★★★☆☆
あらすじ
正義感の強い熱血漢の弁護士は、強姦罪で起訴された、日ごろから対立していた判事の弁護を引き受ける。
アル・パチーノ主演。原題は「...And Justice for All」。119分。
感想
正義感の強い弁護士が主人公だ。序盤は依頼人に親身になったり、判事にたてついたりと、彼の熱血漢ぶりが紹介される。それから本題の、日ごろから対立していた判事が起訴されて、その弁護人を務めることになった経緯が描かれていく。
しかし、この判事が起訴されたニュースを知った時の、他の弁護士たちのはしゃぎっぷりには引いてしまった。皆が嫌っていたとはいえ、被害者もいることだし、大喜びできるようなことではない。やはり弁護士はどこかおかしいのだなと偏見を強めてしまいそうになる。
その後は判事の事件の裁判がメインになっていくのかと思ったがそうでもない。同時進行で他の裁判などいくつかのエピソードが展開され、司法制度の問題点や、判事、検事、弁護士たちの不誠実な態度、そしてそれに翻弄される事件関係者たちの人生など、法廷の周辺で繰り広げられるドラマが描かれていく。浮き彫りになってくるのは、正義がどこかないがしろにされている、司法の場の欺瞞や矛盾だ。
主人公が反目する判事の弁護を引き受けることになったのも、政治的な圧力があったからだ。そして準備の過程で、判事の傲慢さをまざまざと見せつけられている。しかし判事は、起訴されたのに余裕の態度を見せているのがすごい。それだけ司法が恣意的に運用されているということなのだろう。
正義のために戦う主人公は様々な悲劇を目撃し、もはや冷静ではいられなくなった。判事の事件の最終弁論で、怒りが爆発するシーンは圧巻だ。そんなあからさまなことしなくても、もっとうまくやる方法があっただろうと思わなくもないが、裏でコソコソと検察側と協力したりしたらズルさが出てしまうので、これで良かったのだろう。
主人公が言っていたように、人々が正義ではなく、勝ち負けにこだわってしまうから司法の場は歪んでいく。それで無実の人間の人生が台無しになり、本当に犯罪者になってしまうこともあるし、事件を起こしても無罪となり、のうのうと生きている人もいる。そんな世界で正義について真面目に考え、取り組んでいたら、相棒の弁護士のようにまともでいられなくなるのだろう。主人公もそうなった。
正義を守るにはタフさが必要だということを思い知らされる。それに耐えられなくなった人は、自分を騙して変節したり、一発逆転を狙っていかがわしい主張に飛びついたりする。ラストで、おかしくなっていた同僚が何事もなかった顔をして復帰していたように、挫けても立ち直れるあきらめない力が重要だ。でもそれが一番難しい。新鮮さもバズるような面白さもない地道な道だ。
若者は「操りやすい存在」に過ぎないのか 国民民主の手法の危うさ [国民民主党]:朝日新聞
シリアスになりがちなタイプの映画だが、ところどころに笑いが散りばめられていて、重苦しい雰囲気になっていないのは好感が持てる。
スタッフ/キャスト
監督/製作 ノーマン・ジュイソン
脚本 バリー・レヴィンソン/ヴァレリー・カーティン
出演
ジャック・ウォーデン/ジョン・フォーサイス/リー・ストラスバーグ/ジェフリー・タンバー/クリスティーン・ラーティ/クレイグ・T・ネルソン
音楽 デイヴ・グルーシン