★★★★☆
あらすじ
シングルマザーの母親は、小学校に通う息子の異変に気付く。
是枝裕和監督、坂元裕二脚本。安藤サクラ、永山瑛太ら出演。126分。
感想
シングルマザーの母親が、息子が学校で担任教師に何かされたらしいと気付いたことから物語は始まる。当然、学校に真相を確認しに行くのだが、この時の学校の対応が酷い。質問にまともに答える気はなく、定型文を繰り返してその場をやり過ごそうとする。
そして永山瑛太演じる渦中の担任教師がすごかった。まともに相手の目を見ずにぶつぶつと喋り、言っちゃいけないことを言う。反省する様子もなく、謝罪の最中に急に飴を舐めだしたりして常識もない。ヤバすぎて逆に笑ってしまうほどだった。
これは、国のトップから始まったモラルハザードが、経済対策で目指していたトリクルダウンよりも着実に広く浸透してしまった昨今の日本の底の抜けっぷりをよく表していて、風刺としては悪くない。ただ物語としてはあまりにもステレオタイプで、どうなの?と不安になってしまった。
だがこの物語は、母親、担任教師、息子の視点で順番に同じ出来事を描く構成になっていた。そして母親の次に描かれた担任教師の視点では、彼はどこにでもいそうな普通の若い教師だった。そして母親が見ていたものとは全く別のストーリーが展開される。
これは誰の視点が真実というわけではなく、彼らには世界がそう見えているというだけのことだろう。それぞれにとっては、見えている世界が真実だ。他人にはどうする事も出来ない。カルト信者や陰謀論者も同じで、目を覚まさせるには彼らが見えていない、もしくは見ようとしない情報を与えることくらいしか出来ないが、見えているものしか信じようとしないのだから難しい。そしてこれは多かれ少なかれ誰にでも当てはまることだ。
それぞれの視点に立ってみると、彼ら自身には何の悪気もないことが分かる。彼らの世界の中で善なることをしようとしているだけだ。だが、息子に起きていたことが明らかになるにつれ、外から見ると少し引っ掛かっていた彼らの言動が、少年にプレッシャーを与えていたことが分かってくる。子供には普通の人生をとか、男は男らしくとか、彼らの悪意ない言葉が他人を傷つけている。
これらの言葉はその世界観で生きる本人には何の問題もないが、別の世界観を持つ他人には呪いになることもある。大人が子供に世界観を押し付けるのはしつけとして仕方がない部分があるが、こういうことがあるということは自覚しておきたいものだ。
教師の恋人もそうだったが、大人同士でも相手に世界観を押し付けることはよくある。勝手に自分を決めつける他人に対して、教師も少年も「僕は可哀想じゃないよ」と抗弁していたのは印象的だ。
分かりやすい怪物なんていないが、誰もが悪意なくこんなことをしてしまう怪物のかけらのようなものは持っている。時にそれらが結びつき、怪物となって誰かに襲い掛かることもある。メインでは描かれなかった教師や生徒の言動にも、そんな怪物のかけらのようなものを感じさせる何かが見え隠れしていた。
火事を起点に、それぞれの視点から同じストーリーが繰り返されるが、まったく同じシーンではなく、少し時間をずらしてその前後を描くことで真相がはっきりと見えてくる演出は見事だった。単純にミステリーとしても楽しめた。
すべてが明らかになってみると、あんなふうに見えていた母親が一番認識が歪んでいるのかなと思ってしまうが、学校はブラックボックスで外からは何も見えないようになっているから仕方がないのかもしれない。
逃げ腰の学校にもうんざりしたが、全国に40万人もいるらしい小学校教師が知見を集結し、適切な対応能力を底上げしていけばいいのに、なぜか各教師の個人戦、もしくは学校単位の戦いをしているのだからしょうもない。きっと車輪の再発明が何度もされていることだろう。
子供はそんな世の中が形作る怪物と戦いながら大人になっていく。どうせ生まれ変わらない、このまま生きていけばいいんだと、光に向かって駆け出していく少年二人のラストシーンに、希望を感じて明るい気持ちになる。
スタッフ/キャスト
監督/編集
脚本 坂元裕二
製作 川村元気/山田兼司/伴瀬萌/伊藤太一/田口聖
出演 安藤サクラ/永山瑛太/黒川想矢/柊木陽太/高畑充希/角田晃広/中村獅童/野呂佳代/黒田大輔/田中裕子/森岡龍/ゆってぃ
音楽 坂本龍一
撮影 近藤龍人


