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「けものの眠り」 1960

けものの眠り

★★★☆☆

 

あらすじ

 香港赴任から戻ったばかりの恋人の父親が失踪したことに犯罪の匂いを嗅ぎ取り、調査を始めた新聞記者。85分。

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感想

 香港から帰国後、様子のおかしかった恋人の父親が失踪した事から物語は始まる。半信半疑で調べ始めた新聞記者の主人公が、事件性を感じて調査に本腰を入れようとしたところでその父親が帰ってくる展開は、肩透かしを食らった気分になったが意外性はあった。

 

 だが調査の過程で殺人事件が起きており、主人公はその後も取材を続ける。ストーリーとは関係ないが、この時代の車はどれもおもちゃみたいで、いちいち気になってしまった。特に救急車は丸っこくて可愛らしい。当時は誰も何とも思っていなかっただろうが、これらの車が走る街の様子には今見るとグッとくるものがある。

 

 真面目一筋で生きてきた男が報われないことに憤り、悪に手を染めてしまう物語だ。居たたまれない気分になるが、中盤でおおよその全体像が見えた時点でだいぶ興味は薄れてしまった。すでに事件のあらましが分かった後で、犯人一味から自白を引き出そうとするシーンは、緊迫感もなく冗長だった。時間が長く感じる。

 

 

 恋人の父親は今だと、どうせ頑張ったところでこの先良いことはないだろうからと、闇バイトに手を出して一発逆転を狙う若者みたいなものだろうか。きっと報われると信じて頑張れることが出来た分だけ、昔は幸せだったのかもしれない。今は親ガチャに外れたらどうせ頑張ったところで無駄だとあきらめてしまう社会だ。停滞するのも当然だ。

 

 ラストで恋人の父親は、追い詰められて自らケリをつけようとする。何もそこまですることはないのにと思ってしまったが、これを美学だと思っているから駄目なのだろう。これでは真相が分からなくなるし、被害者も怒りのやり場がなくなってしまう。

 

 彼の行為は、周りの人のことを一切考えておらず、自分の気持ちを最優先にした単なる我がままでしかない。真相究明も対策も出来ず、花火のように終わってしまうだけだ。そして同じような花火が何度も打ち上げられる社会が続くことになる。

 

スタッフ/キャスト

監督 鈴木清順

 

脚本 池田一朗

 

原作 けものの眠り (徳間文庫 118-2)

 

出演 長門裕之/吉行和子/芦田伸介/小沢昭一/信欣三/山岡久乃/初井言栄/野呂圭介

 

けものの眠り

 

 

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