★★★☆☆
あらすじ
夫を交通事故で失った女は、加害者の男と何度か面会する。
感想
自動車事故の被害者遺族の女と加害者との間に芽生えた愛。正直、全然共感できなくて困った。 加害者と被害者の関係にあることを知らなかったのならまだしも、がっつりと分かっていたのに恋になど落ちるのかと腑に落ちない。どうしてもあり得ないよなと思ってしまう。
そもそも夫が交通事故で死んでしまったことに対して、皆の反応が淡白なのが気になる。妻はそこそこ落ち込んでいるようではあるが、夫の両親は遺族年金を手に入れようと躍起になっているし、妻の親類は淡々としているし、加害者もなぜか憮然とした表情で葬儀に訪れる。
それぞれの悲しみを深く描いていないだけなのかもしれないが、皆の切り替えの早さに驚く。まだ戦争を体験した人がほとんどだろうし、病気で死ぬ人も多かっただろうから、今とは「死」の捉え方がだいぶ違っているのかもしれない。
そしてこの禁断の愛を描くメロドラマは、加害者がスター加山雄三だから成立しているともいえる。相手が事故の事を思い出すから会いたくないと言ってるにもかかわらず頻繁に会いに行き、こんなに謝罪しているのに許してくれないなんて、いつまで僕を苦しめるつもりだと食ってかかる。挙句の果てには、僕はあなたが好きです、とか言ってしまう。こんなの、加山雄三の魅力ありきで、そうじゃなかったら、ただの無邪気なサイコパスだろう。
サイコパスでないとしたら、こんな幼稚な態度は子供と言ってもいいかもしれない。日本の女性は、こんな子供の様な男たちの相手をしてあげなければいけないから大変だ。
物語的にはほとんど共感できなかったが、気持ちが揺れる主人公を演じる司葉子の繊細な表情の演技には惹きつけられた。具体的で直接的な描写はほぼないのだが、妙に艶めかしい空気を漂わせている。
そして、自分の中ではお年寄りのイメージが強い役者陣が、当然だが皆若々しくて、誰にでも若い時はあってそして年老いていくのだなと、妙に感慨深くもなった。
スタッフ/キャスト
監督 成瀬巳喜男
出演 司葉子/加山雄三/森光子/浜美枝/草笛光子/加東大介/中村伸郎/浦辺粂子/左卜全/赤木春恵
音楽 武満徹