★★★☆☆
あらすじ
亡くなった両親が営んでいた食堂に一人住む男の元に、同棲していた妹が戻って来る。かぐや姫の曲「妹」を題材にした作品。
感想
冒頭の実家に帰ろうとする妹が地下鉄の駅に降り立ったシーンでの、たくさんの紙屑が風に舞うホームの汚さに引いてしまった。中盤には廃棄物にまみれた汚い海で海水浴をするシーンもあり、今はきれい好きな国民です、みたいな顔をしているが、昔はそうでもなかったのだなと思い知らされた。
もっと遡って明治頃の小説を読んだりすると、電車の窓から食べ終えた弁当箱を放り捨てたなんて記述が出てきてさらに引くわけだが、公衆衛生や環境美化の意識は豊かさと共に向上していくことがよく分かる。最近の日本はひところと比べるとまた街が汚くなってきたような気がするが、これは何を示唆しているのだろうか。
林隆三演じる兄が平気で女性を襲ったりして相変わらずワイルドな昭和が感じられる映画だが、三菱デリカにトラックがあったのかと驚いたり、動く岡本太郎デザインの飛行船(レインボー号)が見られたりと、色々なものが映り込んだ映像は文化的な資料としても興味深い。ちなみに後で調べたら、三菱デリカはそもそもトラックからスタートしたようで、つい最近の2011年ごろまで生産されていたらしい。
ストーリーの方は、兄妹以上の強いつながりを感じさせる兄妹を描いたものとなっている。妹の同棲相手の男にも妹がおり、こちらにも強い絆があることを匂わせて主人公の兄妹と対比させる構成となっているのが上手い。ただ、兄妹の微妙な距離感は曖昧にしか描かれないのでモヤモヤとしたものを感じてしまった。とはいえ、分かりやすく直接的に描かれても気持ち悪く感じてしまいそうなので難しいところだが。
妹の同棲相手やその兄妹に悲しいことや恐ろしいことが起きているのにも関わらず、どこかコミカルでとぼけた雰囲気をまとった不思議なトーンの映画だ。そんな中で妹を演じる秋吉久美子が可愛らしく、特に終盤の彼女はとても魅力的だった。登場人物のひとりも言っていたが、彼女にはどこか浮世離れしたオーラがある。
妹を無理やりみたいな形で送り出しておきながら、心のどこかでは戻ってきてくれることを願い、いつまでもその時を待とうとする兄のいじらしい姿が心に残る。
スタッフ/キャスト
監督 藤田敏八
脚本 内田栄一
出演 秋吉久美子/林隆三/吉田日出子/伊丹十三/初井言栄/村野武範/藤田弓子/藤原釜足/沢田みゆき
音楽 木田高介
関連する作品
題材となった曲