★★★☆☆
あらすじ
行方不明になった娘を何年も探し続ける男と、ホラー映画の効果音を作り出す音響効果技師の女。知られざる二人のつながりが明らかになっていく。
感想
行方不明の娘を長年探し続ける男と、映画の効果音を作る女、二人の姿が交互に描かれていく。
男は、若い女を雇って成長した娘を演じさせたり、ダークウェブで児童ポルノを漁って娘の姿を探したりと、もはや病的な領域に達している。性犯罪者のデータベースを独自に作り、小さな子供を連れた男を見れば拉致犯と決めつけてトラブルも起こしている。気持ちは分からないでもないが、いい加減、区切りをつけなくてはならない。
一方の女は、観客を震え上がらせる効果音を作ることで知られている。その方法は、実際に人間を切り刻み、その音を録音するという猟奇的なものだ。ただ、恐ろしいと言えば恐ろしいが、安直と言えば安直だ。どちらかというと、マツタケにローションを塗って握りつぶすとエイリアンの卵が孵化したみたいな音になる、みたいな、よくぞ思いついたなと思うような組み合わせを日々試している方が、変態じみてヤバい感じがしないでもない。ただ、それだと事件性が皆無ではある。
男は、区切りをつけるため、これが最後と決めて再生した映像の中で、ついに娘の声を発見する。そして、それを手がかりに犯人を探し始め、色々あって女に辿り着く。ここで積もりに積もった積年の怒りが爆発するのかと思ったら、そうとはならないのが面白い。証拠を見つけるために、膨大な音声ライブラリーを一つずつ聞く作業を女と共に始める。
共感の備蓄は底をつき、他人の苦しみの声が不快な音になる。他人の不幸の騒々しい果実。赤の他人の苦悶が彼の耳を痛めつけ、彼の胸にその赤の他人への憎悪が生まれる。(p236)
当然、どのテープにも殺されていった者たちの悲鳴が収められているのだが、いくつも聞いているうちに、男の憎悪が犯人から被害者たちに向かうようになっていくのが興味深い。今はSNSで弱者が簡単に声を上げられるようになったが、逆に弱者叩きの声も激しくなった。それにはこんな心理が影響しているのかもしれない。色々しんどい時代で、皆に心の余裕がなくなったことも原因だろうが、しんどい世の中にしているのはそういった不寛容なので、負のスパイラルが出来上がっているとも言える。
テープを聞くことで、女の過去も次第に浮かび上がってくる。さらに、両者の物語の背後には、より大きな陰謀があることも仄めかされており、トラウマによる異常な暴走に見えた二人の行動すらも、誰かの思惑によって操られていたのかと驚かされる。もしかしたら、自分らしく生きていると思っている我々も、誰かの意のままになっているだけなのかもしれない。そう考えると怖くなる。
著者
チャック・パラニューク
登場する作品
「ナインス・コンフィギュレーション(Ninth Configuration [DVD])」

