★★★☆☆
あらすじ
小さな国とそれを取り囲むように存在する大国。小国の異変をきっかけに諍いが起き、フィルという名の男が大国で台頭する。中編小説。
感想
小国の人口は7人。だけど国土が狭すぎて1人しかいることが出来ず、他の6人は大国の場所を少しだけ借りて小さくなっているという、人を食ったような面白い設定の物語だ。しかも読んでいると、登場人物たちは人間ではなく、どうやら機械のような謎の生き物らしいことも分かってくる。なんとも不思議な世界観だ。
だがそこで展開されるのは、小国に対する大国の侵害行為だ。いつもなんとなく視界に入って気にしていた小国人たちを、ふとしたことがきっかけとなって、大国人たちが迫害し始める。そしてそこには台頭してきた一人の過激なリーダーの存在がある。現在でもニュースで見られるし、歴史を振り返れば数えきれないほど何度も繰り返されてきた集団同士の争いごとが、寓話的に描かれていく。
そんな争いごとでよく見られる特徴が、物語の中にメタファーとしてあちこちに散りばめられていて、暗澹とした気持ちになってしまう。
「ここだけの話」とフィルが言った。「君たちとしばらく行動を共にしてみて、私は内心こう思っているんだ。われわれ外ホーナー人は寛容の徳をもって知られているが、いっそ”寛容の徳”を”驚くべき知性”に看板替えしたほうがいいんじゃないか、とね」
p18
特に争いに前のめりな人たちが、必要以上に自分たちの集団を持ち上げようとするのは何なのだろう?同時に相手を大げさに非難し、貶めようとする。だがこれは自分自身に対するコンプレックスの裏返しなのが丸見えで、見ているこちらが恥ずかしくなってしまう。リーダーは、そんな自己評価の低い人間たちを持ち上げ、くすぐるようなことを言って集団としての優越感を刺激する。カルトな集団の出来上がりだ。
おそらく著者は日本の事などほとんど意識せずにこの小説を書いたと思うが、それでも読んでいると色々と日本と周辺諸国との関係を連想してしまい、頭痛がしてきた。きっとどこの国の人間が読んでも同じように、自国と周辺国家の関係を思い浮かべてしまうはずだ。他人がやると馬鹿だなとすぐ分かるのに、自分が同じことをしたら案外そうとは気づかないものなので、よく読んで教訓としたい物語だ。
だが「フィルの時代」が終焉を迎えた時、あんなに妄信していたくせに「俺は分かってた」とシレっと手のひら返しをする庶民たちを見ていると、きっと永遠に人は学ばず、馬鹿げた争いごとはなくならないのだろうと思ってしまう。
著者
ジョージ・ソーンダーズ