★★★☆☆
あらすじ
マッチ工場に勤めて両親を養う少女は、ある夜に出会った男と一夜を共にする。
労働者三部作の第3作目。フィンランド映画。69分。
感想
主人公は、マッチ工場に勤める少女だ。冒頭に、一本の丸太から大量のマッチが出来上がっていく過程が映し出される。こんな風に作られているのかと興味深かったが、それと同時に大量消費社会の便利さと味気なさ、その功罪を感じてしまう映像だった。
そんな工場の歯車の一つとして単純作業をくり返している主人公は、家に帰れば働かない母親とその恋人に給料を取られ、家事もやらされる虐げられた生活を送っている。気晴らしに夜の街に繰り出してみたりもするが、誰にも相手にされない。
だが、思い切って買った赤いドレスのおかげで、彼女は一人の男性と知り合うことが出来た。ようやく人生が好転し始めたと喜ぶのだが、相手はほんの遊びのつもりだった。そんな事とは思いもよらず、けなげに男からの連絡を待ち、待ちきれずに男の家に行ったりしてしまう彼女の姿は切ない。そして急に不安になり、静かに涙を流すシーンにはグッときた。
男の真意が分かって悲しむ主人公に、新たな問題が生じる。それに対する男のリアクションを楽天的に考えている彼女の無邪気さには、幼いものを感じてしまった。まだ世界に希望を見ている。そしてさらに傷ついた彼女に対する母親の仕打ちは酷かった。まるでおとぎ話に出てくる悪い母親のようだ。
絶望した主人公は、思い切った行動を開始する。かなりショッキングなことをするのだが、淡々と描かれるのでどこかユーモラスだ。その途中で立ち寄ったバーで、言い寄ってきた男に当然のように同じ仕打ちをするシーンは、男の不運ぶりに思わず笑ってしまった。
台詞は少なく、静かに淡々と展開する物語だ。マッチ売りの少女は売り物のマッチで儚い夢を見ただけだったが、マッチ工場の少女は、得た賃金で買ったドレスで儚い夢を見て、さらに買った殺鼠剤で復讐をする。手にしたお金の使い方次第で、いろんな可能性が広がる資本主義社会は、そんなに悪いものではないってことなのかもしれない。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/製作/編集 アキ・カウリスマキ
出演 カティ・オウティネン/ヴェサ・ヴィエリッコ/エリナ・サロ/エスコ・ニッカリ/シル・セッパラ
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労働者三部作