★★★★☆
あらすじ
休暇を過ごすためにタイのリゾート地、カオラックにやって来たアメリカ人一家は、突如、大津波に襲われる。
2004年のスマトラ沖地震で発生した大津波での実話を基にした作品。スペイン映画。113分。
感想
一家がリゾート地に向かう飛行機内のシーンから映画は始まる。乱気流による激しい揺れや着陸時の衝撃、到着後のホテルでのミキサーの不快な音などを強調することで、不吉な予感を高める演出が上手い。いつその時がやってくるのかとドキドキしてしまう。
そしてその時は突然やってくる。事前に地震や警報があるのかと思っていたので、何もないままにいきなり大津波が現れたのには驚いてしまった。当時は津波の警報システムなどが整備されていなかったからのようだが、これではどうしようもない。どうしていいのか分からずに彼らが立ちすくんでしまうのも理解できる。
そのまま一気に津波に飲み込まれ、あとは翻弄されるのみだ。あらゆるものを破壊して瓦礫と共にやってくる津波に、体を引き裂かれてあざだらけになっていく様子は恐ろしさ充分だった。主人公である母親のふくらはぎがざっくりと裂け、気付かぬうちに剥がれ落ちそうになっていたのは怖かった。
それでも流された主人公と長男がはぐれることなく一緒に居られたのは、もうそれだけで奇跡だろう。大けがも負っていることだし、後は二人が生き延びることだけに全精力を傾けるべきなのに、主人公は他の人も助けようとする。
彼女は病院に収容された後も隣のベッドの患者に声をかけたり、大きなケガなく動ける息子に、困っている人の手助けをするよう指示したりと、常に他人のことを気にかけていた。自身が死にそうで余裕なんて全くないはずなのにと不思議な気持ちにもなるが、感心してしまう。これは宗教的なものなのか、そもそもの人間性なのか、そうなる心境はどこから来ているのだろうか。なかなか出来ることではない。
その後は、離れ離れになってしまった一家が再会するまでが描かれる。あの状況で父親と次男三男も生きていたとはこれまた奇跡だ。さらに3つに分かれていた家族が一挙に再会してしまうのはさすがに出来過ぎな気がしないでもなかったが、そこに至るまでの描き方は見事だった。危うくすれ違いになりそうだったのに、それぞれの必死な想いが偶然を呼び、なんとか再会のチャンスを手繰り寄せることが出来た。そんな印象の感動の再会だった。
赤いボールや缶飲料などの細かい伏線を準備して、それをうまく使いながら丁寧に描いていく物語だ。大津波の映像はすさまじく、その後の家族の再会には心動かされた。だがこんな大変な出来事を物語として楽しんでしまっていいのだろうか?と後ろめたさを感じなくもない。また、主人公一家は災難だったねと帰ればいいだけだが、地元の人たちにとってはそれで終わりでないんだよなと思ったりもした。
スタッフ/キャスト
監督 J・A・バヨナ
出演 ナオミ・ワッツ
トム・ホランド/ジェラルディン・チャップリン