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個人的な映画・本・音楽についての鑑賞記録・感想文です。

「事件」 1978

事件

★★★★☆

 

あらすじ

 妊娠し同棲する交際相手の姉を殺した男が逮捕され、裁判が始まる。

 

感想

 丁寧に裁判の様子が描かれていく法廷ドラマだ。冒頭手続きから結審までの様子が順を追って描かれるので、裁判の仕組みを知るのにも役立ちそうだ。しかし、検察官が延々と起訴状を朗読する冒頭のシーンは見ているだけでもかったるい。いちいち住所を読み上げたりしないで、省略すればいいのにと思ってしまった。

 

 時々裁判の簡略化の議論が話題になることがあるが、裁判に関わることなどほとんどの人にとって人生で一度あるかないかなので、まず関心がないだろう。だから問題意識を持った人間が選挙に出て改革を訴えたとしても票にはつながらないし、現職の議員だって進んで取り組もうとはしない。つまり結局誰にも積極的に改革を進めようとするモチベーションがなく、だからいつまで経っても旧態依然のままの状態が続いてしまっているのだろう。こういうことは世の中にたくさんある。自動車教習所とかもそうだろう。

 

 裁判がすすむにつれ法廷で驚きの事実が明らかになり、大どんでん返しが起きるのかと思ったが、大体想像していたようなあらましが一つずつ丁寧に説明されていくだけだった。最初から真実を匂わすような演出がされているので、作り手もサスペンスは目指していなかったように思える。

 

 その代わりに見えてくるのは、事件に関わった人々の人間模様だ。事件とは関係ない後ろめたさから何かとごまかそうとするヤクザの男や、犯人の心変わりを認めたくないがために真実を捻じ曲げようとする恋人、後から新聞記事を読んで知った情報を加味して証言する目撃者など、偽証する気はないがそれぞれの事情で、都合が良いように真実を捻じ曲げてしまう人々がたくさん登場する。

 

 

 こんな人たちを相手に、真実を見極めなければならないのだから裁判官たちは大変だ。毎回の法廷のあと、ベテランの裁判長が若い判事たちに言って聞かせる裁判の心得は含蓄があり、重みがあった。犯人ですらなんでそんなことをしてしまったのか分からないと言ってしまうような状況で、先入観に囚われることなく裁判の内容だけで判決を決めることの難しさが伝わってくる。

 

 ところでこの裁判長を演じた佐分利信のゆっくりとした喋り方は、単に高齢のためなのか、重厚感を出そうとしての演技なのかが曖昧でよく分からず、なんだか冷や冷やした。

 

 それから、判決後に面会した犯人が見せた自分を責める様子を、感に堪えない感じで話す恩師に対し、良くあることだと豪快に笑い飛ばした丹波哲郎演じる弁護士の姿がとても印象的だった。滅多にないことに感傷的になってしまいがちな一般人と、場慣れしたプロとの違いを見せつけられたような気がした。これを頼もしいと思うのか、人の心がないと思うのかは受け手次第だろう。

 

 犯人が犯行後、どんな風に同棲相手の恋人と暮らしていたのか、それが描かれなかったのは心残りだが、見ごたえのある法廷ドラマ、人間ドラマだった。犯人の恋人が、ダニのようだとさえ言っていたヤクザの男と屈託なく会話するラストシーンだけでも、一筋縄ではいかない人間の複雑さが良く表れている。

 

スタッフ/キャスト

監督/製作 野村芳太郎

 

脚本 新藤兼人

 

原作 事件(新潮文庫)


出演

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永島敏行/松坂慶子/渡瀬恒彦/芦田伸介/山本圭/北林谷栄/穂積隆信/丹古母鬼馬二/綿引洪(綿引勝彦)/志賀勝/片桐竜次/成瀬正/乙羽信子/西村晃/佐分利信/森繁久彌

 

音楽 芥川也寸志/松田昌

 

事件

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事件 (小説) - Wikipedia

 

 

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