★★★☆☆
あらすじ
コンクールを終え、帰ろうとしていた合唱部部長の中学生男子は、見知らぬヤクザの男に突然カラオケに誘われる。
綾野剛、芳根京子ら出演。山下敦弘監督、野木亜紀子脚本。漫画原作。107分。
感想
中学生男子の主人公が、ヤクザの男にカラオケを教える物語だ。そもそもがあり得ない話なのでファンタジーなのだが、カラオケが上手くなりたいヤクザがなぜ、わざわざ中学生に教えてもらおうと思ったのかが分からない。別のヤクザのように教室に通ってもいいし、体面を気にするならまともな先生に頼んで、同じように特別にカラオケ屋などで個人教授してもらえばいいだけだ。
それから同性とはいえ、大人と子供が密室で二人きりという状況にも際どさを感じてしまう。その際どさを楽しむための物語と言われたらそれまでだが。
二人の関係に納得できないまま見ることになったが、彼らの最初の出会いがうまく描かれていないことも影響しているだろう。たまたま立ち寄った合唱コンクール会場で、主人公の歌に感動したヤクザが声をかけたのが始まりだが、合唱シーンが普通すぎて、どこにヤクザが感銘を受けたのかが全く不明でリアリティがなかった。
このシーンだけでなく全体を通して、どの合唱シーンも退屈で全然力が入っていない。きっと監督に関心がなく、適当に撮っているのだろうなと思ってしまった。
主人公とヤクザのやりとりは、本来面白いはずなのになぜか面白くなっていない、どこかズレた印象を受けるものとなっている。普通にやればいいのにオフビートにしようとしたからなのか、元々オフビートなのにさらにそれをオフビートにしようとしたからなのか、白けた空気が常に漂っていてあまり笑えない。「紅」を何度も歌うのもやり過ぎだし、ヤクザの名前のエピソードをわざわざ回想シーンでやる必然性も感じられず、どこか空回りしている。
また、カラオケの練習自体もそれっぽいアドバイスはしているが、ごくわずかだ。カラオケが上手くなりたいと思っている人は多いだろうから、そこはもうちょっとハウツーものっぽい感じを出しても良かったような気がする。見終わった後に、劇中でやってた特訓を試してみたい、カラオケに行きたい、とはならない。
いろいろと不満を感じてしまう映画だが、メインのストーリー自体はよく出来ている。ヤクザと中学生男子という本来交わるはずのない二人が、カラオケを通してふんわりとした交流を深め、互いに学ぶ。そしてクライマックスで、それまで一切歌わなかった主人公がヤクザのために熱唱するというのもいい。
あまり深く考えずに見るなら、そこそこ楽しめるのかもしれない。とはいえ、ヤクザを「見た目は怖いが実は可愛いおじさんたち」と描くのは、あまりにファンタジーが過ぎるだろう。歯向かいそうもないか弱い男子中学生を標的にしている時点で十分ヤクザ的だと言えるのかもしれないが、二人が絆を深め、信頼関係を築きかけたところで、やっぱりヤクザはヤバいわ、相容れないわ、と越えられない壁を感じさせるようなエグいシーンが欲しかった。などと、次から次と何か言いたくなる映画だ。
スタッフ/キャスト
監督
脚本 野木亜紀子
出演 綾野剛/齋藤潤/芳根京子/橋本じゅん/やべきょうすけ/吉永秀平/チャンス大城/RED RICE/坂井真紀/宮崎吐夢/ヒコロヒー/加藤雅也*/北村一輝/テイ龍進
*友情出演
音楽 世武裕子


