恋人、弟の職場の女性、そして主人公の職場の友人と偽り、養子に出された娘もが参加して、にぎやかなパーティに。しかし、挨拶を交わし家を案内して回る主人公と弟の妻の間のぎこちないやりとりに、二人の間のわだかまりが垣間見える。

 

 このパーティの中で、家を案内する弟の妻が、トイレを紹介するたびに便器の蓋が開いていて、毎回きまり悪そうに蓋を閉じるシーンや、弟の職場の女性が食事中に汚れた手を拭くものが用意されてなくて困惑しているシーンは面白かった。素敵な家、素敵なパーティと、どんなに体裁よく見せようとしてもボロは出てしまうものだ。

 

 雨が降り、室内に場所を移しての娘の誕生日ケーキのシーン。何となく嫌な予感がしていたが、案の定、修羅場が訪れる。しかし、主人公は何で今それを言うのかなと、弟と同じことを思い、呆れてしまった。でも、こんな風にタイミング悪く余計なことを言い出す人はいる。彼女としては職場の同僚と偽る養子に出した娘が、つじつま合わせの嘘をつかなければいけない事に耐えられなかったのだろう。

 

 主人公の告白をきっかけに、その場の勢いで皆の心のわだかまりも吐き出され、状況は悪化していく。こんな状況に居合わせることになってしまった部外者には同情しかない。これをどうやって収拾させるつもりだ?と思っていたが、ここでの弟の頑張りに胸が熱くなった。これがなければ悲惨な結末が待ち構えていたかもしれない。

 

 そして、逆にこれが結果的に功を奏し、雨降って地固まるという事となった。やはり秘密や嘘は良くないという事だろう。養子に出された娘が、早い段階で育ての親にその事実を知らされていたおかげで心の余裕が出来ていた、というのが示唆的だ。どんなに隠そうとしても、また取り繕おうとしても、主人公の弟の写真館の客たちのように、その本当の素顔や関係性は他者になんとなく伝わってしまうものだ。

 

 序盤は全く幸せそうには見えなかった主人公の、ラストシーンでの本当に幸せそうな一言にグッと来た。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本 マイク・リー

 

出演 ブレンダ・ブレッシン/ティモシー・スポール/マリアンヌ・ジャン=バプティスト/クレア・ラッシュブルック
 

秘密と嘘 ニューマスター版 [DVD]

秘密と嘘 ニューマスター版 [DVD]

  • 発売日: 2010/04/23
  • メディア: DVD
 

秘密と嘘 - Wikipedia

 

 

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