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「キッチン」 1989

キッチン

★★★☆☆

 

あらすじ

 育ててくれた祖母を失い天涯孤独になった若い女は、知人の親子と一緒に暮らし始める。

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 吉本ばななの同名小説を森田芳光監督が映画化。川原亜矢子、松田ケイジ、橋爪功ら出演。106分。

 

感想

 育ててくれた祖母が死んで一人きりとなり、声をかけてくれた知人男性の家に引っ越した若い女が主人公だ。化粧気はなく、無地の素っ気ない服を着て、今ならオーガニックでていねいな暮らしをしていそうと言われてしまいそうな女性だ。

 

 表情もいつも朴訥とした笑顔を浮かべている。彼女と一緒に暮らすことになった男もそんな感じで、二人の関係に性的な匂いはしない。この二人に、男の父で今は母親になっている人物を加えた三人暮らしの様子が描かれていく。

 

 みんな優しく中性的で、ふわふわとしたファンタジーのように一見見える。だがよく目を凝らせば、祖母を失った主人公の哀しみや夢のために不本意な仕事をする男の葛藤、片親で子供を育ててきた母親の気苦労など、それぞれに一人で抱えているものがあることが垣間見える。

 

 

 そんな心の内を互いに吐露するでも、踏み込んでいくこともしないで、ただキッチンで生み出される料理を囲んで皆がニコニコとしている。三人が表面的にではなく、深いところでつながっていることが伝わってくる。これはそれぞれがちゃんと自立していて、そして相手を信頼しているからなのだろう。互いの存在感をアピールするような暑苦しいやり取りは必要ない。

 

 男との仲を疑って乗り込んで来た女に、主人公が「あまりしつこいと刺しちゃいますけど、いいですか?」と淡々と言い放つシーンは、彼女の芯の強さを窺わせるものだった。それを微塵も感じさせず、ふんわりニコニコと暮らす主人公の姿はとてもしなやかだ。

 

 そして最終的にはちゃっかり男と付き合っているのもいい。他人の思惑など関係なく、自分たちが思うように生きている。これは一時的に母親が離脱して、三人のバランスが崩れたことも影響しているだろう。

 

 主人公らのしなやかさが心に残る映画だ。だが今だと、長い物に巻かれてただ流されて生きるだけの、芯のないナチュラルな生き方も含めて、割と一般的な態度で、そこまで新鮮味はない。逆に当時は、皆それだけ肩ひじ張って生きていたのかと嘆息してしまう。それが日本の発展を支えていた面もあるのだろう。

 

 今だったらきっとそこまで強調して演出しないだろう橋爪功演じる母親役なども含めて、なんだかんだで日本もそれなりに意識は進歩しているのだなと実感させられる映画だ。今はその揺り戻しの真っ最中だが。

 

スタッフ/キャスト

監督/脚本

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原作 キッチン

 

出演 川原亜矢子/松田ケイジ/橋爪功/中島陽典/浦江アキコ/入船亭扇橋/四谷シモン/浜美枝

 

キッチン

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  • 川原亜矢子
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キッチン (小説) - Wikipedia

 

 

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