★★☆☆☆
あらすじ
昔気質で皆から疎まれていたベテラン刑事は、パワハラで告発されて、警察音楽隊に異動を命じられる。
阿部寛主演、清野菜名、磯村勇斗ら出演。119分。
感想
警察音楽隊に異動となったベテラン刑事が主人公だ。まず刑事時代の主人公の描写が酷い。違法捜査はするし、態度は悪いし、県警本部長にも盾突く。破天荒だが結果は出すキャラということなのだろうが、今どきパワハラ、モラハラ当たり前のこんな奴はいないだろう。
しかも主人公は、コンプライアンスがうるさい的な不満もこぼしている。だが冷静に考えて、コンプラ意識の希薄な警察官なんてメチャクチャ怖い。これだけでホラー映画に出来そうなくらいだが、これを面白いと思っているらしい演出にゾッとする。
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主人公に限らず、皆が簡単に怒ったり不平を言ったり、揉めたりと、分かりやすく感情表現する。まるで幼稚園児みたいだ。アニメみたいなキャラ造形でリアリティがない。
そんな主人公が音楽隊へ異動となり、最初はやる気がなかったが、やがて音楽の楽しさに目覚め、人間的にも成長していく。そんな定番の展開を目指していたのだろうが、なぜかターニングポイントが一切描かれない。主人公がどこで音楽の楽しさに目覚めたのか、なぜ過去の行いを反省するようになったのかが全然わからず、このタイプの物語で得られるような高揚感は一切なかった。
それに他の演奏者たちがなぜ急にやる気になったのか、なぜ仲良くなったのかも伝わってこない。こういう映画ってそういうものでしょ?という雰囲気だけでやっている。後はお前が想像力で補え、と言われているかのようだ。
それから、主人公がリズムを取って押印し、それに気づいた不仲な同僚たちがそれに合わせて体を揺らすシーンや、険悪な関係の娘とセッションするシーンなどは、気持ちを一つにする音楽って気色悪い側面もあるなと、気付かせてしまう演出になっていた。全体的にどのシーンも演出が酷い。いちいちツッコんでいたらキリがないくらいだ。
クライマックスに突然、刑事サスペンスになるのも何で?と呆気に取られるし、時代錯誤な先輩の真似を得意げにしちゃう後輩には、え?と疑ってしまったしで、何から何までちぐはぐな映画だ。特に作り手の倫理観や社会規範は大丈夫?と不安になる。パワハラ告発したことを本人に明かして謝罪するシーンを、いい話として描く感覚が怖い。
そしてこの映画のいちばんダメなところは、警察音楽隊はやっぱり不要だな、と思わせてしまうところだろう。そもそも、まず最初に警察音楽隊の意義をちゃんと説明するべきだった。それをしないままに話を進められたら、何でほぼ素人のやる気もない人たちに税金を使い、人前で演奏できるレベルまでわざわざ練習させなければならないの?と思ってしまう。こんなの貴族の道楽だ。
音楽隊に懐疑的な警察本部長の言っていたことがもっともで、ふんわりとした疑念を確信に変えてしまう。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/原案 内田英治
出演 阿部寛/清野菜名/磯村勇斗/高杉真宙/板橋駿谷/モトーラ世理奈/見上愛/岡部たかし/渋川清彦/酒向芳/六平直政/光石研/倍賞美津子/小沢仁志